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エルフの女魔法使いに告白する件

 女魔法使いさんは下から僕に抱きついたままくるっと転がっていつの間にか自分が下にされていた。黒革の服の上からとはいえ、めっちゃ大きいスライムで僕の顔を圧迫してくる。


「えええええ!? コレってどういう状況なのよ!?」

「嫌、なの?」

「嫌じゃないけど意味がわからないです!」


 僕と女魔法使いさんが暴れていると急に和室の引き戸がパーンと開く。


「トール様? どこに行ってたんですかぁ! 急にいなくなったからわたくし心配して心配して!」


 リアの泣き声がした。

 三人は同時に「「「 え? 」」」という顔をして目を丸く見開いた。

 けれど一番、回復が早かったのは僕だった。


「あ、あぁ、紹介するよ。二人ともダンジョンで倒れてたんだけど……」


 僕がそう言った瞬間、女魔法使いさんはキリッとリアを見る。

 な、なんで?


「お節介騎士のアリア? なんでここにいるのよ!」


 へ? 女魔法使いさんはリアのことを知ってるの? リアはリアで女魔法使いさんに怒鳴る。


「独り魔法使いのディートさん!? トール様になにをするんですか!」

「あ、あれ? お二人とも知り合いなの?」


 ◆◆◆


 そろそろ夜が明けるころ、引っ越ししたばかりの僕のダイニングのテーブルは会議の場になっていた。


「まあ、お二人が迷宮都市にある冒険者ギルドの会員で……なんというか……そのあんまり仲が良くないってことはわかったよ」


 どうやらこの二人は知り合いらしいのだが、迷宮を探索するスタイルだかポリシーだかに致命的な違いがあって口も利かない関係のようだ。

 現に今も向かい合わせの椅子に座ってるのに顔を合わせようともしない。


「でもさ。今は二人ともダンジョンで倒れて、こうして一緒にいるわけだし仲良くしようよ。ともかくもう寝ましょう。二人ともまだ休んだほうが良いですよ」


 リアが口を開いた。ディートに不満を言いたいらしい。


「トール様がそう言われるなら私は仲良くするのも構いませんけど、ディートさんがトール様になにか変なことを!」

 

 しかし、口はディートのほうが上手だっ。


「あら私は別に変なことなんか。私達エルフはあんまりしないけど、人間同士はよくしていることじゃない? 大賢者様とアナタはまだなの?」

「●☓※▲■! ▼◯◆☓!」


 リアは意味をなさない声で反論している。

 これに類似した二人のやり取りを何度見たことか。話は堂々巡りだった。もう無視して進めることにする。


「女魔法……じゃなくてディートさんが一番、体にダメージあるだろうから一人でベッドで寝るといいよ。僕とリアは畳で寝るからさあ」

「それいい! それがいいです!」


 僕の提案にリアは満面の笑みで同意した。

 しかし、女魔法使いのディートはそれに反対する。


「リア! 駄目よ! そんなの!」

「どうして?」

「一番良い寝床ねどこを大賢者様から奪うわけにはいかないでしょ。アナタそれでも騎士なの? 大賢者様はベッドでお一人で寝ていただいて、私達二人はあのたたみというところで寝ましょう」


 ディートは騎士のリアにとって一番痛いだろうところを突いてきた。

 リアは半べそになってぐうの音も出ない。リアと寝たかった僕も半べそだった。


◆◆◆


 あれから大分経っている。僕はヘトヘトになって真っ暗にしたベッドに横たわっていた。

 きっと隣の和室では、もうリアとディートは寝ていることだろう。


「あー疲れた……」


 疲れきってはいるが中々眠れない。

 そりゃそうだ。引っ越ししてたった一日で見たこともないような美少女と美女が僕の部屋に泊まっているのだ。

 しかも女魔法使いさんのディートさんはエルフだという。

 

「もらってくれって言ってたのはなんだったんだ。ひょっとして……ディートさんの……いやいや、そんな馬鹿な……」


 この歳になれば、自分というものがわかる。

 おばあちゃんがトオルは格好良いねと言ってくれたのは世間一般のイケメンではなく身内の贔屓目ひいきめだっていうことぐらいはわかるよ。

 実際に一度もモテたことなんてないし。

 

