ハイスコアガールズな件
――み、皆強すぎる……。
帰ってきた皆と二度目のナローポンをしている。
一回目は僕が勝ったが、二回目は運がいいのかリアとミリィは僕よりも有利な形勢だった。
僕はこのゲームもかなりやりこんでいるから便利なアイテムや強力な武器防具の位置を把握しているのにおかしいな。
友情破壊ゲームの異名通り、友達を蹴落としてきたのに。
「よし! 俺の番! 武器のマスに行くか……あ、古き神のつるぎだって。つよそう」
な、なんだと?
どうやらミリィは二、三番目に強い武器引き当てたようだ。
「ちょっと! どうしてさっきからそんなに良い武器ばっかり手に入るのよ! ずるい!」
早々に圧倒的ビリッケツになってしまったディートが怒る。
「だってたくさんの中から好きな武器を選べるじゃん」
な、なんだって?
確かに武器やアイテム、お金のマスはくっそ早いルーレットのような仕組みで物やお金の額が決まるけど。
「ひょっとして自分で好きなものを選んでるの? あの早さで?」
ディートが驚いて聞くが、ミリィは平然といった。
「たまに外すけどね」
「実は私も半分ぐらい狙っているのが出ています。ずるいかなと思って内緒にしてたんですけど」
リアもか。
どうりでミリィもリアも強いわけだ。
「ふんっ雷落としてやるんだからっ」
ディートは完全なお邪魔キャラになっていた。
まあ勝負はマスのルーレットだけで決まるものではない。
モンスターに襲われた村を解放したり、村に効率よく投資をしたりするのが王道だ。
本来運頼みのルーレットだけで勝てるものか。なんとか追いついて追いこしてやる。
――1時間後
ダ、ダメだ。
1位のミリィと2位のリアとは差が広がるばかりだった。
「もう!」
「僕なんてこのゲーム何度もやってるのに。ディートはむしろ頑張ってるよ」
「ううう。ありがとうトオル」
ディートは悔しそうな声を出したが、むしろ知識もルーレットも運頼みにしては食らいついているほうだった。
「にゃははは。トオルはしょうがないよ。盗賊、騎士、魔法使いのなかで一人だけ無職だし」
「確かにそうですね。トール様はどうしてそんな特殊能力がなさそうなキャラを使うんですか?」
ミリィは余裕の笑み、リアが疑問を口にした。
もちろん無職を選んだことには理由はある。
まさにこんな時のためなのだ。
「ディート。僕のお金あげるよ。それで強い防具買いなよ」
「いいの!?」
ディートは魔法を買って妨害ばかりしているため防具も買っていない。
これではマップ上で遠距離魔法攻撃をするならいいが、接敵したらすぐにやられてしまう。
実際、ディートはリアとミリィに直接攻撃で遠距離魔法攻撃の仕返しをされていた。
「助かるわ! ありがと!」
「いいっていいって!」
僕の狙いを成功させるにはまずは最下位にならないといけないのだ。
とりあえず持ち金をほとんどディートに渡して最下位になれたようだ。
そして僕は次のターンに普段なら最悪の落とし穴である深淵のダンジョンに落ちてしまう。
深淵のダンジョンは一度落ちると戻ってくるのに何ターンもかかるし、超強力なモンスターや危険な罠にあふれてる。
「にゃは~。トオルかわいそ。見るからに地獄みたいなところに堕ちちゃったね」
「それはどうかな?」
そう。深淵のダンジョンが地獄なのは普段ならなのだ。
深淵のダンジョンに落ちた僕のキャラが光に包まれる。
『トオルよ。最下位のお前に神の力を与えよう』
「え? なにこれ。ナロー神とかいうのが出てきたよ」
首位のミリィがつぶやいた。
ナローポンシリーズのお約束で、無職、最下位、一定のターン数経過という条件を満たして深淵のダンジョンに落ちるとナロー神が現れて力をくれるのだ。
「な、なにそのナリアガリ―マンって」
「次の僕の番のお楽しみだよ」
僕の後はリアだった。すぐにナリアガリ―マンになった僕のキャラを能力を調べる。
「すっごく強くなっている!」
「ちぇっ。バレちゃったか」
隠して襲おうと思ったのに。
「ずるい!」
本来ほとんど運任せのルーレットを目押しできるミリィに言われたくない。
それに。
「何のスキルもない無職を選んだのはこのためだったのだ!」
「え~っ?」
「そうだったのっ?」
「にゃっ?」
僕の言葉に皆が驚く。
「でも直接戦闘どころか魔法攻撃もできない範囲にいれば大丈夫にゃ」
くっくっく。甘い!
