レベル上げのついでにダンジョンマスターを目指すことにした件
「マジか?」
「う、うん。私、47が限界で48になってたのはスクール水着のおかげだと思ってたのに、脱いでも48のママだったから……。コーラを飲まされた時のトオルのチューが原因かなって」
それでさっきの無理やりな状況が起きたのか。
「それで試した結果……どうなんだ?」
「49になったの! チューすると成長限界無しが少しうつるのかな?」
「マジかよ。スキルの成長限界無しがチューでうつるなんて聞いたことあるのか?」
「ないよ。そんなことがあったら凄く噂になってるって」
そりゃそうだろうな。だからこそディートのあの喜び様なのだ。
「でも成長限界をうつせるような能力ってスキルとして表示されたりするんじゃないか?」
「トオルの世界の不思議なのかな? あるいはレアなユニークスキルなんかだと自分でも見えない潜在スキルなんて場合も極稀にあって人物鑑定のスキルレベルの高い人なら見れるかも」
「人物鑑定スキル!? そんな便利なものもあるのか」
「無職は鑑定系スキルも覚えるから、レベルを上がればいずれ覚えるよ」
「無職、意外と凄いじゃんよ!」
「魔法系も覚えるしね」
「な、なんだと?」
無職すげーじゃないか。
「代わりに適した職業の何倍もあるいは何十倍もレベルをあげないと覚えないの」
「うへっ」
「それに平均的には15前後って言われている成長限界があるからスキルを覚えられないで終わるの。スキルはレベルが上がった時に覚えることが多いから」
「えっ? でも僕には成長限界はないんだよね?」
「そそ。だからさっき言ったようにいずれは覚えられるよ。寿命が来る前に文字通り山ほどモンスターを倒せればだけど」
モンスターを山ほどか。なんとかなるかもしれない。
でも寿命はどうにもならないだろうなと考えているとディートが身を寄せてきた。
なぜか目をつぶって顔を近づけてくる。
「な、なにさ」
「もう! チューに決まってるじゃない!」
「ちょっちょっと待てよ」
「なによ。私の成長限界を上げるのに協力してくれないの?」
「えええ!?」
「私、何十年も成長なしで冒険者してたのよ! モンスターを倒しても倒しても強くなれないし。後から来る成長限界が高い奴に抜かされていくし!」
ううう。そりゃ確かに可哀想だ。だが……。
「わ、わかったよ。また成長限界に達したらするって」
「なによ。いいじゃない。もったいぶらなくたって!」
僕の心にはある少女の笑顔が浮かんでいた。
「あーあーあー! リアね!」
ディートが真っ赤になる。これは照れではないだろう。
「好きなの?」
「……そりゃ嫌いじゃないさ……気になるしさ」
目の前の女の子が強がりだというのはもうなんとなくわかっている。
目の端には光るものがあるのを見なくても。それに……。
「ディートも……」
「え?」
少しの沈黙の後、聞かれた。
「私もって」
「同じぐらい……」
何もかも正直に言うことがいつでも正しいとは思っていないが、本当のことを言う以外なかった。
「ふ、ふーん。そうなんだぁ。そうなんだぁ」
ディートは自分も真っ赤な癖に下を向いた僕の顔を覗き込もうとする。
「ふ、普通のこういう場合、女の子は怒るんじゃないか?」
「私はそんなに心狭くないわよ。あの子は知らないけどね」
「そんなもんなのか?」
「先にあの子を選んでもいいわよ」
「え? ど、どういうことだよ?」
ひょっとしてディートは僕のことなどどうでもよくて成長限界の解除が欲しいだけなのだろうか。
「も、もう! 好きよ。好きだけど! あの子は人間なんだから先に死んじゃうじゃない」
「え?」
「長くても80年後にはそしたら私がトオルを独占するわ」
強気に戻ったようにディートは妖しく笑う。
長命種のエルフとして自信満々って顔だが……。
「いや80年も経ったらリアだけじゃなくて僕も死ぬからね」
80年後にディートと付き合うかどうかはともかく、またさっきの寿命の問題に突き当たった。
トンスキホーテで少し考えたレベル上げの方法があっても、こればかりはどうにもならない。
僕は困ってつぶやいた。
「簡単にレベルアップする方法はありそうなんだけどな。寿命なんてどうにもならないよ……」
ディートも困ったようにつぶやく。
「寿命を延ばす方法はわかっているの。でもそれを実現するためにはレベルもの凄く上げないと……」
お互いのつぶやきが、お互いを驚かせる。
顔を見合わせた。
「トオル! 簡単にレベルアップする方法ってどうやるの!?」
「あ、ああ! 教えるから、その後に寿命をのばす方法を教えてくれ」
◆◆◆
僕はトンキホーテで考えた方法をディート話してみた。
「どう思う? 僕の世界では養殖も盛んに行われてるんだ。言ってしまえば畜産みたいなもんだよ」
「ト、トオル。す、凄い発想するわね。モンスターの養殖か。駆除対象のモンスターをダンジョンで養殖するなんて盲点だったわ……」
ギルドから報酬をもらったり、生き残るために必死でモンスターと戦ってたディート達と僕では、モンスターの考え方が違かったのが良かったのかもしれない。
「そのカメラの映像とやらをパソコンで見ながら罠で倒すっていうのは私もトンスキホーテっていうところに行かないとわからないけど、きっとできると思う」
「おお! マジか!」
「うん。私の世界にも罠師っていう職業があるから。でもパソコンを見ながらあの心地良いマンションってとこの部屋でボタンを押してればいいだけなんて……」
「うん。ポテチを食べたり、コーラを飲みながらゲーム感覚でね」
引き篭もりには最高だ。
「す、凄いけど、二百年も流した私の汗と血はなんだったのよお~」
ディートは頭を抱え込んだ。
「よーし! じゃあ寿命のほうを教えてくれ。ディート。おーいディート」
「ダンジョンマスター……」
はい。ダンジョンマスター?
