話が勝手に進む件
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アルトベッロ卿とランベルト卿は僕に挨拶をしてすぐにホールを去っていった。
最上位の貴族にはまた別に待機場所があるらしい。
僕達はまた若い貴族たちに囲まれたが、ビーンさんに相談したかったのでさすがに少し離れてホールのすみに移動した。
若い貴族たちも僕が大物に話しかけられたり、爵位を与えられるなどという話が出ると遠慮してくれたようだ。
アイポンなど見たことのないアーティファクトを作る男と貴族令嬢のようにお高く止まらない美女二人。
珍しさに興味を惹かれて群がっていただけかもしれない。
「ちょっとちょっと遠慮してください。内輪で話をしたいので」
「え~トール様。私も内輪に入れてよ~」
「はいはい」
まあライラのような例外もいた。
さきほどアルトベッロ卿に対して毅然と僕の弁護をしてくれた彼女はどこに行ったのだろう。
彼女の背中を押して仲間たちと離してから、小走りにホールのすみに戻る。
「ねえ? 彼女のどこを触ってたの」
「へ? ど、どこって背中じゃん」
「ふん! なんでもないっ」
ディートがそっぽを向く。
ライラのドレスは童貞を殺すセーターほどではないが、背中がかなり開いているタイプだった。
素肌を触るのは少し興奮……。
ふ、不可抗力だし。
「ってそんな場合じゃない。なんか僕がダンジョンを領地をもらえるとか貴族になるとか、アルトベッロ卿が言ってたけど……」
ビーンさんが小さく首を縦に振ってから話た。
「はい。ランベルト卿もアルトベッロ卿も愛国者です。まあ、この国の王族の傍流ですから」
大貴族は元をたどれば、王族の分家である場合が多い。
彼ら貴族の寄る辺はフランシス王国だ。
愛国者になることも多いだろう。しかし……。
「それが僕の叙勲と何の関係が?」
「フルブレム商会の後ろ盾になってくださっているランベルト卿とタ―レア商会の後ろ盾になっているアルトベッロ卿は産業の振興に力を入れています」
「商会の後ろ盾になっているぐらいですからね」
「ランベルト卿もアルトベッロ卿も麻湯のような国力を衰えさせる薬は問題と思ってくれましたが、他のダンジョンの資源や生産物は興味があるようです。また地下街の商業にも関心があるのでしょう。ただダンジョンの土地を治めているのが誰かわからないというのはいささか不都合です」
なるほど、話が見えてきた。
要はこれから重要になるかもしれない〝土地〟が誰のものかわからないと、外国や無関係の貴族が所有権を主張するなど面倒なことが起きかねない。
「それでヨーミ伯爵が必要になったと……。でも、どうして僕なんですか?」
ビーンさんが答える前にディートとリアが答えた。
二人が顔を見合わせている
「そんなのまあ当然よねえ?」
「はい。トール様しかいませんよね」
リアもディートもなにを言っているんだ。
「ええ? なんでさ?」
「なんでって……」
僕が聞き返していると二人が答える前に、案内役と思われる紳士に声をかけられた。
「トール様とその御一行様ですね」
「はい」
「準備が出来ましたのでこちらに」
話が中断となってしまうが、仕方ない。
案内役の紳士は僕達が入ってきたところから別のホールの出口に通してくれた。
そこは縦長の巨大なテーブルがある部屋でランベルトとアルトベッロが向こうの端に座っていた。
僕は狭い面の正面に座り。リアとディートとビーンは僕側の広い面の端に座らされた。
案内役の人が言った。
「すぐに陛下がいらっしゃいます」
「ええ?」
陛下って国王陛下って意味だろうか。
驚いたが厳粛な雰囲気のなかでは騒ぐことも出来ない。
とりあえず黙って座ってるしかなかった。
リアやディートも少しざわついたが、大人しくしている。
しばらくするとまた別の入口から複数の案内役に囲まれた身なりの立派な初老の男性が入ってきた。
冠もかぶっている。
ランベルト卿とアルトベッロ卿が立ち上がって頭を下げる。