「リアにちょっとだけ好かれているような気がするのも、恋愛感情じゃなくて大賢者と誤解していることによる尊敬だろうしな。悲しい……寝よう」


 不貞寝にして忘れるに限る。真っ直ぐな仰向けから横向きに寝そべる体勢になった。

 ところがベッドで横向きになると誰かが自分の方を向いて横になっていること気がつく。


「!!!」


 大きな悲鳴を上げそうになると口を手で防がれた。


「しっお静かに。大賢者様」


 ディートさんだった。さすがの僕も驚かされたし不満を言いたくなった。


「ディートさん。なんですか! 僕は一人で寝るって話になったでしょう?」

「え~だって~。なにをもらって欲しいのか気になるでしょっ? 大賢者様の想像通りのものだと思うわよ?」


 げええええええ! さっきの独り言を聞かれてたのかよ!?

 いつから居たんだこの人。

 ディートさんは熱い吐息を吐きかける。

 この人は暗闇の中の声だけでも色気を発散できるらしい。 


「ちょっちょっと! いい加減にしてくださいよ! 怒りますよ!」

「し~~~ごめんごめん。あの子が起きちゃうわ。本当はちょっと二人で話そうと思って来たの」

「話? なんの話ですか?」

「トール様、アナタ大賢者じゃないでしょ? そう独り言で呟いてたし」


 うぅっ……バレたか。ってかつぶやいたしな。

 超美人が熱い吐息を吐きかけてくるからか、大賢者でないことがバレそうだからなのかはわからない、ドキドキと心音がなる。

 しかし、結果的にでも人を騙すの良くないことだ。先ほどディートさんに嘘をついたのは部屋で休んでもらうためだった。今はもうその必要もない。

 僕はディートさんの目を見て言った。


「ごめん。僕は大賢者じゃないんだ」


 僕が素直に本当のことをいうと彼女も真面目な声になる。

 内容はそうでもなかったが。


「へぇ~トオル様って可愛いだけじゃなくて男前なのね」

「からかわないでください」

「本当にそう思っているのに……そうじゃなきゃあげないよ……」

「え?」

「ト―ル様が本当のことを言ってくれたから私も言うけど、私、エルフだし、まだ誰ともしたことなんてないし……」

「えええええ?」


 僕がこの色気でそんな馬鹿なと驚く。

 しかし、そういえば長命種のエルフはそんなことはほとんどしないとか言っていたような。

 ディートは上擦ったような声で誤魔化すように別のことを言った。


「わ、わわわ私はこう見えてリアと違ってアーティファクトにも詳しいの。でもこの部屋にあるアーティファクトはどれも見たこともないものだわ。どういうことか教えてもらってもいい?」


 リアはいう。ディートは独り魔法使いと呼ばれる変わり者で危険なダンジョン探索も人とパーティーを組むことを嫌っていつもぼっちらしい。

 そんな人にこのマンションのことを教えていいかとも思ったが、先ほどのディートのやり取りが嘘だと思えない。

 僕は今日、体験したことを洗いざらい話してみた。


◆◆◆


「別の世界? 妖精界、つまり幻界でもないのよね?」

「多分、いや僕の世界は妖精界なんてファンタジーな世界じゃないと思う。妖精の世界にこんなの無いだろ?」


 ポケットからスマホのアイポンを取り出す。光りながら小さな音楽を流す。

 ほとんど暗闇でもディートの驚きが伝わった。


「ない……わね。でも神界ってことはないと思うし、それ以外の世界があるなんて信じられない」

「いやー僕も信じられなかったよ。……僕が大賢者でもなんでもないどっかの世界の一般人と知って幻滅した?」


 自嘲気味に言った。ディートの反応は怖いけど、真っ暗だから彼女がどんな顔をしているかもわからない。

 ディートがなにか言うのを待っていると、おでこに柔らかくてわずかに湿った感触がした。


「もう……。その一般人のトールが大冒険をして私の命を救ってくれた優しさや勇気が、大賢者でないこととなんの関係があるのよ」


 彼女の声と吐息で顔と顔が近くなったことがわかる。

 続きがあると思って暗闇なのに意味もなく目を閉じてしまう。

 だが、どうやら続きはないようだった。


「じゃあ、あの子が起きないうちに行きましょう?」

「へ? どこに?」

「ダンジョンよ! スキルとかむこうの世界のこと、私がみーんな教えてあげる」


 続きがないのは少し悲しかったが、それは凄くありがたい。

 ディートは「代わりにトールがこっちの世界のことを教えてね」と言って楽しそうに笑った。

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