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星空と夜の海を眺める件

「プレイボーイさん。リアが絡まれてるわよ。助けなくていいの!?」


 ディートが僕をにらむ。


「いや行こうと思ってたんだけど採用面接が……ディートが行ってくれればいいのに」

「なんで私が敵に塩を送るようなことを。トオルのことなんだからトオルが行きなさいよっ!」

「敵ってそんな……」


 ディートに背中を押される。

 なんだかんだディートはリアと仲良いのになあ。

 今だって心配してるくせに。

 まあリアは困ってるかもしれないけど、本当は心配するようなことなんてないんだけどね。

 そんなことを思いながらリアと若手貴族のほうに行く。


「君に来て欲しいんだ」

「ありがたいお話なのですが」


 え?

 二人の話が聞こえた。


「君もそれを望んでいるのでは?」

「今は……」


 ディートに背中を強く押されて二人の前に飛び出してしまう。


「ト、トール様」

「君が噂の賢者殿ですか」


 適当に貴族に挨拶した。

 僕が挨拶すると名乗ってくれる貴族が多かったが、目の前の貴族は名乗らなかった。


「アリア。例の話考えてくれ。それでは失礼する」

「あ、あの……」


 若手貴族はリアの返事も聞かずに去って行った。

 ひょっとして知り合いだろうか。


「知ってる人?」 

「はい」


 少し聞きたかったけどリアの顔が深刻だ。

 聞かないほうがいいのかもしれない。


「あの方は公爵です」

「公爵!?」


 公爵といえば貴族の中でももっとも偉い。

 ランベルト卿やアルトベッロ卿よりも偉いのでは?


◆◆◆


「トオル様。凄いですね。完全な平民が伯爵位に奉じられるなんて何十年もないことですよ」


 フルブレム商会の商会長エリーが驚く。


「なんかやっかいな領地を押し付けられただけって感じだけどね。ってか領地ってかダンジョンだし」

「でも利益は他の領地より圧倒的に大きいですよ。金鉱があるようなものです」

「上手くできればそうかもしれないけど」

「トオル様なら上手くできますよ。我々フルブレム商会も協力しますし、ライラさんは領地経営の有名人ですよ。ね?」


 エリーが実質フルブレム商会を仕切っているビーンさんに聞いた。


「そうですね。きっとトオルさんなら上手くできますよ。トオルさんがヨーミ伯になれば、ダンジョンのショッピングモールに投資もしやすくなりますし、麻湯の排除もしやすくなります」


 ゴブリンザムライが頷いた。


「ニンゲンノコトハ ヨクワカラヌガ トオルドノガ ミトメラレタノカ。 ミルメガアルニンゲンモ イルノダナ」


 シズクも僕にすり寄ってきた。


「ご主人様はもっとえらーくなりますよ」


 ディートは晩餐会からお酒を飲みすぎて顔が赤かった。


「人間のルールでダンジョンの領主になるのも悪くないんじゃないの? 私のトオルはダンジョンマスターにもなるんだし」


 僕はダンジョンマスターのことはすっかり忘れていた。

 皆は笑っている。エリーが言った。


「羨ましいなあディートさん。私のトオルって」

「な? そ、そんなこと言ってない」

「え? 言いましたよ。私のトオルはダンジョンなんとかになるとか」

「言ってない言ってない言ってなーいーーー」

「言いましたよね? リアさん」


 振られたリアは飲み物が入ったグラスを持って顔は笑っていたが、上の空にも見える。


「え? えぇ」

「ほらリアさんもそう言ってる」

「なんの話ですか?」


 どうやら聞いていなかったようだ。


「リアは知らなくていいから! 船旅の準備しましょ」


 ディートが言って会はお開きになった。

 そろそろ船が出る時間が近づいている。

 ヨーミのダンジョンがあるヘラクレイオンの近くの港街までは船で帰ることになっている。

 僕たちが船に乗り込んだ時間はもう日が落ちかけていた。


◆◆◆


 船旅の夜はハンモックで寝ている。

 ハンモックは船の左右の運動と同調して動くので便利なのだ。

 それでも日本人の僕には快適とは言えなくて時たま目を覚ましてしまう。


「あれ? リアは?」


 船室は魔法石で薄っすらと照らされている。


「ん、ん~……」


 ディートは熟睡しているようだが、リアがいるはずのハンモックは空だった。

 どこに行ったんだろう。

 アイポンのライトで船の中を探す。

 リアは船の甲板の船べりにいた。


「なにしてるの?」

「あ、トール様。夜風に当たりながら星を見ていたんです」


 船の上は風がある。

 リアの金色の髪が風になびいていた。

 星空は地球よりも遥かに美しく、海の上なので遮蔽物もない。


「そっか」


 僕はリアに聞きたいことがあった。


「あの公爵に求婚されてた件さ」

「きゅ、求婚? なんの話ですか?」


 ち、違ったのか? でも……。


「知り合いの貴族に君に来て欲しいとか言われていたじゃないか」

「あ、あれは私が以前仕えていたカーチェ家のモニカ様の旦那様です」

「え? えええ?」


 リアはカーチェ伯爵家のモニカさんという人に騎士として仕えていた。

 カーチェ家はお取り潰しになってモニカさんは公爵と結婚したんだっけ。

 公爵なら宮中晩餐会に来ていてもなんらおかしくないだろう。

 公爵は奥さんのモニカさんからリアの忠勤ぶりを聞いていてもおかしくない。


「つまり来てほしいというのは?」

「はい。また騎士としてモニカ様と公爵に仕えてくれないかというお話でした」

「それってリアが正式な騎士に戻れるってことだよね?」

「そう……なりますね」


 リアは名誉を重視する性格だから、ひょっとして戻りたいんじゃないだろうか。

 彼女の家は代々騎士だったらしいからお家再興というやつでもある。

 なら仕方ないかもしれない……。


「でも断りますよ」

「え?」

「もう! さすがに怒りますよ! なんでえっなんですか?」

「だってエルドラクス家のお家再興になるじゃないか?」


 リアが顔を膨らます。 


「私は伯爵に仕えてた騎士だったんですよ。トール様はヨーミ伯爵になられるんでしょ?」

「あ、そうか。ひょっとしてやろうと思えば僕が騎士とか任命できるようになるの?」

「はい。でも私がトール様についていくのはそれだけじゃないですからね」

「孤児院もあるしね」

「もう!」


 リアが笑う。

 ほっとした僕がいた。


「もし最初にリアにあってなかったら……僕はこんなにもこっちの世界に関わらなかったと思うよ」


 リアが驚いたように目を開く。


「本当ですか?」

「うん。関わっていたとしてももっと違う形になるんじゃないかな。絶対にダンジョンの領地なんか引き受けなかったし」

「ご、ごめんなさい」

「いや違うよ。皆のためにこうなって良かったと思ってるよ。成長したのかもしれない。リアと出会えてよかったなって思うよ」

「トール様……」


 どうやら僕はやっとリアが喜んで貰えることを言えたようだ。

 身を寄せ合って何時間も星空と夜の海を見ていた。

ここまで応援ありがとうございます!

次話かその次辺りから少しだけ現代日常編をはさみたいと思います。

ブクマや評価してくださるとありがたいです。

コミックのほうも凄く好調みたいです!感謝!


更新や仕事で感想返し遅くなってすいません。

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