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僕の冒険度が上がってきた件

 出口の天井が崩れる瞬間、ゴブリンサムライが僕を外に向かって押した。

 天井が崩れ、砂埃が舞う。


「ゴ、ゴブリンザムラーーーーーイ!!!」


 なんとゴブリンサムライが自分を犠牲にして僕を助けてくれたのだ。


「ううう」


 僕ががっくりとうなだれてしゃがみ込むとディートが肩に手をあててくれた。


「トオル……」

「ありがとうディート」

「え? う、うん。ところであのゴブリンサムライどうしよっか?」

「へ?」


 砂埃が晴れた出口の外にゴブリンサムライが倒れている。

 後、数センチで崩れた岩に押しつぶされていた。

 すんでのところで助かったのだ。


「よ、よかった。サムライ……」


 ディートは冷たく言い放った。


「誰か縄でそいつを縛って! 重要参考人よ!」

「そ、そりゃそうなんだけど」


 状況を確認すると他にも抜け道があったのかかなりの数のゴブリンが工場から抜け出ていた。

 しかし、ここのボスであったサムライが捕まったのを見ると、皆投降してきた。


「こっちにはサムライがいるのよ。それぞれがそれぞれの手と足を縛っていきなさい」

「ボ、ボス~。ワカリマシタ」


 なんだかディート、いや僕達のほうが悪い奴らみたいだ。


「で、アンタ達は商人ギルドに麻湯を卸してたのね」

「ワタシナニモハナサン」

 

