僕も隠れて冒険者レベルをあげている件
オーク村で歓待を受け、オークの戦士の援軍を得た僕達は意気揚々と地下六層を進んだ。
案内は江波さんの奥さんであるフランソワーズの兄エドワードだ。
うん。かっこいい名前だけど、もちろんどっからどう見てもオークだ。
しばらく、歩くと下層に降りる階段が現れる。
ヨーミのダンジョンの七層は湖と島の階層だ。
六階からの階段を降りると遺跡風の湖の岸だったり、いずれかの島に繋がっている。
オーク達が教えてくれたルートは島につながっていた。
光源の魔法やアイテム使わなくても光る湖の水と壁で七層は明るくなっている。
エドワードは地下七層の地図の書き込みを見て感心していた。
「コンナトコロニコウジョウガアッタンダナ」
「麻湯の草の畑がある島からも近いね」
浮かぶ無数の島のなかには背の高い草が生えている島も多くて内部がどうなっているかはわからない。
森のように木が覆い茂っている島もあった。
畑のある島はドローンでリアが見つけたので正確な場所はわかっている。 工場がある島はフルブレム商会が調べたものだから間違いはないだろう。
僕達は途中の島で身を隠しながら徐々に地図に記された場所に近づいていく。
島の中は身を隠せるが、水上歩行の魔法で水上を移動する際は丸見えなので慎重に移動しなければならない。
かと言って、あまりゆっくりして地上の作戦が伝わってしまうと警戒されてしまう。
あまり時間はかけることもできない。
静かに、しかし、早足で進んでいると先導のエドワードが立ち止まった。
「どうしました?」
「ゴブリンノホショウダ」
島の影からカヌーが頭を出す。
ディートと魔法使いの冒険者が前に出た。
「スリープミスト」
「ブリーズ」
手はず通り眠りの霧と風の魔法が、カヌーで歩哨をしているゴブリンを眠らす。
冒険者が縛り上げて近くの島に逃げ込んだ。
「ふう。気が付かれて仲間を呼ばれる前に縛り上げられてよかった。ディートのおかげだよ」
「えへっ」
僕がそう言うと同行者も皆頷いた。
島の中で地図を確認すると麻湯の畑と工場が近い。
「そろそろパーティーを別けようか」
僕達は畑と工場を同時に攻撃するつもりだった。
水上歩行の魔法ができる魔法使いを均等にわける。
リーダーのリアを畑組へ、ディートを工場組にする。
僕は工場に行くつもりだ。
「畑には強力な魔法を使える私が行って焼き払うほうが良いんじゃないの?」
「ふっふっふ」
僕が笑うとディートは訳がわからないという顔をした。
畑組になってしまった一部の冒険者が運んでいたリュックを開けてもらう。
白い砂のようなものが現れる。
「食料を運んでいるかと思ったらお砂糖?」
「違う。塩だよ。これを畑に撒くんだ」
ゴブリンが開墾したところ悪いけど、塩を畑に撒くと確実に植物が育たなくなる。
「塩! なるほど……」
「焼き払うと危険だし、証拠もなくなっちゃうし、ディートは色んな補助魔法も使えるからなにがあるかわからない工場のほうが良いだろう?」
「わかった」
僕はリアを見る。
「というわけで畑に行く組はリアに任せたよ」
「はい!」
リアは塩が入ったリュックを背負った冒険者達と畑がある島のほうに向かった。
僕達も工場がある島を目指す。
水上ではアンモナーという巻き貝の吸血モンスターが時たま襲ってきたが、その度に冒険者達は連携してすぐに倒した。
冒険者ギルドの酒場や地下スラム街で飲んだくれている姿ばかりを見ていたので心配していたが、見事な連携を見せていた。
歩哨のカヌーも増えていくがディートがすぐに眠らせた。工場はもう近いので放って置く。
工場がある島に乗り込んだ。
やはり木が覆い茂っていて外からは知ることができない島だった。
けれどゴブリンが踏み均した道が続いている。
「間違いないな」
「ええ」
僕もディートもこの先に工場があることを確信する。
すぐに石のブロック造りの建物が見えてきた。
茂みに隠れながら近づく。建物の周りを哨戒していた数匹のゴブリンも眠らせた。
「まったく警戒してないね」
「きっといつも通りの哨戒なんでしょ」
「このまま乗り込もう。チャンスだ」
「そうね」
僕はピッケルを構え直して前に出る。
ディートが止めた。
「トオル前に出過ぎよ」
「前に出すぎって、僕が先頭になるんだよ」
「えぇっ? トールが?」
「なんで驚くんだよ。レベル30になってるんだぞ」
ディートを除けば、僕が頭一つ抜けているレベルだった。
マロンちゃんのように10以下の冒険者も混ざっている。
「レベル30!? 嘘でしょ?」
「ホントだよ」
「ずるーいっ! 私レベル30になるのにどれだけかかったと思っているのよっ!」
ディートは慎重に冒険をしていたのだろう。生死がかかっているのだから当たり前だ。
僕は貪欲に二十四時間自動プログラムでレベル上げをしている。
たまにこそこそと異世界に行って冒険者ギルドの依頼だってこなしている。
「ディートは肉弾戦が苦手な魔法使いなんだから後衛にいてよ。僕は前衛で守るよ」
「う、うん」
こう言えば大人しく引き下がってくれると思っていた。
僕は先頭に立ってそろそろと頑丈そうな木の扉の前に行く。
トントントンと三回扉を叩く。
「ギギギ。アイコトバヲイエ。ネズミ」
合言葉についてはフルブレム商会が調べてくれていた。
「美味い!」
なんでも自信を持って美味いと答えればいいだけだ。
扉がゆっくりと開かれる。
「ギ? ニンゲッ」
「ギャッ」
ピッケルの柄の部分を扉を開けてくれた二匹のゴブリンの頭に叩き落とす。
ゴブリンはどさりと倒れた。
「死んでたらごめん。なんまんだぶ。みんな行くぞ!」
僕の合図に冒険者たちは無言で頷き建物に入っていく。
一人を除いて。
「ふふふ。有名冒険者パーティーのリーダーみたい。これなら一緒にダンジョンの深層を冒険できるわね」
実はそのためにこっそり鍛えていたのだ。
「ディートは後衛だろ」
「だって~トオルのカッコイイところみたいもん」
そんな話をしながら麻湯の製造場所を探して入り組んだ道を奥に進んでいった。
色々とありまして更新遅れてすいません。
11月10日に小説版3巻とコミック版1巻が発売になりました。
コミック版1巻は既に大重版がかかっています。
よかったら手にとって見てください。