ディートは頭を抱えたまま投げやりに言った。
「なんだそれ?」
「一言で言えばスキルよ。ダンジョンのマスターになれるスキル」
「……ダンジョンの主人ってことか」
「ダンジョンの最下層に行って今のダンジョンマスターからスキルを引き継ぐの。ヨーミのダンジョンにもダンジョンマスターが居るだろうと言われているわ」
「つまり辿り着くために強くないといけないってことだな」
ディートがうなずく。
「しかも引き継ぎを拒否されれば、戦いになるでしょうね。それに勝たなければならないわ」
「なるほど。強さが必要なのはわかった。けど寿命とどういう関係がある」
「ダンジョンマスターのスキルを持っていれば、年を取ることはないわ」
「な、なんだって~!? 不死はないけど不老ってことか?」
「しかも若いままね。だから皆手放したくないのよ。それでモンスターを配置して奥に隠れているって噂もあるぐらいよ」
うーむ。それは確かに手放したくなくなるかも。
「けどなあ。そんな長く生きても良いことないかもしれないしなあ」
そういうとディートが僕に妖しく微笑みかけた。
「あら……トオル。マンションの世界とダンジョンの世界を行き来しながら、年を取らない私とずっと一緒にいるって興味ないの? きっと楽しいわよ」
「えええええ? う、うーん。悪くないけど、そんなことして天国のおばあちゃんが悲しまないかなあ?」
「なんで? 別になにも悪いことなんかしていないじゃない」
ディートが人差し指で僕の胸をツツツと撫でて刺激してくる。
しかもブルマ姿だ。この色気で本当に処女なのか。
「いや、だってさ。自分を守るためにモンスターとか作って配置するんでしょ? それで冒険者が死ぬじゃん」
「トオルがやらなくたって他の人がそれをやるわよ。モンスターで経済が回ってるって側面もあるし」
「そ、そりゃそうかもしれないけど……」
「トオルがやればぁ~ほとんどモンスターを配置しなくてよくなるかもよ? マンションの部屋へ隠れてたっていいんだから」
「た、確かに」
「世の中のためよ」
ディートはその形の良い口を僕の耳のそばに寄せる。
声とその度に吐かれる吐息が気持ちよい。
「それになんの意味もなくレベル上げするの?」
「それもそうか」
考えてみれば、ただ単にモンスターを倒したり、探索するよりも、ダンジョンマスターを目指すという目標があってももいいかもしれない。
「よーし、じゃあレベル上げや探索も少しはするつもりだったし、ダンジョンマスターもついでに目指してみるか!」
「やったあ! 絶対ね!」
「いや頑張るけどさ~」
難しそうな気がしてならない。
「私のためにスキルを取ってよ。長命種のエルフは長い人生でぼっちになりやすいんだから」
ディートは性格の問題なのか、なにか理由があるからなのか既にぼっちだって聞いてるんだけどな。これだけの色気で221年も男ができないってどういうことだよ。
「わ、わかったよ」
こうして僕は漠然とレベルを上げるというだけでなく、ついでにダンジョンマスターを目指すという新たな目標を得るのだった。
まあ本心を言うと平穏な一人暮らしをはじめたいんだけど……リアは怖がりだし、ディートは寂しがり屋だ。
二人のことは大好きだし、まだまだ僕が助けてあげないといけないようだ。
第一章完結!
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