11回目でも地平線は輝く件
「鈴木さ~ん。お届け物です!」
「はーい」
夕食後のまったりタイムに、宅配便のお兄さんが大きなダンボールを持ってきた。
「ここにハンコを」
「はいはい」
「ありがとうございました!」
◆◆◆
ディートが持ってくる異世界の金貨の換金、ミリィのお馬さんの予想、バイトのシフトの安定化。
さらに心配されていた同盟国の新大統領が意外とまともだったこと。
大統領は関係ないか。ともかく僕の経済事情はかなり改善を見せていた。
そこで僕もついにテレビを注文したのだ。
リア、ディート、ミリィにトラブルを起こさせないためには、日本のことを知ってもらったほうがいい。
テレビでニュース番組を見れば、その役に立つだろう。
まあ僕がゲームをしたいという理由もあるけれどね。
ダイニングルームに大きなダンボールを運び込むとリアが興味深そうに聞いてきた。
「この箱はなんですか?」
「テレビだよ」
「テレビ? テレビってなんですか?」
説明が少し難しい。でもリアもパソコンなら誰かが使っているのをよく見ている。
「パソコンのヨーチューブみたいなものかな。ヨーチューブは個人が作ってる映像も多いけどテレビは異世界でいうところの大商会が映像を作って流しているんだ」
「へ~どんな映像が流れてるんですか?」
「ニュースっていうのがあってリア達が日本のことを知るのに役立つよ。実際見たほうが……ん」
ダンボール箱からTVを出そうすると引っかかってしまう。
「ちょっと手伝って」
「ダンボールを下に引っ張ればいいんですね?」
「お願い~」
ダンボールから大きな商品を取り出す連係プレイの鮮やかさは異世界人とは思えない。
リアがダンボールを下に引っ張ってくれたおかげでテレビはするりと姿を見せた。
「へ~パソコンに似てますね」
「これはテレビだよ」
「そういえば江波さんがテレビを買ったら契約がどうとかって。これのことですか?」
「そ、そうだった……」
NNKの受信料のことを忘れていた。まあ向こうから来るまでは放置でいいだろう。
幸いこの辺を担当していた訪問員さんはダンジョンでオークの奥さんに囲まれて楽しく暮らしているからしばらく来ないだろう。
配線を終えて早速テレビをつけてみる。
「映った!」
「うん。綺麗に映ったね」
「あ、これ! 有名なアニメですよね?」
「あ~大空の城だね」
少年と少女が大空に浮かぶ城を目指すアニメだった。
リアもネットで知っていたようだ。
面白いけど僕は10回以上は見ている。
アッサリとチャンネルを変えた。
「わっ! 画面が変わった。マウスのカーソルもないのに」
チャンネルが変わったことにリアが驚いていた。
確かにテレビはパソコンと違ってパッと画面が切り替わるように思えるのかもしれない。
「このリモコンで変えられるんだ」
「わっわわ! す、凄い!」
「ふふふ」
僕がチャンネルを変える度にリアが驚く。
その様子は少し面白いけど結局見たいと思えるチャンネルはなかった。
少年と少女が大空に浮かぶ城を目指すアニメは面白いけど10回は見ている。
「ゲーム機もないし、とりあえず消すか」
後でゲーム機を買ってこようと思いながらTVを消す。
「あ~消しちゃうんですか?」
「見たかった?」
「見たいです」
どうやらリアはTVが見たいようだ。
「はい」
僕はリモコンを渡す。
「え?」
「ここが電源で押せば、消えたり付いたりするから」
「む、無理ですよ」
「簡単だよ」
ディートやシズクはパソコンで検索エンジンも使うけどリアはできない。
でもドローンをあんなに上手く操作できるんだからTVよりはるかに簡単なはずだ。
「あ、付いた!」
「ね?」
「画面の切り替えはどうするんですか?」
「ここの数があるでしょ」
「はい」
