なんでもするっていったよね?
「なんとか脱出できたけど、島とか何も見えないわね…」
危機は逃れたが、目の前に広がるのは青い海のみ。
「このままじゃ島に着くころには骨になってるかもな…」
残念ながらこの船に食料など備え合わせてはいない。人間が何日も飲まず食わずの状態で生きてはいられないだろう。
「ところでだけど、まだ自己紹介とかしてなかったな」
彼女は前に広がる海を見つめるのをやめ、俺の方を振り返った。
「トカゲに興奮する男に名乗る名前なんてないわ。」
「いやいや、それはひどいでしょ! これから船で共同生活するのにそれはないでしょ!」
「個人情報は最近の情報社会においてはとても重要なことよ。軽々教えられることじゃないわ。」
だが俺は魔王城でのやりとりを覚えていた。
「でもさっき宝物庫で助けたとき、「やめて! なんでもするから殺さないで! 私、ゲームしてたらいきなりよく分かんない自称神様に召喚されちゃっただけなの! お願い!お願いだから殺さないで!」って半泣きで言ってたよな?」
「そ、それは生きることに必死だったからよ。まさか、なんでもするって言ったから私の体をいたずらするつもり? 特殊性癖の男の性のはけ口にされるなんて最悪ね…」
「俺そこまで欲求不満じゃないから! 何かあるごとに俺が犯すっていう考えやめようよ!」
彼女はゴミをみるかのような目で俺を見つめてくる。そろそろ俺のメンタルも崩壊寸前だ…
「別にそういう下品な話じゃなくて、なんでもするならせめて自己紹介くらいはしてくれ。お互い名前も知らないまま同じところで寝るなんて、酒飲んで朝起きたらチュンチュンしてた男女じゃあるまいし…」
「わ、わかったわ。それは確かに色々と気まずいし。」
「私はミオっていうの。昨日までは高校の夏休みを使って積んでたゲームを消化してたわ。」
生活スタイルは俺と同じのようだ。この世界に連れてこられた人には何か共通点があるのだろうか? 今のところはゲーム好きが集められたのかもしれないってことだけだが。
「俺はアキラ。俺も夏休み使ってゲームしまくってた高校生だ。」
ここで、ゲーマーには絶対に聞いておきたいことがある。
「それで、好きなジャンルは?」
「色々なゲームをやるけど、最近はまってたのはアクションだったわ。」
「アクションかー。俺はあんまりやんないかな。ところで、それってなんていうゲーム?」
「「頑張れ!耐えろ!悶えろ!鼻毛くん」っていうやつよ。」
「これまたマニアックな…」
あまりアクションをやっていない俺でも知っているタイトルだ。何故かというと、一時期ネットはこのゲームの話題で持ち切りだったからだ。定価が8980円のくせに内容は主人公の鼻毛を操作して迫りくる花くその侵攻を阻止するというもの。自分を鉄の鼻毛とか金の鼻毛に強化できたり、他の鼻毛と恋愛したりする謎要素があったりするクソゲーの頂点に位置するようなゲームである。
「案外面白いのよ、あれ。」
ミオの類まれなゲームの趣味にはついていけなさそうだ。