時給はちゃんと発生する件
「そうだ。ここで利子分働いてもらう」
「利子分~? 無理だよ~。利子だけでも大金じゃん」
人っ子一人働いたぐらいではという話はわかる。
猫っ子だけど。
「まあ利子分にもならないけど、他の地下ギルドへの示しにはなる」
「どういうことさ」
「ダンジョン卿に税金払わないと、地下ギルドの重鎮ですらダンジョンの奥で働かされるってな」
「それで体で払えか」
店長が厨房から出てきた。
僕は店長に聞かれないようにミリィの耳元でささやく。
「日本にやってきた外国人のフリをするんだぞ」
「はいはい。わかってるって」
店長が小走りにやってきて僕らが座っている席の向かいに座った。
「あ、どーも。小杉です」
店長が挨拶にあわせて、ミリィをテーブルの下で突いた。
「あ、俺はミリアム。トオルはミリィって言うからお前もそう呼んでいいよ」
ミリィをにらむ。
「お前じゃないだろ。店長って言え。すいません。さっき話したように外国人なんで」
「いいって、いいって。カタコトって聞いてたけど、日本語も上手いじゃない」
店長はミリィの失礼な発言も気にしないようだ。
ミリィは社交的だし頭は悪くない。
使って貰ったほうが店長としては助かるんじゃないだろうか。
立石さんは異世界のことも知っているからミリィに色々教えてくれるだろうし、しばらくは僕も監督しに行ってもいいと思っている。
よし! ここでアピールするか!
ミリィのパーカーを取る。
「どうですこの猫耳。本物みたいでしょう? 日本のアニメが好きで日本に留学しにきたんですよ」
「え? 猫耳付けてきたの?」
「そ、そうなんですよ。出来がいいでしょ?」
「た、確かに。本物みたいで可愛いよ」
ミリィが僕を見る。
「にゃはははは。トオル、可愛いってさ~。店長は良い人だね」
真面目にやる気があるのかと思ったが、店長は笑っているので我慢する。
「でも大丈夫? 飲食の経験ある? 結構大変なお仕事だよ」
店長が心配そうに聞く。
猫の手も借りたいだろうにミリィを思ってのことだろう。
「え~大変なのか~」
「そんなことを言える立場か! 他のアルバイトが見つかるまでタダで働け!」
僕が怒ると店長が割って入った。
「す、鈴木くん、どういうこと? タダ?」
「ミリィは僕にお金を借りてまして。だからその分ここでタダで働きしろと」
「いやいや。そういう訳にはいかないよ」
そりゃそうか。
ミリィには罰則的な理由と店長を助けたいという気持ちがあったけど、店長の言うように無給で働かすわけにはいかない。
「時給はちゃんと1400円払うよ」
「え? 俺、お金貰えるの?」
店長の発言にミリィも驚いていたが、僕はもっと驚いた。
時給1400円だって? 僕の時給よりも高いぞ。
「ファ、ファミレスの時給より高いんですか?」
「だってコスプレして貰うし、研修期間が終わったら時給は1600円がスタートだよ」
「そ、そんなに……」
経営的に大丈夫なんだろうか。
お客さんがたくさん入らなかったら潰れるぞ。
「アルバイトさんにも楽しく長く働いて貰いたいから頑張るつもりだよ」
「ん~でもミリィには高過ぎないかなあ?」
ミリィの接客……不安だ。
「鈴木くんだって早く貸したお金が戻ってきていいじゃない。いくら貸したの?」
異世界の金額を日本円に換算するのは難しいが、当然アルバイトで返せる金額ではない。
誤魔化すことにした。
「ミリィがちゃんと店長の手助けができるなら別に返してくれなくてもいいぐらいの金額ですけど」
「でもアルバイトが見つかるまでとは言わず、良かったら長く働いて貰いたいんだけどね。ちゃんと1400円出すからそこからお金も返してもらいなよ」
「えぇっ!? 戦力になるかわからないし、最低時給でいいんじゃないかなあ~……」
店長はミリィを気に入ったようだが、僕はミリィを連れてきたことが逆に悪い結果にならないかなとドキドキしていた。
その時、ミリィがまた割って入る。
「店長。ちょっとトオルと二人で話してきていい?」
「え、うん。どうぞ」
ミリィがパーカーをかぶり、僕の腕を引っ張る。
そのまま店の外に連れ出された。
「なんだよ。店長と話してるのに」
「ねえ、1400円ってクレープと牛丼買える?」
どうやらミリィは日本の金銭感覚がよくわかっていなかったらしい。
トンスキホーテで売ってるクレープなら350~500円ぐらいだから三つぐらい買える。吉山屋の牛丼も三杯ぐらい買える。
「どっちも三つぐらい買えるよ」
「そんなに買えるの!? すき焼きは!?」
「トンスキホーテのパックの肉なら三、四時間ぐらい働けばリアとディートとシズクと皆ですき焼きできるよ」
それを聞いたミリィはまた店内に戻る。
「おい。なんだよ?」
ミリィは店長の前で言った。
「やるやる働く働く! 店長よろしく!」
どうやら時給1400円に釣られたらしい。
店長が満面の笑みで答えた。
「こっちも助かるよ。明日からよろしく。今日は鈴木くんと一緒になにか食べてよ。食べながら色々と話そう」
「うん!」
ミリィは元気な返事をしたが、僕は心配でならない。
「え~いいんですか?」
「ちょっと作ってくるから」
ミリィが注文をつける。
「スパゲッティがいいなあ」
「こら!」
「あははは。鈴木くん。いい子連れてきてくれてありがとうね」
説教をしようと構えると、ミリィはメニューを広げた。
「1400円だとなにが食べれるの?」
小言を言う前に店のメニューの値段と名前ぐらいは教えたほうがいいかと思い直す。
モンスター言語である日本語を話すことはできても、読み書きはよくわかってない。
「このページならビーフシチュー以外は全部食べられるよ」
「ホント! それなら俺バリバリ働いてトオルに毎日奢ってあげるよ」
「あはは。期待して待ってるよ」
どうやらミリィに盗賊ギルドの税金を払って早く解放されようという気はないらしい。
やる気を出してくれたなら、もう見守るしか無いという苦笑いがこみ上げてきた。




