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ミリィのオーダーは正しいメニューが来ない件

 僕はダンジョン地下ギルドのレストランにいた。

 時間はちょうどお昼時。人気店なので多くの客がいる。


「ジャイアントボアのトマトもつ煮込み三つ。それとパン」


 右手のテーブルの冒険者たちの注文を聞いているのはミリィだった。

 ミリィは今夜から開店する店長の店『メグメル』のウェイトレスとして立つために、盗賊ギルドのシマのレストランで勉強している。

 領主としての仕事をライラとしながらミリィの様子を見ている。


「これ牛のテールスープじゃん。トマトもつ煮込み頼んだんだぞ!」

「いいから食ってみなよ。不味かったらもつ煮込みも作るから」


 またオーダーを間違えているぞ。

 正しいオーダーを取れたのをまだ一度も見ていない。


「どう?」


 ミリィは一口食うまで、冒険者たちをずっと見ている。


「うん。まあ、これも美味いな」

「だろ。この店はテールスープが一番だよ」


 さっきオーダーを間違えた時は、運んできた他の料理を一番と言っていた。

 しかし、客は一人も文句を言わない。

 冒険者は大雑把な人も多いけど、逆に気が短い人も多い。

 どうして怒り出す人がいないんだろうか。


「明日もテールスープ食いに来いよ」

「お、おう」


 あ、あれでいいんだろうか。

 今日と明日は、立石さんも久野さんも店長の店に入るからオペレーションは何とかなるかもしれないけど、ミリィの接客には大きな不安を感じる。

 でも店長がやたらとミリィを気に入っちゃったんだよな。


「トオル様」


 ミリィの様子を見ていると盗賊ギルド本部で見た人に声をかけられる。

 どうやらメッセンジャーのようだ。

 当たり前だけど、異世界には電話もメールも無いので連絡は直接人を派遣するしかない。

 冒険者ギルドにはお使いクエストや手紙を届けるクエストがあふれかえっている。


「ハング商会の方がいらっしゃいましてショッピングモールの視察をしたいと」


 ハング商会は近国の都市国家が同盟して作っている商会だ。

 モールに投資したいので視察をしたいとの話だった。

 ただし……。


「訪問は明日じゃなかったの?」

「なんでも海の風向きがよく」


 航海が順調で早く来たってか。

 電話もメールも無いので、こういうこともよくある。


「ご宿泊していただいて、明日お会いになりますか?」


 そうして欲しいと言いたかったが、出資先には好印象を持ってもらうのに越したことはないと思う。


「すぐに会うよ」


 ライラがニッコリとうなずく。


「さすが賢者様。領主らしくなってきました」


 ううう。接待って長引くんだよなあ。

 店長の店のオープン、立石さんにはよーく頼んでいるけどミリィは大丈夫だろうか。

 


◆◆◆ 


「ただいまあ」

「お帰りなさいませ。ご主人さま! ミリィさまは店長さまの店には四時頃に行かれました」


 僕の部屋に帰るとシズクが迎えてくれる。

 シズクも今日は店長の店がオープンするのを知っている。

 午後八時、もう店長の店はオープンしている。

 ミリィは初日から遅刻などはしていないようだ。


「そっか。ありがとう。こっちはモールに好条件で出資してくれる商会が急に来ちゃってさ」

「た、大変ですね~!」

「まあ、皆のためだしね。じゃあ店長の店に行ってくるよ」

「はーい!」


 立川の街を走って『メグメル』を目指す。

 到着して木のドアを開けるとカランカランとベルが響く。

 店内に入ると木のテーブルに設置された空き樽を使った椅子は満席になっていた。


「お、トオル! やっと来たか。入って入って」

「あ、ミリィ。入って入ってって。満席じゃないか」

「あの席で良いよ」


 四人席のテーブルに座る三人の男性がいた。


「あ、相席? 僕はいいけど、今どき相席ってさ」


 出会いを目的にした相席をシステムにした居酒屋はあるが、最近は頼んでくる店もほとんどない気がする。

 本当は僕だって相席は嫌だけど開店オープンで混みあっているから仕方ない。

 立石さんと久野さんがチラシを路上で配ったり、ポスティングしたのが効果があったようだ。

 

「あ~こいつトオルだからみんなよろしくね」

「お~トオルうじか」

「よろしくよろしく」

「さあさあ、座って座って」


 三人の男性が笑顔で気遣ってくれる。

 え? この人たちミリィの友達なんだろうか?

