スキル『成長限界無し』を活用するにはどうしたらいいか考える件
夕食を食べ終わり、僕がお皿を洗おうとするとリアも手伝ってくれた。
狭い流しで身を寄せあってお皿を洗う。
今日だけは汚れた皿がこの10倍ぐらいあっても構わない。
「これ、お願いします」
「はーい!」
僕がスポンジと洗剤で汚れを落とし、リアはそれを洗い流していく。
リアのお皿の料理はすべて綺麗に食べられていた。僕の皿もだ。
「本当に美味しかったです。特にハンバーグというお料理!」
「そっか。作った甲斐があったよかったです」
「トロットロの卵の黄身とソースが混じって、もう!」
作ってよかったなと心の底から思う。
「ところでハンバーグやライスやサラダも、先ほどのコーラのように特殊な効果があるアーティファクトなんですか?」
な、なんだって……。アーティファクトどころか普通の食材で普通の調理法だと思うが。
「一時的なものだと思いますけど、なんだか体力や魔力が上がったような気がします! そういうすっごく貴重なアーティファクトの薬もありますけど、トール様の料理はそういうアーティファクトなんですね?」
なんですね? と言われてもわからない……。確かにゲームなどでは作った料理がそういった効能をもつ場合もある。
「ここではステータスチェックが使えなくてわからないのですけど、そうなんでしょー? うふふ」
そう言ってリアは「わかってるんですから」という顔をして僕のほうを向いて笑った。
でも多分わかっていない。わかっていないというよりも誤解している。
曖昧に返事をして笑い返すとリアは他のことを言ってきた。
「料理も凄いけどトール様の生活アーティファクトは本当に本当に凄いですね」
「え? 生活アーティファクト?」
「はい! さっきも言ったけどアーティファクトは戦いのための道具ばっかりじゃないですか」
なるほどね。
考えてみれば、いつの時代でも戦争は最高の技術を欲っしている。
注ぎ込まれる予算も桁違いだ。異世界もきっとそうなんだろう。
「だから私、生活アーティファクト大好きです。トール様はダンジョンの奥深くに住んでいるから、ひょっとしておそろしいアーティファクトを研究していると思っていました」
「まあでも危険なアーティファクトもありますよ」
「え?」
リアが驚いた顔をする。
地球にも銃もあれば、ミサイルもある。
「ここには置いてないんですけどね」
「よかった~ほっとしました」
お皿を大体洗い終わった。
リアを席に座らせて約束の話をする。ダンジョン側の世界の情報はできるだけ欲しい。
午前ティーとポテチも出してあげる。
「なんですか。これ?」
リアはポテチを一枚、恐る恐る手にとる。
「食後のデザートって言うよりはどちらかって言うとオヤツだけど。まあ食べてみてよ」
端っこをポリポリと噛り、一旦止まってから、一枚を食べきり、二枚、三枚と食べだす。
「これ、凄く美味しいです。なんだか体が軽くなったような気もしますし」
おお、喜んでくれたようでよかった。
そして……ポテチは多分だけど【敏 捷】が一時的にあがるのね。
コレはメモっておいて、後で実験するしよう。
すべて食べられてしまったけどね。
「あ、私ったらはしたないところをお見せしました……」
「ううん。いいですよ」
少し崩れてくれたほうがこちらも気が楽だ。
自分も今日はリアに合わせて随分姿勢が良くなっている。
彼女の背筋はいつもピンと伸びていた。
とりあえず話ができるようになったようだ。聞きたいことが多すぎるけど……まずはなんと言ってもステータスについて聞きたい!
「ところで、そろそろ地上のことを聞きたいんだけど」
「はい。もちろんです。お約束ですからね」
リアがニコニコして答える。
やった。まず、なんと言っても聞きたいことはスキルについてだ。
「地上において珍しいスキルって例えばなんですか?」
「え? 珍しいスキルですか? 色々ありますけど特にレアなのだと『英雄のさだめ』とか『闇魔法』なんてのもありますね」
『英雄のさだめ』? 聞けば聞くほど聞きたいことが増えていく。
しかし、まずは初志貫徹で一番聞きたいことを聞いてしまうことにしよう。
「地上では『成長限界無し』ってスキルは珍しいですか?」
「『成長限界無し』ですか! とても珍しいスキルですよ!」
やった! やったぞ!
