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モニター越しではお馬さんの気持ちはわからない件

「ミリィ、こっちこっち!」

「ん? なになに」


 ミリィの手を引っ張る。


「あっちのほうが楽しそうな建物が一杯あるよ」


 ミリィは駅ビルを指差していた。

 僕は逆の繁華街の方に向かう。


「こっちにも楽しいところがあるんだよ」

「ホントだ! おじさんが一杯いるね!」


 新聞と赤ペンを持ったおじさんが列を成していた。

 そう。ここ立川にはアレがある。


「この建物に入るぞ」

「なにここ? おじさんがどんどん入っていくけど」

「いいからいいから」


 僕はミリィの背中を推す。

 建物の中に入る。


「うわ~なにコレ? でっかいパソコン?」

「パソコンじゃない。モニターだよ。リアルタイムで映像を映しているんだ」


 建物の中には巨大モニターが見えるホールがあってある動物を映していた。


「凄い馬だね~早そう」

「ああ、競走馬って言って早く走るために掛け合わせて作られた馬なんだ」

「へ~」


 そう。ここは立川にあるお馬さんの順位を当てて楽しむ場所だ。

 立川には実際のレース場はないが、モニターでその様子を映したり、投票券を買うことができる施設がある。


「馬を見てどうするの?」

「良い質問だね、ミリィくん。ここは馬の順位を当てて楽しむ場所なんだ」

「へ~そんなことにこんな大きな建物を作ってるんだ。日本人って面白いね。なら馬に調子を聞こようよ!」

 

 エクセレエエエエントゥ!

 馬に調子を聞こうというミリィの言葉におじさん達の視線が集まる。頭の弱い外国の子だろうと思われているかもしれない。

 しかし、そんなことは構わない。やはりミリィは馬の調子を聞くことが出来るのだ。

 ちょうどパドックの様子を写すモニターがあった。

 パドックとはレースが始まる前に歩く馬の様子をお披露目する場所だ。


「どう。どの馬が調子良いかわかる?」

「うーん。モニターでは何か言ってるけどわかんないなあ~」


 そりゃそうだ。やっぱり場外じゃ無理か。


「でも勝つのはこの馬じゃないかな?」


 ミリィが勝ちそうだと言った馬はナリアガリボーイか。

 ナリアガリボーイ、ナリアガリボーイ……。


「なに? ナリアガリボーイが勝つっていうのか?」


 売店でスポーツ新聞を買って読むと、ミリィが勝つと言った馬はそこそこの人気馬だ。

 しかし、他にバリバリの本命馬がいるようだけど大丈夫だろうか。


「うーん。だってやる気ありそうだよ」

「そ、そうなのか?」

「うん」


 と、とりあえず、スポーツ新聞とほとんど同じ200円だけ……買ってみようか。

 ちなみにお馬さんの情報があるのはスポーツ新聞と専門新聞があって、スポーツ新聞は150円ぐらい、専門新聞は500円ぐらいだ。

 スポーツ新聞は専門誌よりもお馬さんの情報は少ないが、ケチった。

 どうせミリィ頼りだしね。



――数分後



「マジで勝ったぞ……ナリアガリボーイ……」

「ほらね~言ったでしょ」


 オッズは?

 正確なオッズは皆が賭けたことによって決まるので、レースが終わった後に発表される。


「オッズが出た! 単勝で8倍かなりいいぞ。1600円だ!」


 僕が投票券を手に持って言うとミリィがビックリする。


「にゃっ!? ひょっとして勝つ馬を当てるとお金貰えるの?」

「うん、そうだよ! 今ので二人のお昼代ぐらいになったかな?」

「そ、そうなんだ。じゃあ、もっとも~~~~~っと、当てたら俺も日本のお金貰っていい?」


 なにに使うんだろうと思ったが、欲しいものもあるだろう。


「うん。いいよ」

「ホント! じゃあドンドン当てるね!」

「頼む」


 次のレースのパドックが映っているモニターを探す。


「お、あった! ミリィどの馬だ?」

「うーん。あれ! あの馬!」

「アークレイジョーか。どれどれ」


 スポーツ新聞を見る。


「マジでアークレイジョーなの……?」

「うん……多分……自信はないけど。この中なら」


 さっきのレースは未勝利の馬だらけのレースだった。

 簡単に言えば、どの馬が勝ってもおかしくないレースだ。

 ナリアガリボーイが勝とうが、もっと人気のない馬が勝とうが、そこまでおかしくない。

 が、今度のレースはそうではない。


「この馬。アークレイジョーは前走も前前走もダメだけど?」

「うーん。でも一緒に歩いている人と仲が良さそうだったよ。頑張るんじゃないかなあ」

「一緒に歩いてる人? ああ、厩務員の人か」


 パドックは馬の世話をしている人と歩く。

 その人と仲が良いのか。

 よっしゃ! 信じてみよう。

 1600円を全部アークレイジョーにはることにした。



――数分後



「やった。やったぞ! オッズも15倍で24000円になったぞ」


 しかし、僕の興奮に比べてミリィは少し大人しかった。


「あ~勝ってよかった。失敗したらお金無くなっちゃうんだよね?」

「え? 自信無かったの?」

「無いよ~だってここパソコン……じゃなかった。モニターの映像じゃん」

「まあ、その点については解決する方法もある。とりあえず次のレースのパドックを見ようよ」

「う、うん」


 パドックが映っているモニターを二人で見る。


「どの馬だ? ミリィ」

「クラテンイーかガクエームソーのどっちかかな」

「ど、どっちだよ?」

「わ、わかんないよ」


 どうする? 一着と二着のどっちが先に来ても当たりになる券の買い方もあるけど。

 仕方ない。ここは……。

 やはり数分後、レースが終わった。


「クラテンイーが二着でガクエームソー三着か」

「ご、ごめん」

「いや、いいよ。今回は買わないで見ててただけだし」

「そ、そうなんだ。よかった~」


 ミリィは最後だけ外したけど凄い的中率だ。

 しかも、僕が出した200円とスポーツ新聞代を除いても23000円以上の儲けになった。


「半分あげるよ」


 僕は一万円をミリィにあげる。


「やったーやったー! じゃあデパート行こうよ!」

「デパート? ところでミリィはお金をなにに使うのよ?」


 まさか化粧品でも買うのだろうか?

 ミリィが一万円を掲げていった。


「ノエラにかわいい服を買ってあげるんだ」


 な、なんだって……僕は視界が水分で歪む。

 半分は11500円のところを一万円しかミリィにあげなかった僕を殴りたい。


「よし……ミリィ。明日も遊びに行くぞ」

「え? 早く帰れって言ってたじゃん」

「今日は土曜日だ。それにそろそろバイトのシフトもあるけど……明日は日曜日」


 ミリィは首を傾げている。

 言ってることの意味がわからない。

 お馬さんは土曜日と日曜日に走るのだ。

 そして明日は府中に行く。そこにはモニター越しではないお馬さんがいるのだ。

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