 随分、親しげだ。


「ミリィの友達?」


 僕がそう聞くと、髪を後ろに結んだ男性が言った。


「いや小生は会ったばかりで……」


 どうやら今日会ったばかりらしい。

 よく考えればミリィの友達が日本にいるわけがない。


「さっきみんなと友達になったんだよ」


 ミリィが笑って言う。


「ちょ、ちょっとお客様に友達って……」


 僕がそう言った時だった。


「おおおおお。ミリィ殿、小生を友達と言ってくれるのでござるか?」


 え? えええ?

 ポニーテールの男性が泣きはじめる。

 酔っているのだろうか。

 

「す、すいません」


 とにかくポニーテールの男性に謝る。

 するとバンダナをしている他の男性から肩に手を置かれた。


「いいんだ」


 ものすごくいい笑顔で言われる。

 

「いいんだって何がですか?」


 今度は指空き手袋をしている男性が話しかけてきた。

 何故か彼も涙ぐんでいる。


「トオル氏も友達だよ」

「友達? 僕は一人で来たんですが」

「何を言っているんだい。僕らも一人で来たんだ」

「え? え? そうなんですか?」


 ミリィは一人で来た客をみんな四人席に入れたのか?


「ミリィちゃん。妖精のエール!」

「はーい!」


 僕は三人の男性に無理やり席に座らせられる。


「妖精のエールって何ですか?」

「生ビールさ」


 すぐにミリィがジョッキを持って来る。

 しかし、見るからにビールではない。


「なに持ってきた?」

「イエロージェルサワーだよ」


 ミリィが堂々と言う。


「これレモンサワーかなんかだろう? ビール頼んだんだろ?」

「いいからいいから、かんぱーい!」


 僕に妖精のエールを頼んでくれたポニーテールの男性が乾杯とジョッキを上げる。

 よく分からないまま僕もジョッキを上げてみなさんと杯を合わせた。


「いやーうまい!」

「ですな~」

「友達も一人増えたことですしな」


 相当、盛り上がっている。


「みなさんは一人で来たお客さんで初めて会ったんですよね?」

「そうだよ。トオル氏と一緒さ」


 この人たち見た目は大人しそうだが、実はパリピなんだろうか。

 

「頭尻尾もバンダナも手袋もネットで見て来たらしいよ」


 ミリィが教えてくれた。

 特徴を上手く表現しているけど、ちょっと失礼じゃないか?


「「「あはははははは」」」


 三人は馬鹿笑いをしている。どうやら誰も気にしていないらしい。


「みんなももっとなんか食べろ。トオルも」

「た、食べるけどさ。注文通りのものが来るの?」


 僕がそういうとミリィが笑い出した。


「大丈夫、大丈夫! 今度こそ大丈夫!」


 本当に大丈夫なのか。


「ミリィ氏、それずっと言ってるぞ。あははは」


 バンダナさんが腹を抱えて苦しそうに笑う。


「やっぱりか……ミリィ!」

「いいからいいから。トオル氏ももっと飲んで飲んで」


 みんなも笑い続けている。

 何だか注文が正しいかどうかなんてどうでもいいような気もしてくる。

 飲料はともかく料理はどれも美味しいしね。

 僕もつられて楽しくなってきた。

しばらく休んでいてすいません。

また毎週末に更新いたします。

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