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傭兵ギルドと商人ギルドの提案の件

 ヨーミのダンジョンの三つの地下ギルドは勢力争いをしている。

 しかし、そもそも商人ギルドはビジネスでの買収や仕掛けなどが中心で武力はあまり使わず、最近はそのビジネスも盗賊ギルドと上手くやることが多いらしい。

 盗賊ギルドが盗みや強盗で凌ぐよりもビジネス重視になったからかもしれない。


「ところで賢者様はテントの飲食店や大きな建物の中に小さな店を集めたりどうやって得たアイディアなんですか?」


 テシオさんの顔は笑っているが目の奥の光は鋭い。

 この質問はされてもおかしくないなと思っていた。


「実はナディア海の向こうも数千海里広がっていて大陸があるんですよ……そこではフランシスにはない文化があります」


 この世界では海には限界があってそこが壁になって終わっていると信じている人達がいる。

 おそらく地球と同じで球形だと思うんだけど、フランシス王国では多くの人が突然世界の果てが来ると信じられている。


「さすがに海運で名を馳せたフルブレム商会を盗賊ギルドと組ませただけのことはありますね」


 リオさんも話に参加した。


「基本、商人は盗賊ギルドを蛇蝎のごとく嫌っているんだけどな。本当によく仲介したもんだよ」


 どうやら商人ギルドでは、僕はフルブレム商会と盗賊ギルドを組ませた坂本龍馬ということになっているらしい。

 誰がここまで僕のことを吹聴しているのだ。

 まさかノエラさんが?


