アルトベッロが味方になった理由な件
僕たちは王都の港に建っているフルブレム商会の商館にいた。
大陪審も無事終わったので今夜は商館に一泊して、ヨーミのダンジョンがあるヘラクレイオンの街には明日帰る予定になっている。
夕食をふるまわれた後で客室でゆっくりしていた。
シズクによるおばさんの変装を脱いで、ゴブリンの姿に戻ったゴブリンサムライもいた。
「ダンジョンガ ナツカシイデゴザルヨ。アシタニハ カエレルノデ ホットシテイルデ ゴザル」
「も~切腹とか言ってたのに。あははは」
「ハハハ。トオルドノ~。ニンゲンノ マチハ セップクヨリモ コワイデ ゴザルヨ~」
ディートが首をかしげる。
「それにしてもアルトベッロとかいう貴族はテシオと繋がっていたっぽいのにどうしてテシオを追い詰めたのかな?」
僕とゴブリンサムライが笑った。
「ははは」
「ハハハ」
ディートが頬を膨らます。
「もう! なんで笑うのよ!」
ディートのふくれっ面をひとしきり楽しんでから説明する。
「いや~実は事前にゴブリンサムライとアルトベッロに会ってたんだよね」
「ええ?」
「もちろんビーンさんも一緒にね」
「どんな話をしたの?」
「アルトベッロはテシオやターレア商会から金は貰っていたけど麻湯のことは知らなかったんだ」
リアもディートも話を聞き入っている。
「ゴブリンサムライやテシオの工場の画像、地球の麻薬の危険性の画像も見せて、麻湯は長い目で見たらこの国の貴族であるアルトベッロさんのためにもならないと話したら納得してくれたよ」
「そう……それでアルトベッロはこっち側に味方してくれたのね。敏いテシオはすぐに気がついて無罪は無理と諦めたのか」
ディートは納得してくれたようだが、アルトベッロがヨーミのダンジョンの開発に加わる話もしなければならないだろう。
「まあヨーミのダンジョンの投資や開発には加わりたいって言われたけどね」
リアが不満気にいった。
「えー盗賊ギルドさんやフルブレム商会さんや私たちが今まで頑張ってきたんじゃないですか!」
「まあ、いいんだよ。こういうことは皆で盛り上げたほうが。それに他にもメリットがあるんだ」」
「メリット?」
僕とゴブリンサムライが顔を見合わせる。
ちょうどその時、客室のドアが叩かれる。
商館の女給さんが僕たちを呼びに来た。
忙しそうにずっと姿を見せなかったビーンさんが帰ってきたらしい。
皆で応接室に向かうとビーンさんは既に座っていた。
「どうも皆さん。貴族の方々と調整に手間取りましてね」
テシオはヨーミのダンジョンの地下一層の実力者だった。
その穴が抜けた調整をビーンさんがしてくれているようだ。
「なんか苦労かけているようですいません。ひょっとしてテシオが存在することを前提で色々考えていたのでは?」
僕がそう言うとビーンさんが笑う。
「いえ、テシオのような野心の強い男は、さらに上を見ようと、必ずまた何かを起こしますからいなくなってくれるなら、それに越したことはないですよ」
「そうですか」
「トールさんがゴブリンサムライさんを連れてアルトベッロ卿を説得してくれたおかげです」
ビーンさんが感謝する。
皆で笑顔になった。
「そうだ!」
リアが急に思い出したように言う。
「ビーンさんが来たから途切れちゃったけど、アルトベッロ卿をヨーミのダンジョンの開発に引き入れるのにどういう意味があるんですか?」
先程、中断された話だ。
僕が話す前にビーンさんが笑った。
「あ~あの話かな。あの話なら上手くいきそうですよ」
「ホントですか?」
「ええ」
「オオ マコトデゴザルカ」
僕とビーンさんとゴブリンサムライで頷きあっていると
リアが首をひねる。
「どういうことですか?」
実はアルトベッロは広い領地を持つ大貴族だが、人口は少なく未開墾の土地がほとんどらしい。
僕が説明した。
「アルトベッロは洞窟や森もある未開墾の土地もある大貴族だからゴブリンを移住させてもらえないかと交渉したのさ」
「「ええ~。ゴブリンを?」」
リアとディートが驚く。
「ああ、そもそもヨーミのダンジョンはゴブリンの数が増えすぎて、テシオから食料を買うなりしないといけなかったみたいでさ。それでまた増えて……」
「で、でもゴブリンですよ。あっ。ゴブリンサムライさんはいい人……もとい、いいゴブリンですけど」
リアの言うことはもっともだ。
冒険者とゴブリンは不倶戴天の敵同士。被害者も多い。
ビーンさんが笑う。
「いや~私もさすがに無理だと思ったんですけどね。トールさんのアーティファクトの写真でしたっけ? 麻湯畑の写真を見せたり、ゴブリンサムライさんと直接会って頂いたらアルトベッロ卿がゴブリンの移住に大賛成して」
「そっか。麻湯畑の写真見せたりゴブリンサムライさんに直接会わせたのなら」
「トールさんは流石、賢者様だと思いましたよ」
「うんうん。そうですね」
リアとビーンさんに褒められて照れていると、ディートから冷たい目で見られる。
「もう! 調子に乗っちゃって! 大陪審はこの国の貴族が集まっていたのよ。賢者として有名になっちゃった上で顔を知られたのよ? 良かったの?」
それは僕も考えていたことだったが……。
「ゴブリンサムライが切腹するよりはいいよ」
「トオル……でも気をつけてね。テシオに暗殺されそうになったんだし、ヨーミのダンジョンの利権にも絡んでると思われてるんだから」
「ああ。気をつけるよ。でも大丈夫さ」
ディートに答えるとビーンさんが腕を組む。
「そうですね。それに絡んでなんですがトールさん、皆さん、帰るのを明後日にしてくれませんか?」
僕が聞き返す。
「どうしてですか?」
「明日の夜、王宮で晩餐会が開かれましてアルトベッロ卿やランベルト卿が賢者のトールさんもお招きしたいと」
リアとディートが驚く。
「「ええええ? 王宮での晩餐会!?」」




