ゴブリンのお侍がいた件
僕は廊下の途中にいるゴブリンをなるべく殺さないように倒す。
この世の真理はわからないが、言葉、特に日本語を解す生物を殺すのはカルマがたまりそうで嫌だった。
ディートの眠りの魔法でオークも棍棒でそれに付き合ってくれているようだ。
冒険者達は生か死かの関係なのでもちろん容赦がなかった。
「順調ね」
「ああ」
ディートがいうように順調に奥に進んでいく。
遭遇したゴブリンはすぐに倒している。
工場内のゴブリンにも襲撃はまだバレていないようだった。
暫く走るとついに大部屋を見つけた。
多数のゴブリンが麻湯の草を仕分けしたり、大釜で煮ている。
「ギギッ! ドコカラキタ!」
さすがに見つかって乱戦になる。
冒険者とゴブリンの数は同じぐらいだが、こちらは武装しているし心構えが出来ているので有利だ。毒矢対策のコーラもある。
僕も後ろからアイポンで工場の写真を撮った。
素早く写真をとってから前衛に向かいつつ叫ぶ。
「ディート!」
「うん!」
前衛でゴブリンと戦いながらディート達、魔法組の詠唱時間を稼ぐ。
殺到するゴブリン。押しとどめつつ耐える戦士系職の冒険者。
数分後、光と衝撃と轟音が次々と吹き荒れる。
粉塵が晴れだすと爆発系の魔法が工場内の麻湯設備を完全に破壊している光景が目に入った。
しかし、やり過ぎたかもしれない。あの吹っ飛んで跡形もなくなっている場所には柱もあった気がする。
工場の天井まで崩れだす。まあ目的は果たした。
「撤収~! 戦士系がしんがりになって退くぞ~」
僕や戦士系の冒険者やオークがゴブリンを押しとどめながら、先に弱い冒険者や魔法系冒険者を逃がす。
作業場の部屋につながる廊下は細い道が長く入り組んでいるので、壁役の冒険者がゴブリンを押しとどめながら退くのに有利だった。
それ以前に作業場が爆発してからゴブリンの統制はさらに乱れて追ってくる個体も少ない。
しばらく戦うと、ゴブリンが襲って来なくなったので、戦士系の冒険者もゴブリンに背を向けて先に逃げた魔法系冒険者や弱い冒険者を追う。
ところが工場を出口に向かってしばらく走っていると前方の方から悲鳴が聞こえた。
「きゃー!」
「うわーっ」
周りの戦士系冒険者を顔を見合わせて先を急ぐ。
なにやら工場の出口付近で固まっている。
やっと前方の方に出ると通常のゴブリンの体が大きくて戦国時代の兜のような角が生えたゴブリンとディートが対峙していた。
2mぐらいあるんじゃないだろうか。
付近には斬られた痛みで顔を歪めた冒険者が倒れたり座ったりしている。
どうやらこの工場は大作業場まで入り組んだ道で出来ているなと思っていたら、秘密の通路があって僕達は先回りされていたらしい。
「火の精霊サラ……」
「サセンゾ!」
「くっ!」
ディートが詠唱をしようとすると大きなゴブリンが剣を振るう。ディートは杖で剣を払う。
他の弱い冒険者もディートを助けようとするが、他にも数匹のゴブリンが大きなゴブリンを守ろうと連携を取っている。
「ゴブリンサムライだ!」
一緒に戻ってきた戦士系の冒険者が言った。
「サ、サムライ!?」
「ゴブリンの戦士です」
どうやらあの兜みたいな角が生えているゴブリンはゴブリンサムライと言うらしい。
日本語だし、やっぱモンスターと過去の日本はなにか交流があったのだろうか。
「肉弾戦なら戦士系の職業でレベルで25ぐらいはないと……」
「げ? 25?」
最後まで言い切ってくれていないが、明らかに25ぐらいはないと倒せないとか危険とかそんな話だろう。
冒険者のみんなは15前後がほとんどだ。僕は30あるが無職は戦士系なんだろうか?
そんなことを考えているとディートの杖にゴブリンサムライの剣が食い込んでいた。
ディートはレベル48だが魔法系で肉弾戦は弱く、魔法攻撃の詠唱時間を稼がなければならない。
彼女の杖の素材はなにかの木だと思う。
「危ない!」
「トオルッ!」
僕のピッケルがゴブリンの剣を弾いた。
「キコウガアタマカ? コウジョウヲオトストハ、ミゴトナオテマエ」
「そりゃどうも……ディートみんな先に行け」
既に普通のゴブリンは戦士系の冒険者が倒してくれたが、25レベルないと対応できないなら皆が居ても怪我人が増えるだけだ。
「フフフ、イッテ、オアイテ、オネガイイタス」
ゴブリンサムライは剣を構え直した。こちらもピッケルを中段に構え直す。
その間に脇から冒険者が工場から出て行くが、ゴブリンサムライはこちらを見据えるだけだ。
隙を狙っているのかもしれない。
「キエエエエエッ!」
「めええええええんっ!」
僕とゴブリンサムライの体が交差する。
瞬間、ゴブリンの角に僕はピッケルを振り落とした。
手応えありだ。
「ギエエエエエッ」
ゴブリンサムライは角が折れてもんどり打って倒れた。
「す、すまん。実はここに来るまでの食事で筋力が50%アップするチーかまと敏捷が50%アップするポテトチップを食べていたんだ」
ふと周りを見るとディートだけが残っていて杖を構えていた。
「ト、トオル私も苦戦してたのに……」
「ディートまだ居たのか。ディートなら詠唱の時間が稼げてたら一瞬だっただろ?」
「そ、そりゃそうだけど」
「そんなことより逃げよう」
「う、うん」
ディートが建物を出ていくのを見送る。
僕は倒れているゴブリンサムライの腕を取って肩にかけた。
ううう。でかい。
「さ、早く逃げるぞ」
「ウギギギ。ワタシハマケタ。ブカハシンデイル。オイテイケ」
「出口は近いんだから……」
げっ。天井が崩れる。
色々とありまして更新遅れてすいません。
各所で売り切れになっていたコミック版1巻の重版分は12月1日頃に書店等に入るようです。
よろしくお願いします。




