お見合いや政略結婚は危険な件
コミックの版の二巻重版決まりました。応援ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
晩餐会の大会場からフランシス王や重鎮貴族が去りはじめる。
何時間もかかった宮中晩餐会は終わった。
はじめは王侯貴族が出席するような晩餐会に、どうしてダンジョンに隠れ住んでいると思われている賢者の僕が呼ばれたのかわからなかった。
その理由は国のお大尽たちが僕を貴族の席に加えていいか見極めるためだったらしい。
どうやら僕はお大尽たちのお眼鏡にかなってしまったようで、ヨーミのダンジョンの伯爵に内定してしまったらしい。
正式な席なのでマナーに注意しなければと色々対策したが、むしろマナーで問題をおこして「あいつ貴族にしないほうがいいんじゃない?」と思われても良かったかもしれない。
まあヨーミのダンジョンの仲間たちのことを考えれば領主になるのも仕方ないという結論になった。
僕たちも帰ろうと席を離れると、身分の高そうな貴族の男性にリアが捕まっていた。
年の頃は三十代後半から四十前半ぐらいで比較的若そうだ。
「またか」
そう思ってリアを連れて会場を出ようとするが、晩餐会前のパーティーで貴族たちに囲まれた時と違って、リアは嫌がっていないようだった。
むしろリアが積極的になにかを話している気がする。
どうしたんだろうと思ってリアのほうに戻ろうとした。ところが……。
「ヨーミ伯さまっ」
急に腕を掴まれる。
腕を見ると金髪縦ロールの貴族令嬢が抱きついていた。
ライラだ。
ヨーミ伯? あ、僕のことか。
まだ正式に叙勲もされていないのに。
「な、なんですか?」
「ちょっと紹介した人が」
「紹介したい人? 急いでるんですけど」
逃げようとしたが、しっかりと掴まれている。
無理やりはずすことももちろんできるけど、怪我をさせてしまいかねない。
「いや~私も肩の荷も下りました」
「へっ?」
紳士風の白髪交じりの男性に挨拶された。
「私ブラン子爵と申します」
「は、はあ。どうも」
ブラン子爵? どこかで聞いたような。
「ちちを紹介したくて……」
ライラはそう言った。
〝ちち〟とはなんだろうと思っていると、ライラが僕の腕をさらに強く引き寄せた。
ふくよかなモノが二の腕に当たっている。
なるほど~お乳を紹介したいのか。
「娘は今までどんな貴族の領主も生理的に合わないとか頭が悪そうとか断り続けていたんです。良い話も多数あったんですがの~……ペラペラペラ……」
お乳がよくわからないことを言っている。
いや……わかってるさ。ただの現実逃避だ。
下手をするとこの老紳士がお義父さん(おとうさん)になってしまうかもしれない。
近くにはディートもいるんだ。
ライラにウィンクされた。
「そういうわけだから私をよろしくね。賢者様」
ここはキッパリと断るべきだろう。
早くリアも助けに行きたいし。
「いや、よろしくと言われても。僕はまだ妻帯するつもりは」
「妻帯? なに言ってるの?」
ライラが目を丸くしている。しばらくしてクスクスと笑い出した。
政略結婚とかお見合いみたいな話じゃないんだろうか?
「も~ちゃんと話を聞いてたんですか?」
確かにビビって途中から話をあまり聞いていなかった。
「ご、ごめん。もう一回……」
「お父様の領地で培った経営のノウハウをトール様のところでお役に立てましょうって言ってるんです」
「えええ?」
「え~ってなんですか。女を馬鹿にしてます?」
「いや全然してないけど」
「賢者様はご存じないかもしれないけど、女だてらにブラン領を立て直したって有名なんですからね!」
お義父さん(おとうさん)、もといブラン子爵を見る。
ニッコリと笑っていた。
「本当です。お恥ずかしながらずいぶん助けられました」
「そ、そうなんですか」
「娘はその手腕を請われて貴族の方々から引く手数多だったのです。昨今領地経営に失敗して首が回らなくなる領主も多いですからなあ」
うっ。そうなったら確かに困る。
「しかし、親戚を手伝うだけでどこの領主の下でも働きたくないと」
「僕のところならってことですか?」
「はい。僭越ですが、ヨーミ伯も助かるのではないかと」
これはありがたい申し出かもしれない。
ブルブレム商会の名代であるビーンさんや盗賊ギルドを実質的に仕切っているノエラさんも商会のビジネスやギルドの運営には詳しくても領地経営はわからないかもしれない。
それにライラは他の領主や貴族にもある程度は顔が利くだろう。
ディートの顔を見る。
睨まれるが、アレは「仕方ないわね」という意味だ。
「あ、ありがたいお話です」
「ヤッター!」
老紳士は頷き、ライラには抱きつかれる。
彼女のドレスはライトなデザインの童貞をなんとかするセーターのようで端的に言ってエロい。
ディートの様子を恐る恐る見る。
認めた手前我慢してくれているようだ。
「それと賢者さまぁ」
「な、なんですか?」
ライラが抱きつきながら上目遣いで僕を見る。
「賢者様が言ってた方のお話もヨーミの経営が上手くいったらやぶさかじゃないので」
「え、ええっ?」
「お仕事しながら、ゆっくり考えましょうね」
ライラが笑顔でそう言った瞬間。
「いてぇ!」
「痛い?」
「ふんっ!」
我慢していたディートにお尻をつねられてしまった。
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