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地下ギルドの面々はまるで……の件

 僕の部屋と繋がっているヨーミのダンジョンの地上にはヘラクレイオンの街がある。

 ヨーミのダンジョンはヘラクレイオンの街の産業そのものだ。

 発掘される素材や遺物、モンスターのドロップ品や毛皮骨肉に群がる冒険者は一般的にフランシス国が公認している冒険者ギルドが管理していた。

 しかし、ダンジョンに集まったのは冒険者だけではない。

 次第に集まる冒険者を目当てに商売をする商人、冒険者の傭兵になるもの、ダンジョンで利益をあげた貴族や商人から盗賊行為をするものも集まり、モンスターがほとんど出ないダンジョンの地下一階には街が形成された。

 地下街では地上で禁止されているような水準の『飲む打つ買う』のビジネスでも黙認され、大きな利益を上げた。

 それらは商人ギルド、傭兵ギルド、盗賊ギルドと呼ばれるようになる。


「当然、ギルドとギルドのいざこざが起きます」

「そりゃ起こるだろうね。相当なお金が動きそうだ」

「ええ、そもそも地下ギルドも個人が争いごとを起こさないために形成されたというところもあるのですが、ギルドとギルドになりますと」

「それで国の公認機関である冒険者ギルドが地下ギルドを仲裁するようになったんですね」

「はい。安全な会場を貸してくれたり、別のギルドへメッセージを伝えてくれたりするだけですけどね」


 僕はノエラさんから三大地下ギルドの会合の会場が冒険者ギルドになる経緯を聞いていた。

 モールの建物からは直線で冒険者ギルドがあるので、すぐにその冒険者ギルドの建物に着いた。

 冒険者ギルドは一階が酒場兼役所となっている。

 今日もまだ日が落ちるにはだいぶ時間があるというのに大酒を飲んでいる冒険者がいた。

 ディートが一人で酒を飲んでる日もあるのかもしれない。


「あ、トオルさーん」

「マロンちゃん」


 半冒半農の冒険者マロンちゃんに声をかけられる。

 この世界には農閑期にバイト的に冒険者をやっている人も結構いる。

 マロンちゃんとは何度か一緒に冒険したり、彼女の村に出るモンスターを退治してあげたこともある。


「トオルさん。私と一緒にダンジョンに行きませんか? 今日もパーティーになってくれる人がいなくて」

「今日は冒険の仕事に来たんじゃないんだ」

「えーそうなんですか? あらそちらの方はタテイシさんじゃないんですね?」


マロンちゃんが僕の影にいたノエラさんを見る。


「盗賊ギルドのノエラです。以後、お見知りおきを」

「と、ととととと盗賊ギルドのノエラさん……ど、どどどどどどうも」

「そういうわけなんで今日は」


 ノエラさんが盗賊ギルドの代表が来たと受付嬢に伝えた。

 案内役が来るから少し待って欲しいと言われる。


「ト、トオルさん。ちょっと……」

「え?」


 案内役の人を待っているとマロンちゃんに袖口をひっぱられる。


「なになに?」

「ちょっと来てください!」


 受付前で待っていろと言われたのに引っ張られて離されてしまう。

 マロンちゃんが顔を近づけてヒソヒソと聞いてきた。


「ト、トオルさん。あの人が誰か知ってるんですか?」

「ノエラさんだよ」

「盗賊ギルドの代表者ですよ?」

「う、うん。それが?」

「傭兵ギルドに押され気味だけど地下ギルドの最大勢力ですよ? 盗賊ですよ?」

「盗賊って言っても悪巧みで金儲けした商人や貴族狙いの義賊だから~ほら貧民街に施ししてるのも聞いたことない? 最近は孤児も~」

「うーん。ありますけど」


 とかく世の中は悪事ばかりが広まりやすいらしい。


「でもでも女の人が……そのなんていうか……」

「なんていうか?」


 言いたいことはなんとなくわかったが、あえて聞くことにした。


「だからエッチなサービスをする店で働かされちゃうんです。売り飛ばされて来た人もいるんです!」

「いや盗賊ギルドの直営店や管理してる店は無理矢理な人はいないはずだよ。自分でなった人ばっかりだよ。無理矢理連れてこられた人は帰したり、他の仕事を紹介してるし」

「そ、そうなんですか」

「最近じゃ、テントの商店がならんでいる武器持ち込み禁止の地下街の一角があるでしょ?」

「あーあそこのあんず飴すっごい好きです。金魚掬いにもはまってました」

「あれ、主催は盗賊ギルドだよ」

「えええええ? そうだったんですか?」

「知らなかったのか」


 どうやら一般の人にはあまりそのことは知られていなかったらしい。


「私はてっきりフルブレム商会がはじめたのかと。そんな噂を聞いたので」