 ゴブリンサムライが質問に拒否をするとディートが手足を縛られたゴブリンの頭を杖でポカリと殴る。


「お、おい! 暴力はよくないよ」

「トオルは甘いわよ。ゴブリンに冒険者が何人殺されてると思ってるの? 見なさいあの人!」

「ゴ、ゴブリン殺すべしいいいいいいいい!」


 全身重鎧の戦士の人がゴブリンと一緒に縄でぐるぐる巻きに縛られていた。

 捕虜にしたゴブリンを殺せと騒いでいる。

 なんでもゴブリン退治の専門家らしい。

 あんな専門家がいるほど、この世界のゴブリンと人間は殺し合ってしまっているようだ。

 実際、麻湯を作られるのは相当困る。


「しかし、捕虜の尋問に暴力を使うのは人権、いやゴブ権が……」

「ゴブ権? そんなもんないわ」 


 僕にはサムライやゴブリンがそれほど悪いとも思えなかった。

 別種族なので食うか食われるかの関係になっているだけではないだろうか。

 それを理由に殺し合ったら、ある意味でテシオ以下かもしれない。


「まあ、ともかくゴブリンを殴って言うとこを聞かすとかはやめて説得しよう」

「わかったわよ。でも説得するならトオルがやりなさいよ。口が上手いんだから」


 上手いかなあと思うけど、異世界人のようにゴブリンとの因縁がない僕がやる仕事かもしれない。


「僕はこれ以上、ゴブリンさん達を傷つけるつもりはないんだ。だけど麻湯を作られるのは困るんだ」


 ゴブリン達がこそこそと話し合っている。

 ゴブリンサムライが言った。


「ゴブリンハニンゲンヲコロス、ニンゲンハゴブリンヲコロス。ダガ、アイツラダケガコウエキヲモトメテキタ」


 アイツらだけが交易を求めたか……きっと地下一層の商人ギルドのことだろう。


「アイツラガワレワレヲリヨウシテイルコトハワカッテイル」


 おお、ゴブリンサムライは商人ギルドがゴブリンを利用していると思っていつようだぞ。

 やはり話せばわかるかもしれない。


「ソレデモコチラニトッテハトクダ。ニンゲンモコロスナ、マトウモツクルナデハワレワレハドウスレバイイノダ」


 ううう。そうだよなあ。


「ダガオマエハブカヲタスケヨウトシテクレタ。ヒトツチュウコクシヨウ」

「忠告?」

「マトウノハタケモコウゲキシテナイカ?」


 ゴブリンサムライ達は縄で縛られているのだし、機密だけど話してしまったほうがいいだろう。


「うん。まあふた手に分けて」

「アチラニハゴブリンオウサマガイル。ヒイタホウガイイゾ」

「ゴブリン王?」

「ワレラノオウダ」


 ひょっとしてと思ってディートの顔を見る。


「ひょっとして変異種のことじゃないか?」

「まさかフリージングウェイブはかなり強力な氷系魔法よ……」


 僕は慌ててゴブリンサムライに聞いた。


「ゴブリン王ってアンタよりでかいのか?」

「アア、バイグライ、アル」

「変異種は死んでなかったんだ。リア達が危ない」 


 僕は弱い冒険者達にゴブリンサムライを見張ってもらってディートと麻湯畑に急いだ。


「私の氷系魔法でも倒せなかったとなるとかなり強い変異種かも」


 畑の組はリアがリーダーに江波さん、そのオーク妻のフランソワーズ、エドワードなどがいる。

 工場より畑のほうが警戒が厳しいかと思ったが、変異種がいるとは思わなかった。

 皆、無事でいてくれよ……。


「ディート、水上歩行魔法を!」

「うん!」


 水上歩行魔法で真っ直ぐに麻湯畑がある島に走る。

 途中、カヌーで斥候をしているゴブリンに見つかったが、構わない。

 そのまま真っ直ぐに走り抜けた。


「聞こえる」

「え?」


 斜め後ろを走るディートを見ると尖った耳がピクピクしていた。

 なにが聞こえるのか聞こうとして僕にもすぐわかった。

 遠くからときの声や金属と金属がぶつかっている音が聞こえてきた。

 ポテトチップのおかげかディートを置いていけば、もう少し早く走れそうだった。


「ディート! 先に行ってるぞ」

「えぇ? 気をつけてね」


 島に入る。島の周囲は森になっているが、なかは畑になっているはずだ。

 そちらのほうから音は聞こえてくるから間違いない。

 幸い、多くのゴブリンと冒険者が倒れていたが、リアは無事で巨大な変異種と対峙していた。

 一人の冒険者が横から突撃して、変異種の棍棒、といってもただの削り出した丸太の攻撃を受けそうになる。

 冒険者を守るためにリアが盾を構えて割って入る。

 冒険者は守れたが、リアは盾ごと後ろに飛んでゴロゴロと回転した。

 それでもなんとか立ち上がる。


「リアーーー!」

「ト、トール様。危ないです。来ないで」


 変異種が僕に気がついて振り向きざまに丸太を薙いできた。

 僕はそれをジャンプして躱し、変異種のゴブリンの懐に潜り込んでピッケルで右足の脛を思いっきり叩いた。


「ぐおおおおおおお!」


 ゴブリンがバランスを崩して倒れそうになる。


「未だ。リアは左足を頼む!」

「は、はいっ!」


 リアも再びゴブリンに走り寄る。

 ゴブリンが丸太を構えようとしたところで僕はもう一度右足の脛をピッケルで叩いた。


「があっ!」


 またゴブリンが体勢を崩したと同時にリアが変異種のゴブリンの左側を走り抜けた。

 すると変異種のゴブリンは左足の太腿から血の花を咲かせて後ろに倒れた。

 リアのほうにかけよる。


「はぁっはぁっ。やったなリア」

「まだです。トール様。トドメを刺さないと」

「ぐああああああああ!」


 巨大なゴブリンが右足だけで立とうとする。


「大丈夫だよ。リア」

「え?」


 僕は目の端でディートが詠唱に入っているのを見ていた。


「スペルルーツバインドォ!」


 ディートがそう詠唱すると巨大な木の根が地面から現れて変異種のゴブリンを縛り上げていった。


「す、凄い!」


 リアが心底、感心する。


「ホント、ディートの魔法は凄いよな」

「ディートさんじゃないですよ。トール様ですよ」

「え? 僕?」

「はい! 助けてくださってありがとうございます」


 リアは笑顔を作った後、傷ついた体を僕の体に預けた。


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