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本物の黒猫がいる件

 地下街の盗賊ギルド本部の会議室でソファーに深く腰掛けていた。

 向かいのソファーにはライラも掛けていた。

 毎度のことながらヨーミのダンジョンを領地経営するために徴税に頭を悩ませていた。


「税率は極めて安いのですが、あまり上手くいっていませんね」


 ライラが言った。

 ヨーミのダンジョンの地下一階は今までは法が及ばない無法地帯だった。

 当然、納税の習慣はない。

 代わりに地下街の商店は三大地下ギルドにそれぞれショバ代を払っていた。

 三大地下ギルドが代わりに治安維持をしていたのだ。

 三大地下ギルドは盗賊ギルド、商人ギルド、傭兵ギルドがある。

 僕は盗賊ギルドと関係が深い。ミリィはそもそも盗賊ギルドの首領でもある。今も盗賊ギルド本部を役所代わりに使わせて貰っている。


「盗賊ギルドよりもむしろ商人ギルドや傭兵ギルドのほうが協力的です」

「どうしてそうなるんだか」

「賢者様にはお分かりでしょ?」


 わかっている。

 僕がミリィやノエラさんと親し過ぎて、どうしてもお互いに甘えてしまうのだ。

 地下街の商店は日銭商売がほとんどなのでショバ代を〝週〟で払っている。

 その一部を納税する形にしているのだが、盗賊ギルドだけがもう何週分も溜め込んでいた。

 ミリィは「払う払う」と逃げ回っているのだ。

 ただ僕は根本的原因は口にしなかった。


「盗賊ギルドはショッピングモールに投資をしてるからお金がいるんだよ。商人ギルドや傭兵ギルドは僕に良い顔したいから払いがいい」


 ライラは表向きの理由には取り合わなかった。


「何週分も貯めてますよね。貯めるほど払いにくくなってしまいますよ」

「他のギルドに示しもつかないか」

「そうです」

「わかったよ。ミリィとノエラさんに話してみる」


 ライラはニッコリと笑った。

 よほど盗賊ギルドに払わせたかったようだ。

 盗賊ギルド本部の会議室を出て廊下を歩く。

 廊下は対立ギルドに攻め込まれても耐えられるように複雑な構造になっているが、僕にとっては自分の部屋の次に入り浸っているので何もかも把握している。

 普通に歩いてはたどり着けない場所に〝ミリアム〟とネームプレートが掲げられた部屋がある。

 ノックをするとコンコンと良い音が響く。


「ミリィ。いるー?」

「あ、トオル!」


 ミリィは嬉しそうな顔で、すぐにドアを開けてくれる。

 部屋は服やら下着やらで散らかっている。

 普通の女の子だったら少し片付けてから開けそうなもんだけど。

 腕を取られてベッドのほうに誘導される。

 ミリィはベッドに寝そべったが、僕は座った。


「どうしたの?」

「いや今日はそうじゃないんだよ」

「そうじゃないって?」

「お金。税金払え。溜まってるだろ?」

「えー難しい話はノエラにしてよ。俺わかんない」


 ミリィは大雑把な性格だけど、押さえるべきところはちゃんと押さえている。

 もちろんお金のこともだ。


「ノエラさんもお金のことは首領にって言うんだよ」

「わかったよ。払う払う」

「払う払うって言って何週間も溜めてるんだぞ」

「だってモールの投資にお金が沢山かかるんだよ」


 やっぱりミリィはちゃんと把握している。


「フルブレム商会からお金借りるとか?」

「フルブレム商会は味方だけど、モールの権利の奪い合いという意味では敵だからね~投資合戦してるところからはお金借りられないよ」

「なるほど」


 むしろ思っていた以上にしっかり首領をしていた。


「でも、どうすんだ。税金に例外は作れないんだよ」

「わかってるわかってる。アテはあるよ」

「え? 結構な大金だよ?」

「大丈夫、大丈夫だよ」

「本当に大丈夫かなあ? アテってなにさ?」

「今は内緒」

「なんでさ?」

「まだ、わかんないから」


 全然大丈夫じゃなさそうだ。

 不満そうな顔になっていたらしい。 


「にゃははは。ウチのギルド員も領地経営の仕事させるし」


 ミリィを見る。


「お、怒んないでよ。そんなことよりさ」


 ミリィが抱きついて来る。

 黒猫耳と尻尾を可愛らしく動かす。

 ううう。撫で回したいけど、誤魔化されないぞ!


「そんなことより?」

「トオル、俺んとこ来てくれて嬉しいけどさ。今日は日本のお店のプレオープンがどうたらとか言ってなかった?」

「あ~忘れてた!」


 ◆◆◆


「シズク。ただいま~いってきます~」

「ご主人様?」


 異世界から部屋に帰ってきて、またすぐに立川の街に出て行く。

 きっと今頃はバイト先の仲間と、コスプレしたウェイトレスの女の子たちが盛り上がっているだろう。

 すぐに冒険者のレストランバーメグメルに到着した。

 ドアを開けるとカランコロンという音がなって、すぐに異世界の住人に扮した女の子たちが……ってアレ?


「こ、こんばんは」

「あ、鈴木くん……」


 コスプレした女の子たちは居なかった。

 店長と瀬川さんは客席のテーブルに座って頭を垂れている。

 立石さんが二人を心配そうに見ている。

 久野さんがツンツンと僕の肩を叩く。

 彼女が外に出る。

 僕も店の外に出るとすぐに語り出した。


「瀬川くんのお友達ね。来なかったのよ」

「えええ? どうして?」

「どうも女の子たちは瀬川くんのお店だと思っていたらしくて」

「なるほど」


 有り得そうな話だった。


「明日だけは私とあやめちゃんが手伝うけど、一日でも店長は嫌がるの。本当はバイト先変えても良いんだけどね」


 店長はファミレスに義理立てしていて、引き抜きのような形は好まない。


「そうですか」

「明日だけの開業でしばらくまたおやすみね」


 久野さんが店内に戻る。

 カランコロンとまた店のベルが鳴った。


「明日着る衣装決めよ~っと。あやめちゃんはどれにする?」


 久野さんがはしゃぎながら着る服を選んでいる。


「サイズもあるからな~」


 場を明るくするためだろう。良い人だ。

 久野さんは女戦士の衣装にしようとしたが、サイズが合わなかったらしい。

 メイド服に黒猫耳、尻尾の猫型獣人にした。


「どう私の黒猫姿。鈴木くん似合う?」

「やっぱ久野さんには女戦士のほうが……」


 もっと言えば、制服には無いけど、女戦士よりも斧戦士のほうが……。


「どういう意味よ!」

「い、いえ」


 だって本物を見た後だとなあ。

 ん? 本物?

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