地球の数はリアも覚えている。
「この数が書いてあるボタンごとに映像が割り振ってあるから」
「や、やってみます。あ、できた! 私にもできました!」
リアは次々にチャンネルを変えている。
「ふふふ。おめでとう。ほかのボタンも色々押してみるといいよ」
「で、でも壊れちゃわないですかね?」
「テレビはパソコンと違ってやっちゃいけない操作はないよ」
「よかった~」
「じゃあ僕はお風呂入ってこようかな。リアはテレビ見てていいよ」
「やったー」
「シズク―」
僕は和室の押し入れのなかにいるシズクを呼ぶ。
「はーい」
「お風呂入ろー」
シズクと一緒にお風呂に入るのは日課だ。
「ご主人様、テレビ買ったんですね」
シズクが僕の頭のシャンプーを泡立てながら聞いてきた。
「うん。買ったよ」
「シズクも見たいです」
「じゃあ、お風呂から出たらリアと一緒に見ようか」
「はい!」
いつもはシズクとだらだらと洗いっこをしているけど今日は手早く洗って湯船に入る。
「いーち、にー、さーん」
慣習になっていたシズクのテンカウントが早めだ。
「別に10数えなくてもいいよ。テレビみたいんでしょ」
「わ、わかりますか」
「なら、もう出ようよ」
「はい!」
二人で湯船を飛び出る。
体を拭いていつもの寝巻代わりのジャージに着替える。
脱衣所を出ればすぐにテレビを設置したダイニングルームだ。
どうやらリアは大空の城を見ているようだ。
「お、そろそろ城に乗り込むところか」
「アニメだ! 薄い本のもとになってるテレビ番組ですよね!」
「シズクよく勉強してるね。大空の城の薄い本はあんまりないと思うけどね」
ところがチャンネルがパッと変わる。
ニュース番組になった。
「ト、トール様、シズクちゃん、いつも長湯なのに今日はもう出てきちゃったんですか?」
「え? シズクがテレビを見たいって言うから」
「わ、私、ニュース見てますよ。ほらこれがニュースですよね。右上にニュースってカタカナで書いてあります」
「う、うん。そうだね」
なんだかリアが慌てているような。
「あれ? リア様、アニメ見ないですか?」
シズクはアニメに興味があるらしい。
「ダ、ダメだよ。シズクちゃん。日本の勉強をするためにってトール様はテレビを買ってくれたんだよ」
「……そうなんですか」
なるほどね。どうやらリアも本当は大空の城が見たいのではないだろうか。
「リア。別にアニメ見てもいいよ」
「ダ、ダメですよ。トール様が勉強のために買ってくださったのに」
テレビでは政治家の口利き疑惑のニュースが流れていた。
ネットニュースですら飽き飽きしている。
アニメのほうがいいかもしれないけど、リアのことも立ててあげようかな。
「リア。シズクがアニメを見たいってさ。頼むよ」
意味がわからないだろうニュースが流れるテレビからシズクのほうにリアが振り向いた。
「シズクちゃんはアニメが見たいの?」
「はい! 見たいです」
「そ、そう。シズクちゃんが見たいなら仕方ないか」
テレビのチャンネルがパッとアニメに代わる。
「ありがとうございます! リア様!」
「いいのいいの。一緒に見よう!」
僕も一緒に11回目の大空の城を見る。
『どんなに凄いステータスを持っても、多いスキルを得ても、仲間から離れては生きられないのよ』
僕がお茶とお茶菓子を目の前においても二人は気が付かない。
リアとシズクは大空の城に首ったけだ。
興奮したりボロボロと泣いたりしていた。
「日本のアニメって凄いんですね。私、泣けちゃいました……」
「最高です。ご主人様!」
「これは特に面白いからね」
流石に10回目も見てると感動が無くなってたけど、二人と見れば大空の城は11回目でも面白いのだ。
更新遅くなってすいません。
コミカライズのカラー絵を少しだけ活動報告に公開中。