「そんな大物じゃないですよ」


 テシオさんとリオさんが顔を見合わせる。


「おかしいな。アンタのところの幹部の猫娘がそう言ってるらしいじゃないか。地上の大商会と組んでモールの金を出資してもらえって賢者に教えてもらったと」


 ミリィめえぇぇぇ。

 ノエラさんは無言でペコペコと謝っている。


「アンタみたいな賢者が盗賊ギルドに加担してくれるのがよっぽど嬉しいのか、ウチのギルド員にも会う度に自慢してるみたいだぜ」


 まあ僕のことを自慢してくれるなら仕方ないのか。悪気はないんだし。


「とにかく商人ギルドは賢者様とも上手くやりたいと思っている。どうだろうモールのビジネスに噛ませて貰えないだろうか」


 このテシオさんの提案に僕が勝手に答えるわけにはいかないだろう。


「ということは今回の会合は、モールのビジネスに参入したいという要求を伝えるためにテシオさんが招集をかけたのですか?」

「いや。我々ではない」


 テシオさんはノエラさんに答えた後、冒険者ギルドからの仲裁役のトマシーノさんを見た。

 会合を招集したい場合は冒険者ギルドに頼み、冒険者ギルドは使いを送る。

 だからノエラさんも僕も今回の会合を商人ギルドが招集したのか、傭兵ギルドが招集したのかはわからない。


「傭兵ギルドだ」


 低い声が会議室に響き渡った。

 ちょうどその頃、ドカドカと足音を立てて会議室のドアが開く。

 二人の男が入ってきた。見るからにガラが悪い上に一人は帯剣していた。

 傭兵ギルド代表と付き添いだろう。


「集まってるな」


 トマシーノさんが止める。


「剣を預かる」

「暴れやしねえよ!」

「ダメだ」


 奥目の金髪オールバックの男は剣を渡そうとしない。

 たらこ唇で色黒の男が言った。


「おい! 渡してやれ」


 奥目の金髪オールバックの男はトマシーノさんに投げるように剣を渡した。

 ノエラさんが耳打ちしてくれる。


「色黒がギルドマスターのソロッツォで、金髪の男がブルーノです」


 ソロッツォのギョロ目がギョロギョロと動く。


「おめえが噂の」


 ミリィのせいでどうやら傭兵ギルドでも有名人になっているようだ。

 風貌ですぐにわかるらしい。

 ソロッツォは見せつけるようにドカリと席に座ってブルーノはその後ろに立った。

 二人はねめつけるように先に入っていた僕らを見る。

 僕は特に入念に睨みつけられてしまった。


「ポーリーが風邪をひいて、大賢者様がお越しくださるとはな」


 ポーリーさんというのはノエラさんの秘書兼護衛役をしている人だ。


「……どーも」


 ソロッツォという男はなにか警戒させる言い振りだ。

 テシオさんが割って入る。


「招集をかけたのはお前らしいな」

「あぁ、そうだ」

「さっさと要件に入れ」


 商人ギルドのギルドマスターのテシオさんもソロッツォには厳しかった。

 僕らと先ほどまでしていたような雑談はするつもりはないようだ。

 ソロッツォは反発するのではないかと思ったが、そんなこともなく要件を話しはじめた。


「お前らを集めたのは他でもねえ。麻湯のことだ」


 麻湯! 日本でいうところの麻薬の一種だと思う。

 今、盗賊ギルドとフルブレム商会が連携して地下街から排除しようとしている危険な商品だ。


「麻湯は国が禁止している。だから俺らも栽培したり、製造はしてねえ。だが、売るな、買うな、使うなというのは別だ」


 確かに麻湯はこのダンジョンのゴブリンが作っている。

 作らせてるのはこのソロッツォの可能性は高いけどな。


「フルブレム商会が麻湯嫌いなのは知ってる。だがここはヨーミの地下街。地上じゃできないような飲む、打つ、買うがあるってのがウリでもあるんだ。俺達の麻湯の売買ビジネスに口出すのをやめろ」


 盗賊ギルドは麻湯に目を光らせいる。必ずしも積極的ではない当局の取締にも協力したりしている。

 だが、ソロッツォは地下街でも麻湯の売買を好きにやらせろと言いたいらしい。

 その提案は受けがたい。フルブレム商会と組む際の条件もあれば、なにより僕の気持ちが許したくない。


「依存性があって、人を廃人にしてしまうような薬の売買を認める訳にはいきません」


 ノエラさんもやはり同じだった。


「俺達はお前らがフルブレム商会を地下街に招き入れたことに対して口を出していない」


 ソロッツォがギョロ目をノエラさんに向けていった。明らかに威嚇している。


「私達もあなた方がターレア商会を利用しているのに口を出したことはない」


 ノエラさんもまったく負けてない。

 ターレア商会とはヘラクレイオンを拠点に古くから活動している陸運の商会だ。

 もっともターレア商会は盗賊ギルドとも少しは取引があるし、商人ギルドもあるだろう。

 一触即発の空気が流れるが、部屋で武装しているのは仲介役のトマシーノさんだけだ。


「お酒のビジネスはどこでもやっています、ギャンブルは観光にもなります、女性は男性にとっては必要でしょう。しかし、ヨーミの地下街で麻湯を許したらまともな貴族、大臣、商人、みんな逃げていきます」

「ウチが麻湯で得ている利益は既に莫大だ。それをどうやって穴埋めしろってんだ? 盗賊ギルドは黙認するだけで3%のフィーを払おう。フルブレム経由で大臣達に麻湯を黙認させたら30%払ってもいい」


 フルブレム商会は政商でもあるので大臣達にロビィ活動や資金援助を行なっていて影響力が大きい。

 もちろんノエラさんは首を縦に振らない。

 ソロッツォもひかなかった。


「お前らはフルブレム商会と儲けるのに、ウチが育てたビジネスは潰すってのか? 本格的な抗争になるぞ」

「致し方ないですね」


 ノエラさんはそう言ったが、できれば抗争は避けたいところだろう。

 盗賊ギルドは安心安全をウリにしたショッピングモールを地下街に作ろうとしている。

 店鋪の買収や提携合戦ならともかく、血が流れる抗争などもっての外だ。

 地下ギルド員同士ならまだいい。客の血が流れれば、モールの計画は根底から崩壊してしまうかもしれない。

 とはいえ、麻湯を許可することはできない。


「まあソロッツォ。ノエラが言うことももっともだ」


 話が膠着した時にテシオさんが割って入った


「どうだろう? 盗賊ギルドは麻湯のことは退けないんだろう?」

「ええ。退けませんね」


 ノエラさんは淡々と話す。


「麻湯は儲け率は良いが、焼畑農業的なところがある。それを危険に思うものもいるだろう」

「……だが利益がある」


 興奮していたソロッツォもテシオさんには少しだけ落ち着いて言った。

 テシオさんは少し笑った。


「利益が問題なら話は簡単だ。傭兵ギルドは金が儲かりゃいいんだろ? ドンパチなんて賢い人間のすることじゃない」

「そりゃ、そうだが……麻湯の利益はどこから出す?」


 そしてテシオさんは意外なことを言い出すのだった。


「ノエラ。モールとやらの場所を少し開放してくれないかな? ウチと傭兵ギルドも儲けがだせるようにな」


 テシオさんは自分のギルドの利益もちゃっかりのせてきた。

 ノエラさんも少し考えあぐねているようだ。

 ここはモールのことをよく知る僕が手助けをしなければならないだろう。

次回は土曜日に更新したい。

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