着々と開店準備が進んでいる件
「ほら、あそこあそこ」
「ここですか」
店長に呼ばれて、瀬川さんと開店前の店を見に来た。
僕は忙しくて来るのははじめてだが、瀬川さんは何度か来ているらしい。
ドアには『冒険者のレストランバー メグメル 近日開店』というポスターが貼ってあった。
「へ~冒険者のレストランバーですか。ところでメグメルって何だろ?」
「ははは。なんか神話の理想郷らしいよ。良いところなんじゃないかな」
瀬川さんがメグメルについて説明してくれた。
「じゃあ、入ろうか」
木のドアを開けるとカランカランとベルの音がする。
店内に入ると一見しただけでも、木のテーブル、空き樽を使った椅子、中身はLEDだと思うけどランプ風の照明などな、かなり凝った造りになっていた。
「あ~鈴木くん、瀬川くん、いらっしゃい~」
「開店前のお忙しい時にすいません」
「いいんだよ。ゲームとかアニメ見る世代に意見とか聞きたかったし」
つい本物みたいですと言いそうになった。
まあ、本物みたいですと言っても、本当に本物を見ているとは思われないだろうけど。
「冒険者の食堂って雰囲気、バッチリ出てますよ~」
「そう? あ、そうだ! 瀬川くんにはもう見て貰ったんだけど鈴木くんにも見てもらおうかな? ちょっと待っててね」
店長は小走りでバックヤードに入ってしまう。
瀬川さんに目配せするも見てのお楽しみだと言われてしまう。
店長が両手に抱えたものを新しいテーブルに乗せた。
「こ、これは凄い!」
「あははは。可愛いよね」
魔女っぽい服。つば付き帽にマント、ミニスカのワンピ。
神官っぽい服。ドラグーンクエストの前掛けとタイツのエロいものではないが、いわゆる青と白を貴重にしたMMORPGの可愛いものだ。
これは女戦士のイメージだろうか。本物の革で胸当ての鎧っぽくなっている。
どれもこの手のコスプレにあるチープな感じは全くしない。
「他にもあるんだ」
店長がそう言ってまたバックヤードから持ってきたのは普通(?)のメイド服だったが、猫耳や狐耳、うさ耳とそれぞれの動物の尻尾だった。
「獣人のイメージですか?」
「うんうん」
「いやあ~いいですね~」
自然と言葉に出てしまった。
リアやディートやミリィに着せてみたいと思う。
いつものリア達のほうが露出度は高いけど、これはこれで。
「すぐにでも開店できそうですね」
「実はファミレスを辞める前から、物件探しとか、内装屋さんとか、備品をどこで購入するかとかは考えていたんだ。メニューもずっと温めていたものがあったしね」
「そうだったんですか」
「お金も貯めてたし、親族や友達が貸してくれたからね。失敗したらコレだけど、あははは」
店長は首をくくるポーズを取る。
気の弱い店長のことだ。笑って冗談めかしてるけど、お金もかけているようだし多分に本心に違いない。
僕はもう一度、店内と制服を見る。
「異世界レストランバー、これ絶対流行りますよ!」
「鈴木くんはこういうの詳しそうだから自信が出てくるよ」
まあ、確かに詳しい。実際に見てるし……。
「今日はさ、開店メニューを瀬川くんと食べて行ってよ」
「ええ、いいんですか?」
「そのために呼んだんだからもちろんだよ。ワインも開けよう。安くても美味しいのがあるんだ」
◆◆◆
開店メニューは店長が気合を入れて作っているだけあって、どれも美味しかった。
気心の知れた男三人なのでお酒も回ってしまった。
「ところでライラが言うには」
「ライラさん?」
「ライラ?」
店長と瀬川さんが同時に聞いてくる。
「いや、ちょっとした知り合いなんですけど、その人が言うにはこの手の店が最初に上手く行くかどうかはウエイトレスさん次第っていうんですよ。女の子のアルバイトさんは集まったんですか?」
飲食業はアルバイトを常に募集してるような店もある。
ましてや有名チェーンでもないちょっと変わった制服の店だ。
秋葉原だったら逆にやりたがる女の子も集まるかもしれないけど、ここは立川ということもある。
「うん。瀬川さんのおかげでね」
「え?」
店長の口から瀬川さんの名前が出る。
「ははは。俺の女友達に声にかけまくったんだ。スターティングメンバーは十分入るよ」
女遊びで大学を留年している瀬川さんは胸をはっていた。
「さすが大学六年生。遊び回っているだけありますね」
「鈴木くん。それを言わないでよ」
店長も笑った。
「あはは。就職に困ったらウチに来てよ。大恩人なんだから」
「そうですね。二号店の店長にしてください。そしたら鈴木くんは三号店かな」
どうやら僕は三号店の店長にさせられるようだ。
「夢が広がりますね~。でも、瀬川さんが呼んだ女の人たちは飲食経験あるんですか?」
ホールも馴れてないと、手順よくこなすのは難しい。
「あ~明後日から研修やるよ。研修は俺も手伝うしね」
瀬川さんが教えてくれる。
「ホント、瀬川くんにはお世話になりっぱなしだよ。鈴木くんも今日はありがとね。オープンの前日にはプレオープンもあるから、良かったら鈴木くんもお友達呼んで食べに来てよ。もちろん無料だから」
「ありがとうございます! 絶対来ますよ!」
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