「まあ間違ってないけど正確には盗賊ギルドがフルブレム商会の援助でやっている感じかな?」

「フルブレム商会が盗賊ギルドと? フルブレム商会って言ったら国が承認している大商会じゃないですか?」


 まあその大商会の前身は海賊だけどね。


「本当だよ。とにかく盗賊ギルドはそんなに悪くないよ」

「トオルさんのいうことなら信じますけど……あのノエラさんは美人だし騙されてませんよね?」

「そ、そんなことないよ」


少なくとも天真爛漫なミリィも多くの孤児も彼女が面倒を見ている。


「なんでそんなに盗賊ギルドに詳しいんですか?」

「いやー色々と僕も手伝ってるからさ」

「え、えええええ。トオルさんって村を襲ったモンスターを倒してくれたり優しい人だと思ってたけど、実は危ない男?」

「あ、危ない男?」


 僕はその手の人間とは程遠いと思うけど。

 マロンちゃんに嫌われたかもしれない。

 別に良いけど冒険者ギルドの初級者の依頼くえすととか一緒にしたんだけどな。

 薬草採取やお使いクエの楽しかった思い出が浮かぶ。


「でも怖い人でも私に優しいなら……」

「え?」


マロンちゃんが急に近寄ってきて僕の腕にリア達ほどではないがふくよかな胸を押し付けてくる。


「トオルさんとクエストをすると生活がたす……そうじゃなくて私の村にまた遊びに来てくれませんか? 泊まりで……」

「と、泊まりで?」


 無意識に復唱してしまうとマロンちゃんはコクンと頷く。

 一緒にクエストをする度にマロンちゃんに感謝されていたから成功報酬とか渡してたけどこれはひょっとして。


「トオル様」


 マロンちゃんと二人の世界にいると急に後ろから呼ばれる。

 振り返ると見るからにカタギには見えない三人とノエラさんがいた。


「だ、誰ですかこの人達?」

「商人ギルドのギルド長のテシオさん、付き添いのリオさん」


 紹介された二人が軽く会釈した。

 これが地下三大ギルドのギルド長か。初老の男性で笑顔だが、かなりの圧迫感がある。

 付き添いのリオさんもかなり美人の女性だが、護衛なのだろう。

 付き添いは護衛のことが多いらしい。


「こちらが冒険者ギルドの仲裁役のトマシーノさんです」


 トマシーノさんはガチガチに武装していた。

 ドラゴンを狩ってきそうな上級冒険者のそれである。

 

「あわわわわ」


 気づくとマロンちゃんはブルブルと震え上がっていた。

 僕は盗賊ギルドの面々になれてしまっているけど普通の人はかなり怖いと思う。


「ちょ、ちょっと大丈夫?」

「マ、マフィア……」


 慌てふためいて脱兎のごとく逃げていった。

 まあ、今度また一緒にダンジョンの地下二層辺りで薬草集めでもすれば大丈夫だろう。

 僕は軽くして聞いた。


「会場はどこですか?」

「こっちだ」


 トマシーノさんが先導してくれた。

 彼は少し足を引きずるように歩く。


「トマシーノさんは引退した元有名冒険者なんです。強いですよ」


 なるほど。足が引退の理由というところだろう。

 日本の学校の教室ほどの会議場で僕ら五人しかいなかった。

 ノエラさんに聞いたところ会合の約束の時間まではまだあるようなので傭兵ギルドは来てないのだろう。

 必然、一人だけ顔を見知っていない僕の話になった。


「君が噂の大賢者様か。会いたかったよ」


 リオが握手を求める。テシオも続けて握手をした。

 リオは終始ニコニコしている。

 テシオも話しはじめる前に笑顔を作った。


「まさか賢者様にこれほどの商才があって、その商才をわが商人ギルドではなく盗賊ギルドに発揮されるとは」

「い、いえ、そんな大したことは」


 そういえば、最近は商人ギルドとはノエラさんも上手くやっていると聞いている。

 見た目だけで悪い人たちでもないのかもしれない。

 マロンちゃんの話と同じだ。


「どうでしょう? 商人ギルドも色々と助けてはくれませんか? 賢者様が望まれるものはなんでもご用意しますよ」


 テシオに物凄くニッコリと微笑まれた。

 初老の男性の真ん中ハゲがテカテカと光っていた。

 僕はノエラさんの顔を見る。

 目で合図された。こっちの目も怖い。


「いや、まあ。そうですね。案件を言っていただければ盗賊ギルドで相談します」

「見事な返答ですなあ。ノエラさん」


 テシオ、いやテシオさんはノエラさんに顔を向けた。

 ノエラさんは何も答えないで満足そうに笑っていた。

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