本物の黒猫を連れてきた件
「明日は久野さんも立石さんもホールに入るんだよね?」
僕に皆の目が集まる。
まあ店長の目は死んでいるけど。
「えぇ。そうよ」
久野さんと立石さんのうなずく。
ならアイツを連れてきても大丈夫だろう。
「ちょっと僕も知り合いの女の子に当たってみます」
「「「鈴木くんが?」」」
店長と久野さんと瀬川さんが驚く。
女っ気のない鈴木くんが? と言われた気がした。
最近は女の子の知り合いも多いんだぞ。
主に異世界に。
「じ、実は外国の子で。でも日本語もできますよ。ちょっとカタコトだけど」
久野さんが納得した顔する。
「あの偏った日本文化の勉強に来ている子たち?」
久野さんは僕の部屋でリアやディートに会ったことがある。
立石さんに至っては異世界のことを知っているし、なんなら冒険もしたことがある。
「いや、あの子たちじゃないよ。でもその子もコスプレが得意なんだ。特に黒猫の」
「鈴木くん、結構遊んでるのね」
「ち、違いますよ。とにかく連れてきます」
店長の店を出て、僕の部屋に戻る。
「ただいま~シズク」
「おかえりなさーい」
「また盗賊ギルド本部行ってくるね」
「ええ?」
僕は盗賊ギルド本部にまた戻っていた。
複雑な廊下を迷いなく歩く。
ミリアムとネームプレートが掲げてある部屋にノックもなく入った。
「にゃ!? トオル? 日本のお店のプレオープンだかはどうしたの?」
「そんなことより税金を払え!」
「だ、だから無いんだって」
「じゃあ利子を取る。利子だけでも払え」
「利子もないよー」
自分でニヤリと笑っているのがわかる。
「じゃあ体で払ってもらおう」
「え? 体で払えばいいの? 払う払う!」
ミリィは無邪気に笑っている。
「言ったな」
「トオルのエッチー。にゃはははは」
ミリィの腕を掴んで歩く。
「ちょっちょっと、どこに行くの?」
「日本」
「トオルの部屋か~いいよ~。にゃははははは」
盗賊ギルド本部から出ようとするとノエラさんに会う。
「あ、トオルさん、ミリィどちらに行かれるのですか?」
ノエラさんも借金の肩代わりをさせたいところだが、この人が盗賊ギルドにいないと余計に借金の支払いが遅れる。
「ミリィを溜めている税金の肩代わりに連れていきます」
「にゃははは。体で支払わされるんだってさ」
ふふふ。ミリィ。
笑っているのも今のうちだぞ。
「えええ? そ、それなら首領代わりに私が……」
「ノエラさんがいなくなったら誰が盗賊ギルドを運営するんですか。冗談言ってないで早く払ってくださいね」
「ううう」
やはりノエラさんもすぐには払う気がないようだ。
ミリィにたっぷり働いて貰うしかない。
本部を出て地下一層の倉庫ドアから部屋に戻る。
「ただいま~」
「あ、おかえりなさいご主人様。ミリィ様もいらっしゃったんですね」
シズクが何度目かの挨拶をしてくれる。
「シズクちゃん。ちょっとトオルと寝に来たんだ。借りるね」
「そ、そうなんですか?」
勝手なことを言うミリィ。
僕は洋室のクローゼットをあさる。
「違う。寝ない!」
「え~違うの? だって体で払えって」
「ホントに体で払って貰うんだよ」
「ほら~やっぱり~」
ベッドに押し倒される。
だが同時にクローゼットからパーカーを手にしていた。
猫耳を隠して立川の街に出るのに使うミリィ用のパーカーだ。
「だから違うんだよ」
「んにゃ?」
ミリィの胸元にパーカーを押し付ける。
「これを着ろ」
「ん? 外に出るの?」
「いいから。じゃあシズクまた出かけてくるね」
「は、はい」
立川の街を歩く。
「日本語しゃべれよ」
「はいはい、モンスター語ね。んでどこ行くの? ご飯? 俺スパゲッティ食べたいなあ」
「スパゲッティもあるよ」
「やったー」
ミリィが食べるわけじゃないけどな。
「そんなことより今から知り合いに会ってもらう」
「友達?」
「そんなようなもんだ。その人の前ではパーカーを取っていい」
「いいの? いつも日本には獣人いないからダメって言ってるじゃん」
「うん。だから猫耳と尻尾はコスプレって言うんだぞ」
「コスプレ?」
「日本には作り物の猫耳と尻尾があるんだ。それを付けてきたって言うんだよ」
「ふーん。わかったわかった」
メグメルに着いた。
扉を開けるとカランカランと音が鳴って、奥の厨房から店長の声が聞こえた。
「お客様、当店は明日から……」
どうやら他の皆は帰ったようだ。
「店長~鈴木です。女の子連れてきました」
「あ、鈴木くん。ホ、ホントに連れて来てくれたの?」
僕が本当にすぐに女の子を連れてくると、店長は思っていなかったようだ。
「ちょ、ちょっと待ってて。すぐ行くから客席に座ってて」
店長は厨房のなかを片してから客席に来るようだ。
ミリィは客席に座ってメニューを見ていた。
「どのスパゲッティーを食べようかな~」
ミリィは既に日本の習慣を覚えていた。
笑顔でメニューを奪う。
「な、なにすんの?」
「ふふふ。食べるんじゃなくてウェイトレスになって料理を提供するんだよ」
「えー? 俺が?」
 




