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外付けHDDが一番安心な件

新章はじまりました。

 僕とディートはそおっとマンションの部屋に戻ってきた。

 ひょっとしてリアが起きているのではと二人で和室を覗く。


「心配したけど……ぐっすりだね。音も少しはしたと思ったんだけど」

「よほど疲れてるのね。寝かせてあげましょう」


 ディートが優しい声で言った。

 実はそうなんじゃないかなあと思ったことを聞いてみた。


「ディートってリアのことが嫌いじゃないだろ」


 少しの沈黙の後に彼女は言った。


「この子はお節介を押し付けてくるけど偽善ではないからね」


 なるほど。やっぱり推測通りだった。

 ディートが本当にリアを嫌いだったらさっきだって僕のコミュニティと言っていいのか、ともかくこの部屋からも、追いだそうと言うに決まっている。

 それは言わなかったのだ。


「じゃあなんで挑発するようなことばっかり言うのさ」

「別に慣れ合う必要もないじゃない」

「馴れ合わなくてもいいから仲良くするように努力してよ」

「努力はしてみるわ」


 絶対しないな。しかし今までのディートの生き方を変えてくれと説得するには眠すぎた。


「とりあえず、そろそろ夜があけるけど寝ないか?」

「ねえねえ。トオルのベッドで一緒に寝てもいい? ブルマを着て寝てあげるからさ」

「ダメ! リアと約束しただろ」

「ふんっ!」


 僕だって寝れるものなら寝たいよ。

 洋室と和室に別れる。

 ステータスやスキルのことは大体わかったし、これからもディートに教えてもらえることになった。

 なぜかダンジョンマスターを目指せということになったからレベル上げも協力してくれるだろう。

 もちろんまだ興奮も残っているが、とりあえず安心して寝ることができそうだ。


◆◆◆


「おはようございます! 大賢者様! 朝ですよ~朝ですよ~」


 寝たばかりなのに元気な声で起こされる。

 なにごとかと思ったらリアがベッドの脇で挨拶をしていた。

 朝日の陽光で彼女の黄金色の毛と笑顔が光り輝いる。

 しかし、今はそれを見ても眠かった。


「いや、まだ早いですよ。眠くて眠くて」


 実際8時だった。まだ早いよ。再び眠ろうとする。


「また寝ちゃうと生活リズムが崩れますよ。もう相当遅い時間ですよ」


 ん? なんか変だぞ?