あの二人が頭を下げるということは、この人が王なのではと思って僕も真似をしようとすると初老の男性は腕をあげて手のひらをパタパタと上下させた。
「良い良い。座ってくれ」
ランベルト卿とアルトベッロ卿が短く答えて座る。
先ほどの案内役の男性のほうを向く。
目があってうなずかれた。
僕も座っていいということだろう。
王らしき人は僕の向いのやはり狭い面に座った。
「世がフランシス王である。賢者殿はずいぶん若いのだな」
や、やっぱり、王様か。
なんて答えればいいんだ。
準備もなにもしていない。それらしく答えるしかない。
「えぇ。魔法で若さを保っています」
適当に答えたけど魔法あるのかなと思っていると、王様は勝手に感心してくれた。
「なんと世にも稀な魔法よ。世に賢者の伝説は数あれど、本物を我が目で見ることが叶おうとは」
「い、いえ。そんな」
仕方ないので曖昧に笑う。
王様は笑顔で左右にいるランベルト卿とアルトベッロ卿に耳打ちしてから急に立ち上がった。
「賢者殿、今日は楽しんでいかれよ」
王様が去っていくとランベルト卿が言った。
「今のはトール殿の面通しだ。王は了承された」
明らかに僕がヨーミ伯爵として叙勲される話だろう。
「ちょ、ちょっと待ってください。どうして僕が?」
先ほどもリアとディートに聞いていたが、中断された。
代わりに二人の大貴族に尋ねてみる。
アルトベッロが笑った。
「君は、麻湯で儲けようとしたり、ダンジョンの地下を支配しようとしたテシオを倒した立役者ではないのかね?」
ま、まあ、そうかもしれないけど。
「古来から槍働きで敵地を切り取ったものはそこに封ぜられるものだ」
「い、いえ。皆やアルトベッロ卿の手助けがあったからこそで」
「ははは。賢者殿は謙虚だな」
謙虚とかそういう話ではない。
普通の日本人が貴族になれるなんて言われても怖いだけなのだ。
「私は危うくアイツに悪事の片棒を担がされるところだった。改めて礼を言う」
「い、いや。そんな。でも僕がダンジョンを領地として貰うなんて」
「私もランベルト卿にご協力を願って色々調べた」
なにを調べたのだろうか。
「ヨーミのダンジョンの一階の地下スラムは様々なギルドや勢力が入り乱れていてそれを調停しているのが賢者殿だそうだな。信用も厚いとか」
ま、まあ、ミリィや一部の店舗からは信用が厚いと言ってもいい……のだろうか。
「それに地下街に住む人々のために我々が聞いたこともないような商業施設を作ろうと進めているとか。私も話を聞いて度肝を抜かれたよ」
この辺の情報はビーンさんから聞いたのだろうか。
商売熱心な貴族には関心が深かったかもしれない。
「その上、賢者殿はヨーミのダンジョンに何百年も隠遁していると聞いておる。誰よりもダンジョンに詳しいであろう」
これはもうダメかもわからんね。
「しかし……そうは言っても……」
なんとか最後の抵抗を試みてみてみる。
僕がそういうとアルトベッロは急に腕を曲げ力こぶを作って叩いた。
「荒くれ者どもはこれがないと納得すまい」
「へ?」
「ぽっと出の貴族や代官を派遣しても誰も言うことを聞かせられないだろう? 賢者殿はワシのところに一緒にきたゴブリンザムライを一騎打ちで討ち果たしたそうではないか。魔導を極めながら武芸の修行も怠っていないのであろう」
確かに強くはなってるんですけど……エアコンの効いた部屋でポチポチクリックしてるだけです。
いやクリックしてればまだマシなほうで、最近じゃ自動マクロツールでレベル上げしてるだけなんですけど。
真実を知っているリアやディートなら上手く誤魔化してくれるかもと二人を見る。
「しかも賢者殿は有名な美しい女冒険者たちと協力して、ついには変異種の凶悪なゴブリンキングまで討ち果たしたそうな! あっぱれである! 叙勲にふさわしい!」
リアとディートは「有名な美しい女冒険者たちと協力して」のくだりで大きく首を上下させていた。
しばらくしたら活動報告にコミックスの販売関連の情報を乗せておきます。