「でも先ほど言った『英雄のさだめ』や『闇魔法』と比べればいますね。職業『無職』の人のなかにたまにいるみたいですよ」
「ぶっは! ごっほぶっは!」
無職という単語を聞いて午前ティーを吐き出してしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ちょっと気管に入ってむせただけです」
やっぱりそう上手くはいかないか。
「地上では『成長限界無し』は強いスキルとされていますか?」
まあ別に珍しいかどうかよりも強いかどうかが重要だ。
「もちろん強いですよ。でも上手く活用できる人が少ないんです。ほらレベルを上げるのって凄く大変ですよね」
そうでもなかったけど加速度的に大変になるのかもしれない。
レベル上げってそういうもんだし。
戦争を嫌ってはいても戦闘職のリアはさすがに戦闘のスキルに詳しかった
「生きるか死ぬかの戦いをずっと勝ち続けられる人なら最強のスキルです。失敗する可能性のある超大器晩成型のスキルとも言えます」
珍しいスキルだが、使い勝手が悪いスキルとも聞こえる。
しかし……逆に言えば、どんなスキルよりも可能性を秘めた最強スキルなんじゃないだろうか。
要は永遠に勝ち続ければいいんだよね。
「あれ? トール様、笑ってどうしたんですか?」
どうやら気が付かずに僕は笑っていたらしい。
◆◆◆
他にも雑談交じりにダンジョンの生活のことを聞いたりしていたが、夜も遅くなってきた。
引っ越しで暫くの間休むことをバイト先には伝えてあるから、まだ起きててもいいんだけど寝巻き用のジャージなどを買うためにトンスキホーテに行きたい。
「ちょっと外に行こうか?」
「え?」
リアが驚いた顔をする。よく考えたらそりゃそうだよね。ダンジョンの中なんだから。
「冗談、冗談です」
「ですよね。トール様って結構冗談いいますよね。うふふ」
「あ、あれ……? でもどうなってるんだろう?」
「ど、どうかしたんですか?」
リアの顔を見る。嘘を言っているような顔には見えない。
性格上、嘘を言えそうな子でもない。
今まで和室に居たんだよな? 人間が出入りできるデカイ窓があるんだぞ。
外、丸見えじゃん。今までここがダンジョンって話には付き合ってくれていたのか?
「ねえ? 地上ってさ。夜は暗い空があって星とか見えちゃいます?」
「もーやだートール様。からかってるんですか? 当たり前じゃないですか」
「ですよねー」
ダンジョン側の世界では夜景からしてまったく違うかと疑ったけど、それは地球と同じらしい。
じゃあ一体なんでだ? 都会の景色はダンジョンの延長に見えるんだろうか。
たしかにビルがちょっとダンジョンっぽいけど、さすがに夜空は見えるぞ。
僕はリアの手を掴んで和室に連れて行った。
「ど、どうしたんですか急に」
「いいからちょっと来て」
「は、はい」
僕は思いっきり、外の光景が見えている窓の前にリアを立たせた。
「これをどう思います?」
「どう思うって言われましても……」
「な、なんかその感想を」
リアは首を傾げる。
「ダンジョンの壁があるのにわざわざ手前にガラスの窓枠を作るなんて、トール様はオシャレですよね。全部、この不思議な素材の壁にすればいいのに、ここだけガラス張りにしてあるってことはダンジョンの石壁を見たかったんですか?」
「……!?」
ど、どういうことだ? リアには窓の向うがダンジョンの石壁に見えているのか?
僕はなにも言わずに体の半分だけ窓から外に出てみた。
もちろん、普通に日本の外だ。
だがリアは目を見開いて驚いていた。
「す、凄い。壁抜けの魔法なんですか!?」
いや別に外に出ただけと言いかけて踏みとどまった。
◆◆◆
結局、リアにはマンションに待ってもらうことにして一人でトンスキホーテに来た。
一緒に来る方法もあるかもしれないが、今は一人で来たほうがいいだろう。
それにしてもリアがいたから良かったものの、あの物件の事故度はとどまるところをしらないな。
不動産屋め。レベルを上げて文句を言ってやるぞ。
まずはジャージを買う。
念のため飲料や食料も買う。ポテチも忘れてはならない。
本当にポテチで【敏捷】が上がるのか実験のためだ。
歯ブラシなんかも二つあったほうがいいだろう。自分のはあるからリアの歯ブラシを買った。
そして今日はまだ買うつもりはないが……僕はあるコーナーに商品を見に行く。
防犯コーナーだ。通販で買えばもっといいものがあるかもしれないがトンキに売っているものでも見本としては十分だった。
PCに接続して見れるものが望ましい。
「この玄関タイプなんてバッチリじゃないか?」
そう。僕はいずれダンジョンに監視カメラを張り巡らせられるのではないかと思っている。
そして、いずれは安全な部屋のパソコンに繋いだカメラの映像を見ながらクリックひとつでモンスターを倒す!
さらにペット売り場を探した。
「スライムを飼うにはやっぱり鉄柵の檻じゃダメかなあ? 大きなアクリル水槽のほうがいいのかも。でも別に部屋で試すわけじゃない。ダンジョンでやればいいんだからいろいろ試してみるか」
ちなみに今考えていることはモンスターの養殖だ。
僕は『成長限界無し』のスキルをフル活用するために、日本の道具を使って安全マージンを確保しつつ、モンスターを一匹でも多く倒す方法を考えていた。




