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地下ギルドの会合はやはり危険な香りな件

「持ち帰って検討するわけにはいきませんか?」


やはりノエラさんは考えあぐねていたのだろう。

麻湯のビジネスの許可はもちろん、黙認すらも出来ない。

一方でモールに他の地下ギルドも入れたくない。


「はあ?」


ソロッツォが凄む。


「出資したフルブレム商会とも相談が必要ですし……」

「なんのための会合だ? 条件を飲むならお前がフルブレム商会を説得しろや」


そりゃそうだ。

地下ギルドの組長が顔を合わせて会合しているのだ。日本の企業ではない。

細かい条件はともかく大枠も決められないで持ち帰るでは話にならない。

さらに持ち帰って検討しても先延ばしになるだけでなんの意味はない。

条件を飲むと言うことはフルブレム商会を説得することはコミだ。

失敗したら足元を見られて終わりだと思う。

それぐらいはノエラさんだって、普段は分かっているはずだ。

テシオさんのモールに傭兵ギルドと商人ギルドの店を入れろという提案は動揺させたらしい。

ノエラさんに小声で耳打ちする。


「任せてもらっていいですか?」

「え?」


僕はノエラさんの返事を聞く前にテシオさんに笑顔で答えた。


「いいですよ。じゃあ皆さんも一緒にモールのビジネスを成功させましょうよ。僕がフルブレム商会を説得しますから」

「な?」


ノエラさんがなにか喋ろうとする。

何か言われたら僕の考えは失敗する。


「ひゃっ」


テーブルの下のノエラさんの太ももを触ってそれを止める。

そして畳み掛けた。


「お二人も麻湯はどんな些細なビジネスもしない、したらモールから撤退するという条件を仲介役の冒険者ギルドに誓えますか?」


僕が冒険者ギルドの仲介役のトマシーノさんを見ると彼は静かに頷いた。

テシオさんが笑顔で言った。


「抗争が避けられて良かった。構わないなソロッツォ?」

「あぁ」


ソロッツォも渋々ながら承諾したようだ。

会合は終わった。


「ト、トール様!」


冒険者ギルドから出るとノエラさんから抗議を受ける。

顔も赤くやや涙目だ。


「す、すいません」

「いやいいんです。トール様の考えはわかりましたから」


僕らは盗賊ギルド本部に戻りながら話す。

自分のしたことを吹聴するようで嫌だけど、ノエラさんと僕の考えに齟齬がないか申し合わせておかなければならない。


「僕の考えって?」


ノエラさんが小声で話す。


「フルブレム商会が説得できなかったり、傭兵ギルドと商人ギルドの店を入れられないとなった時に、あの約束は賢者とか名乗る変な人が勝手に言ったことで盗賊ギルドは知らないで突っぱねろってことですよね。抗争も覚悟するならそれができます」


ご名答とは言うことはできない。盗賊ギルドの代表であるノエラさんが知っていてはいけないことなのだ。


「なんのことだか。でもこれで他のギルド員に対しても大っぴらに麻湯を取り締まれるし、少なくとも表では扱わなくなりましたね」


ノエラさんも頷いてくれた。

それにしてもやり手そうに見えるテシオさんがノエラさんの言質を取らなかったのは、ミリィが僕の話を方方ほうぼうで吹聴してくれたからかもしれない。


「でももう少し触る場所を考えてくれませんかね」

「す、すいません」

「もうっ!」


ポカリと頭を叩かれてしまった。

けれどノエラさんは上機嫌だ。

お尻を触っても大丈夫かもしれない。


モールの建物を通って地下街に入る。

ここから真っ直ぐに盗賊ギルドの支配地区を通って行くとギルド本部だ。

都合よくそうなっているわけではない。ノエラさんが盗賊ギルドの支配地区を商人ギルドの支配地区と一部交換したのだ。

だからこの辺は元々商人ギルドの店が多い。

なにか胸騒ぎがしたと同時に近くの店の二階の窓からキラリとした光が見えた。


「シズクッ!」


僕が叫ぶと同時に風切音が飛んできた。

上半身で革鎧をしていたシズクからスライム手が伸びて僕に飛んできたものを防ぐ。

それは矢だった!

自分に飛んできた矢を無視して、僕はノエラさんに飛んできた矢を払った。

戦国時代には矢を刀で落とすことは結構あったらしい。

そんなことが自分にも出来るかは疑わしかったが、既に日本人としてありえないレベルになっている僕は簡単に矢を落とした。

矢が飛んできた場所からか人が逃げる気配がした。


「あ、ありがとうございます」

「ご主人様カッコイイです!」


立派にノエラさんの護衛役を果たせたようだ。シズクも同意してくれる。


「シズクのおかげだよ。ともかく今は逃げよう」

「あっ」


僕はノエラさんの手を握って盗賊ギルドの本部に走った。

直線で走れば走るほど昔からの盗賊ギルドの支配地域に成るので、その後の危険はなかった。

盗賊ギルドについてからすぐにギルド員の人に指示してリア、ディート、ミリィを呼んでもらうことにした。


◆◆◆


ディートが大声をあげる。


「えええ? 会合があって帰りに矢で狙われた?」


ノエラさんが僕を見た。


「ええ。でもトオル様が身を挺して守ってくれまして。ありがとうございます」

「さっきも聞きましたよ。僕はそれが仕事で行ったところもあるし」

「うふふ」


ノエラさんと僕のやり取りにディートが顔をしかめる。

リアも聞いてきた。


「でも傭兵ギルドと商人ギルドにもモールを使用させるって話になったんですね? 麻湯をやめさせるという条件で」


ノエラさんの代わりに僕が答えた。


「そういう話にはなったよ」

「ならどうして?」

「もちろん盗賊ギルドを潰して勢力を拡大しようとしているんだ。麻湯のビジネスも辞めるつもりもないだろうし、モールのビジネスも乗っ取るつもりかもしれない」


ミリィが立ち上がった。


「ソロッツォの奴は許せない! 仲間を集めて傭兵ギルドに殴り込む!」

「いや待て。証拠がないって」

「証拠なんかいらない!」

「いや待てって。とりあえず麻湯は辞めるつもりがないことはわかったけど、それでも大っぴらにはやらないだろ?」

「う~」

「ショッピングモールで暴れられるのも困るけど、笑顔で受け入れてやればむこうも暴れない。その間に麻湯のビジネスをしている証拠をあげよう」

「でも~ソロッツォの奴! トオルやノエラを狙って!」


まだ納得しそうにない。僕は肝心のことを言った。


「それに黒幕はソロッツォじゃないよ」

「え?」


ミリィが拍子抜けした顔をする。


「じゃあ誰なのさ?」

「やらせたのはテシオさん。いやテシオだよ」

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