 僕は起きてベッドに座った。


「なんで今が朝で遅い時間だってわかるんですか?」


 そもそも8時は遅い時間ではないと思うが、窓が石壁に見えるリアが朝だとわかるのはおかしい。


「もう大賢者様、寝ぼけているんですか?」


 リアがやはり洋室の小さい窓を指差す。


「石壁が陽の光みたいに輝いてるじゃないですか?」


 理解した。リア、いや洞窟側の人にはそう見えるのね。


「これって大賢者様がダンジョンで健康的に生活できるように作ったアーティファクトなんでしょう? なら起きましょう!」


 手を引っ張って起こされた。

 美少女からこんな起こされ方をするのは夢であったはずなのに実際はまだ寝ていたかった。

 僕はゾンビのような歩き方で、自分の意思とは関係なく洗面所に引っ張られていった。


「さあ、顔を洗って歯を磨いてください。終わったらダイニングに来てくださいね」


 リアはそういうとキッチンのほうに行った。

 隣にはやはりゾンビのような動きをしているディートがいた。

 ちなみにやはりブルマを着たまま寝たようだ。気に入ったのかもしれない。


「おはよう……お節介騎士って言われてるのがわかったよ」

「おはよう……でしょ」


 二人でノロノロと顔を洗って歯を磨く。

 さっき言われたままにダイニングに行って椅子に座ると黒い物体がお皿の上に出てきた。


「なにこれ?」


 僕が聞いた。


「昨日、トール様が作ってくれた料理を見てたんです。朝食に作りました」


 こんな料理はもちろん作っていない。フォークで押すと中に少しだけ残った黄色の物体が出てきて卵の黄身と理解できた。


「トオルが仲良くしろっていうから我慢して起きてきたのに、これは嫌がらせなの?」


 ディートが昨日、リアに出していたような冷たい声で言った。

 意外にもディートは僕の要望を聞いてくれていたらしい。


「ご、ごめんなさい。トール様のアーティファクトは便利なんですけど使い方が難しくて」


 ちょっと見てただけでよくコンロが使えたなとは思うけど、それにしても使えたならこんな黒焦げになるだろうか。


「私、ずっと食べてないからすっごくお腹減ってるのに」


 美人エルフの目がキリキリと鋭くなっていく。

 僕とリアは昨日ハンバーグを食べているが、きっとディートはなにも食べていないだろう。

 ディートはダンジョン探索に黒革のウェストポーチをしていたが、質も量も十分な食料が入っていたとは思えない。


「わかったわかった。とりあえず朝は僕が作りなおすからお昼は三人で美味しいものでも食べようよ」

「ううう。すいません」


 フルーツグラノーラの箱をあけてお皿に盛った。そのまま牛乳をかけて食べる人もいるけど砂糖を入れた方が美味しいだろう。

 すぐに三つのお皿がテーブルに置かれた。


「す、すごい早いですね」

「は、早いけどこれ美味しいの? 牛乳かけたみたいだけど」


 どうも二人はフルーツグラノーラの味を警戒しているようだ。

 食べ方を実演して上げた。


「美味しいよ。小さい干しフルーツがはいってるんだよ」


 僕が美味しそうに食べると二人も覚悟を決めたようだ。


「あ……甘い! すっごく美味しいです」

「うん。美味しいわね。あんなに早く出てきたから心配しちゃった」


◆◆◆


 食事の後、リアが整理整頓をしたいと言い出した。


「大賢者様が住んでいるこの部屋は不思議な紙の箱を無造作に置きすぎです」


 ダンボールのことか。

 そりゃ引っ越ししてすぐだからね。


「私に整理整頓させてください」

「うーん。そりゃありがたいんだけど」


 一応、オタクグッズは和室の押し入れの中に投げ込んでいる。

 押し入れの中は禁書だから触るなと言ってあるから、まあ大丈夫だろうか?

 こっちで指示をすればいいし。


「じゃあ、お願いするよ。僕は洋室にいるからわかんないことがあったら聞いて」


 ちょうどパソコンの周りをやりたかったしちょうど良いかもしれない。

 リアは台所の整理整頓からやってくれるようだ。

 異様に張り切っていた。


 僕は洋室でダンボールを開封していた。

 机はもう設置してあるのでパソコンを置くところからだ。

 ディートが僕の様子を見ながら、後ろのベッドで座って上下していた。

 体操着の下でスライムが揺れている。ブルマーからの太ももも陽光を浴びてまぶしい。

 相変わらず、無意識の色気が凄い。


「ああ、これ、凄い、気持ちいいベッド」


 寝ちゃわないといいけど。

 モニターから机の上に設置する。


「これが例のパソコンとかいうの?」

「正確にはこれはパソコンと繋げるモニターなんだ。ここにダンジョン内の様子を映せるようになると思う。そしてこっちが……よっこらしょ。パソコンさ」


 大型のタワータイプなので机の下においてモニターと接続する。


「おっし。壊れてないか電源を入れてるか……うん、大丈夫みたいだ」


 ディートはOSの起動画面に一瞬ビクッとしたみたいだが、すぐに疑問を言った。

 興味があるらしい。


「変な青い画面が出てきたけどダンジョンの映像じゃないわよ」

「ダンジョンの映像にするのはすぐにはできないよ」

「そりゃそうよね」

「でも凄いものを見せてあげるよ」

「凄いもの?」


 凄いものを見せてあげると言ってもお宝映像ではない。

 むしろそれは早い段階に外付けHDDに隠さなければならないだろう。

 その重大なミッションは後でやるとして……。


「あったあった」


 不動産屋から受け取っていたネットの接続キットだ。

 この物件は3万円に別料金で5千円かかるがすぐに光回線のネットができる環境が整っていることも魅力だった。


「うん。ネットにも繋がったようだ。ヨーチューブをクリックして」

「な、なにこれ? よ、妖精? じゃないわよね」


 ディートはモニターに写るライブ会場のギタリストを触っていた。


「ははは。その人は音楽家だよ。今はまだスピーカー付けてないから音は出ないけどね」


 まあディートがいなかったらミクちゃんの曲を聞いてると思うけどね。

 少し格好つけた。

 モニターに釘付けのディートをほおって台所に行く。

 リアの様子が心配だったからだ。


「リア~」

「あ、トール様」


 僕が既に設置してあった台所の食器棚には、僕のおパンツやTシャツが綺麗にたたまれて入っていた。

 そして僕の目には綺麗に掃除してあるように見える台所を雑巾でさらに磨き上げていた。


「が、頑張ってるね」

「はい! お料理もお掃除も大好きなんです。お料理は失敗しちゃったけど」


 料理だけじゃなく、お掃除もどこかズレているような気がしてならない。

 でも物凄く楽しそうに一生懸命掃除をしているのでなにもいうことはできなかった。

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