僕の番だ。
「成り上がりゲート!」
「えええ。凄い離れてるのに俺のところにワープしてきたにゃ!」
「くらえ!」
ナリアガリ―マンになった僕は近代兵器ドンリボルバーを装備している。
先制攻撃であの古き神のつるぎよりも攻撃力が高い。
銃は剣よりも強いのだ。
「にゃーそんな……」
一撃でミリィのキャラを倒す。
「ずるい! 強すぎる!」
「でもお金は盗れないんだぜ」
普通は直接戦闘で勝つと相手から直接お金を奪うことができる。
それがナローポンにおける直接戦闘することの意味なのだが、ナリアガリ―マンは敗者のお金を奪うことはできず捨てさせるだけだ。
「いじわるっ! 捨てさせるだけで自分では取れないのに!」
「ふふふ。なんとでもいえ」
ミリィは持ち金を捨てられたことによって一気に順位を落とす。
一位になったのはリアだ。
「あ、私、今、一位ですか?」
よほど嬉しかったのか大喜びしている。
それも次の僕の番までだ。
◆◆◆
「もうっ! ずっと負けてた私が一番になれたと思ったのに!」
ナリアガリ―マンになった僕はミリィ、リア、ディートという順で次々に襲ってお金や武器や防具を捨てさせた。
「恐れ入ったか!」
「む~。でもナリアガリ―マンになるとお金が稼げないから皆お金減っちゃったけどトオルが一番ビリなんだからね」
「ふっふっふ」
「?」
ディートには僕の笑いがわからなかったようだ。
確かに今の順位は低位争いのだんこ状態だが、僕がビリでディートがトップだ。
今はね。
ナリアガリ―マンの効果が切れるころゲームは終わった。
ナローランドの王様がプレイヤーの評価をしてくれる。
「結果発表みたいね。最後の頃はトオルがめちゃくちゃにしたけど結局私の勝ちね」
終盤はお金や強い武器防具をもっていたミリィとリアを襲いまくったので、間隙をついたディートが資産は一位だった。
「にゃ! トオルが変なのにならなければ俺が一位だったのに三位になっちゃったよ!」
「私は同じ二位だったけどトール様にボコボコにされたからなにか気分悪いです!」
どうやら皆は終わった時の資産で順位が決まると思っているらしい。
一回目の時はチュートリアルをかねて短めでやったからなかったけど。
王様が特別賞について語りだした。
『一番、強かったで賞は……トオルじゃ。賞金1万ゴールド』
「「「「ええええええ」」」
三人の声が被る。
1万ゴールドはナリアガリ―マンに何度もお金を捨てさせられて低位争いをしていた僕らには大金だ。
それに僕はナリアガリ―マンになる前に村にこそこそと投資していた。
キャッシュは持ち合わせていないが、ゲームが終わった今は資産価値のキャピタルゲインも狙える。
そもそもルーレットの目押しやナリアガリ―マンで相手を引きずり下ろすよりも王道の戦法だ。
王様が最後の発表をする。
『このナローランドの新しい王様になるのは………………トオルじゃ!』
「やったー!」
ゲーム内の無職のトオルが飛び跳ねて喜んでいる。
騎士のリアと魔法使いのディートと盗賊のミリィは地団太を踏んでいる。
「やった~皆みてる?」
リアルの彼女達は地団太を踏むことなくニッコリと笑っていた。
ううう。やりすぎた。
どうやら今日も僕は寝れそうにない。
コミカライズが始まりました。
WEB連載形式です。
後ほど活動報告やランキングタグに。




