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僕が法律な件

 くっ。リアもディートも味方になってくれそうにない。

 どうも僕を異世界に縛り付けたいのだろう。

 案内役の紳士がアルトベッロに耳打ちする。アルトベッロが耳打ちにうなずいた。


「そろそろ晩餐会だ。賢者殿の席は私とランベルト卿の近くにしておいた。そこでゆっくりと話そうではないか」


 案内をされて僕たちも大きな部屋に移動する。

 僕が案内された席の向いがランベルトとアルトベッロだった。

 右隣がビーンさんで左隣がリア、その向こうにディートがいる。

 僕らのテーブルは縦に何列かあるが、横に長いテーブルが一つだけあって、そこはフランシス王が座るのだろう。僕らからかなり近い。

 テーブルには席次表もあった。どうやら正しいようだ。


「こういう席って王様に近い人のほうが上座に近いんじゃないですか? 僕らが座ってしまっていいんですかね」


 結婚式でも新郎新婦に近い席のほうが上座だと思う。

 そう思って隣のビーンさんに小声で聞いてみた。


「ははは。私も何度かは晩餐会に参加していますが、こんな席に座ったのは初めてです。トールさんは期待されてますよ」

「ええ?」

「緊張しますね」


 ビーンさんですら緊張しているのか。参ったな。

 本日の料理の表もあったので見てみる。

 もちろん僕には読めなかった。リアが教えてくれた。


「マンゴドラのサラダ、真紅海老のスープ、龍鱗アワビの白ワイン蒸し……」

「マンゴドラってあの魔女とかが使いそうな引っこ抜く時悲鳴をあげるっていうあれ? 美味しいの? ってか食べて大丈夫なの?」

「私もはじめてですが、食べれるとも聞いています」

「そうなんだ……真紅海老はまあいいとして龍鱗アワビっていうのは?」

「龍鱗のようにように大きなアワビですね」


 へ~それは美味しいそうだ。


「ひょっとしてドラゴンかと思ったけどただ大きいってことか」

「龍鱗アワビに続くメインディッシュはローストドラゴンみたいです」

「ロ、ローストドラゴン?」


 アルトベッロが笑った。


「賢者殿はローストドラゴンははじめてかな? 他国の王族も招待することも多いので肉には宗教上のタブーが少ないドラゴンが使われるのだ」


 しゅ、宗教上の理由。

 地球でも牛や豚は宗教上の理由で食べられない人がいると聞いたこともある。

 やはり正式な場所なのだ。

 よく見るとナイフやフォークも沢山ある。

 フランシス王や何人かが挨拶をして食事がはじまった。

 テーブルマナーは学んできたが、まったく覚えていない。どうしよう……。

 なんてね。僕にはシズクがいる。

 服になってもらっているシズクが僕の体を動かしてフォークを選んでマンゴドラのサラダを口に運んだ。

 自分でもうっとりするほどの華麗な動きだ。

 ところが……。


「……っぐお!」


 マンゴドラの味は凄まじかった。不味いというわけではないが、とにかく舌を苦味と辛味が強烈に刺激した。

 よく見るとアルトベッロもランベルトもマンゴドラと思われる赤紫色の根菜っぽい野菜は避けていた。


「賢者殿は食通ですな。森のエルフ族以外は避けるのに」


 アルトベッロが感心している。

 それを先に言って欲しかった。

 リアやディートの様子も見てみる。


「かっら~い!」


 ディートも食べてしまったらしい。ワインをがぶ飲みしていた。

 マナーもなにもあったものじゃない。

 リアはどうやらアルトベッロの真似して避けられたようだ。

 しかし、そもそも避けるのはどうなのだろう?

 そんなにマナーを気にしなくてもよかったのだろうか。

 真紅海老のスープや龍鱗アワビの白ワイン蒸しは普通に美味しかった。

 食事中にランベルトから賢者殿は元々はどこかの貴族の出だったのではないかとマナーを褒められたので一応意味はあったらしい。

 

「ローストドラゴンもかなり硬いですが、美味しいですねえ」

「ああ、私もさすがに晩餐会でしかほとんど食べないがな。年でな。ははは」


 なるほど。年寄りには硬すぎる。

 どうやらランベルトもアルトベッロも気さくな人物らしい。


「賢者殿はもちろんヨーミ伯爵位を賜られるのだろう?」

「はい」


 もう仕方ないと覚悟することにした。

 ヨーミのダンジョンの地下街の再開発や治安の維持、孤児院の安定運営、ゴブリンの引っ越しなどを支障なくに行うためには領主になるのはメリットも大きい。

 とはいえ、領主の仕事はわからないことも多いので色々聞いてみようか。


「ヨーミのダンジョンを治める領主を作る意味はなんとなく理解していますが、領主は具体的にどのような仕事を」

「うむ」


 領主の仕事は色々あるようだが、ヨーミ伯は特殊なので普通の領主のような仕事はかなり免除されているらしい。

 主にフランシス貴族として国に対してある義務だ。

 王都の貴族屋敷に三ヶ月は住む、領民の一部を軍役につかせる等々。

 これらが免除されるのはありがたかった。


「しかし、ヨーミのダンジョンにまたテシオのような男が出るのは困る」


 なるほど。もっともなことだ。

 麻薬を流通させ、その資金力でヨーミの地下街を支配するような奴を出したら僕を領主にする意味はないだろう。


「領地の法律を設定して司法や行政を管理して、それを執行させる」


 つまり判事、警察、それに役人なども必要ということか。

 やはり、かなり大変そうだ。

 フルブレム商会や盗賊ギルドの力を借りなくてはならないだろう。


「でも予算は?」

「もちろん徴税権もある」


 そうか、税金か……。でも今までダンジョンを自由に使っていた人たちから税金なんて取れるのかなあ。

 治安維持すれば、少しは取れるかもかもしれないが、それほどは多くは取れなさそうだ。


「初夜権などを設定している不届き者もいるな」

「これ」

「ああ、すまん。すまん」


 ランベルトが笑いながらいうとアルトベッロがたしなめた。


「初夜権?」

「賢者殿は知らぬか」

「なんでしょう?」


 ランベルトが声を潜めた。


「結婚した新郎よりも新婦と先に寝れる権利だ」

「いっ? つまり……」


 ヨーミのダンジョンの地下街に住む女の子やエルフさんたちが結婚したら……。


「なんという凄い権力だ! はっ!?」


 リアとディートにジロリと睨まれる。


「ぼ、僕はそんなの法律作りませんよ」

「ははは。賢者殿のところではそのような法は作れそうにないな」


 初夜権はともかくダンジョン内であれば法律すらも作れるということがわかった。

 大変そうだけどやりがいはありそうだ。

コミックス第2巻が大好評発売中です。

かなり刷っていただけたのに書店さんにある数が少なくなってきたようです。

よろしくお願いします。

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