バレたら即死確定イベント
「や、やべぇよ… マジでどうしよう…」
チートスキルはない、武器も何もない、防具はグレーのダメ親父パジャマのみ。そんな状況で魔王の城に挑みにいくなんていう勇者を聞いたことがあるだろうか。俺はそんなの聞いたことない。縛りプレイでレベル1のままボスを倒すなんていう動画は見たことあるけど、大体ああいうのは異常なプレイヤースキルだったり、恐ろしい数の回復アイテムや攻撃アイテムを持ってたりするものだ。もちろん俺はそんな物を持ち合わせてなどいなかった。
「まずはここから脱出することを考えた方がいいな。きっと近くに街があるはずだ。」
大抵ラストダンジョンの近くには魔王に挑む前の休憩スポットとして街があったりする。魔王の城にずっといたりでもしたら死ぬ可能性120パーセントなので、とりあえずこの状況を打破するためにそこを目指すことを第一目標にした。
幸いなことにすぐ右手のほうに階段が見えたので、俺は敵が出たりしないか警戒しながら階段を降りた。
しかし何故か、一つ下の階には行けたもののそれより下へ行く階段が見当たらない。
そう、俺はRPGの鉄則とも言えるダンジョンの構造を忘れていた。
「あ、そうか。魔王は勇者に自分のところに来てほしくないから、階段を一つの場所に集中させたりしないんだ…」
ゲーム好きなら一度は思ったことがあるだろう。どうして魔王の城の階段と階段はこんなに離れているのか―――と。勇者が弱るようにこのように階段を配置しているのだろうが、そんなに用心深いならどうして序盤のうちに勇者を倒さないんだろうね。
まあ、こんな設定にマジレスしていても仕方ないので次の階段を探すことにした。
その後、歩き続けて4階まで来たのだがいまだに一匹も敵にエンカウントしない。ここの警備どうなってんだよ。窓の外からは満月が見える夜空が広がっているが、ここの警備のモンスターもみんなでお月見でもしているのだろうか。まあ魔王の城にいるようなモンスターってそんな綺麗な心持ってなさそうだけど。
しかし、そんなどうてもいいことを考えながら3階に下りたところで、衝撃の光景が広がっていた。
「なんだ… こいつら…」
そこにはリザードマンという言葉がバッチリ当てはまる二足歩行のドラゴンのようなトカゲのような生き物が数匹固まって警備をしていた。その生物は鎧を身に着け、右手には剣、左手には盾を持っている。幸い、まだこちらには気づいていないが、見つかったら即死確定イベントだろう。俺は4階に戻り、作戦を練り直すことにした。
おそらくだが、勇者が攻めてくるとしたらもちろん1階から入ってくるので、下の方の階に守りを固めているのだろう。だとすると、1階に行くにつれて警備が厚くなることは安易に予想できることだ。
幸い俺が侵入していることはまだバレていないので、4階から上は紙のように薄い警備。だとすると、敵がうじゃうしゃいる1階へ行くよりかは、縄か何かを見つけて4階から一気に脱出した方が生存率は高そうだ。
「よし、とりあえず魔王の城を探索することにするか。」
だが、まさかこの選択がこの世界で生き延びていく上で大きく影響することになろうとは、俺はまだ思ってもみなかった。
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