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おっさん

 漂着したこの島がRPGでいうどの程度の立ち位置の島なのかは分からない。運よく始まりの街のある島に漂着したかもしれないし、またしても運悪く終盤に訪れる島に漂着してしまった可能性もある。どっちしにろ、ラストダンジョンに放り込まれたさっきの状況よりはマシだろうが。見た感じのこの島のイメージだと、青い草原が広がり常葉樹がいたるところに生えていて雑魚モンスターが登場してくれそうな序盤の島という感じだ。


 船からまず俺が降りると、ミオも続いて降りる。


「ねえ、アキラ。」


 降りたと同時にミオが俺を呼び止めた。


「そのグレーのパジャマでいいから、貸してくれない?」


「いいからってひどいな! というか、そんなことしたら俺がパンツ一丁に…」


「私が下着姿で街に入るのと、アキラがパンツ一丁で街に入るの、どっちが社会的におかしいと思う?」


 アキラは熟考した。例えば学校の教室に入るとしよう。普通、生徒たちは制服を着て教室に入ってくる。そこで俺がパンツ一丁だったら? おかしい。おかしすぎる。同様に彼女が下着姿で入ってくるのもおかしい。だがそれはおかしくはあるが嬉しくもある。俺が下着姿で教室に入っていっても誰も特はしないが、彼女のような美人が教室に下着姿で入っていったら男性陣は色々と喜ぶだろう。だとしたら答えは――


「俺がパンツ一丁で街に入ったほうがおかしいな。」


「いやいや、街中で下着姿の女の人なんで見たことある? 絶対それは間違ってるわ。」


「俺は見たい!」


「見たいかどうかの話をしてるんじゃないんだけど…」


「分かった。間をとって半分こにしよう。ズボンは俺が穿く。もう片方はそっちが着ればいい。それでどうだ?」


「しょうがないわね… そうしましょう。」


 最終的に男の方は上半身裸に下がグレーのパジャマで槍を持っているどこかの原住民のような格好に、女の方は上半身がグレーのパジャマで下は黒の下着を着用するそれはそれでエロい格好になってしまった。どこからどうみても普通の人たちには見えない。


 そして二人はこの島にあるであろう村を探すため歩くことにした。

 先程の船が思い返されるが、今回は秒速で村が見つかった。漂着した海岸から出ると、村は目と鼻の先だった。村はのどかな農村のような感じで、遠くからは牛も見える。牛がいるなら、ファンタジーな世界特有のよく分からないモンスターのゲテモノ料理なんかを食べなくて済みそうだ。きっとこの世界を作った神も少しは考慮してくれたのだろう。

 まずはこの村の名前を確かめるため、入口に立っている男性に話しかける。


「あのー、ここは何ていう村でしょうか?」


「ここは5番目の村です。」


 五番目の村って… ちょっとここの神様のネーミングセンス適当すぎない? しかも五番目の村って微妙だし。この世界にいくつ村があるのかもよく分からないし。

 

「ねぇ、それより服買いに行きましょうよ。ずっとこの服のままじゃ私、誰かに襲われちゃうわ。」


「まあ、そうだな… 俺も上半身裸のままだと頭おかしい奴だしな。」


 そこらを見渡すと、いかにも防具屋というような盾の看板を発見。そこにいけば二人の変な格好からは抜け出せるだろう。いや、ダメだ。アレがない。


「俺ら、金持ってなくね…」


 RPGといえば自分が王子なのに王様から500ゴールドしか貰えなかったり、身分が高いにも関わらずとても過酷な旅をさせられるのがお決まりだったりする。もしも身分が高くなくても、ゲームスタートの時点で幾ばくかのゴールドくらいは持ってたりするだろう。しかし今回は所持金0だ。初期装備購入代金くらいはくれてもよかったじゃないか、神様。


「お金なんて、そこら辺の家から奪えばいいじゃない。」


「え? 今なんて?」


 彼女の口から犯罪を示唆するような発言が聞こえたような気がしたが、そんな訳ないだろうと思い聞き返した。


「いや、だからそこら辺の家から奪えばいいじゃないって。」


「それはダメだろ! 犯罪だろ!」


 間違いであってほしかったが、間違いではなかったようだ。


「だって、ここはRPGを元に作られた世界なのよ? 勇者が他人の家に勝手に入って壺を壊そうが宝物を持っていこうが誰も怒らないじゃない。だから犯罪ではないのよ、たぶん。」


「それはそうだけど… あれはゲームの中だからできることで… いくらこの世界がRPGを元に作られてたとしても、他人の家に入って物を勝手に取るのは悪いんじゃないか?」


「ふーん、じゃあその槍はどうしたの? 魔王の家から盗んできたんじゃないの?」


「盗ったことには変わりはないけどそれは何か違うだろ!」


 善良な市民から物を盗るのと世界を支配する魔王から物を盗るのとでは話は違うだろう。

 そんな俺の抵抗は空しく、ミオは左に見える緑の屋根の家を指さして、


「じゃ、とりあえずあの家いくわよ。」


「え、ちょ、まっ。」


 俺の制止を振り切って彼女は家に進んでいき、扉を開ける。何故か鍵はかかっていなかったようだ。

 彼女と一緒に中へ入るとクローゼットにベッド、それに壺と一人のおじさんがいた。

 想像通りの洋風の家という雰囲気。それにしても勝手に入っていいのだろうか。


「お邪魔してすみません…」


「いえ、お構いなく。」


 勝手に入ってきたのにこの髭のおじさん優しすぎる… そういえば、ここの世界の人たちはゲームのNPCみたいに固定された台詞を言わされているわけではないようだ。何を聞いても同じセリフしか言わない人が現実にいたら気持ち悪いのでこの配慮はありがたい。


「壺の中にたくさんお金があるわよ!」


 ミオが壺の中から金貨を取り出し、満面の笑みでこちらの方を見てくる。

 いいのだろうか、本当にこの何の罪もない髭のおっさんのへそくりを盗っていっていいのだろうか。

 そんな意味を込めて恐る恐るおっさんの顔を見ると、


「いいんです… いいんです… そのお金は私が18の頃から働いて必死に貯金しているお金です… でも、いい、いいんです… それが世界を救うためになるなら…」


 って言いつつもおっさん涙こらえきれてないよ! 流石にこの状況で盗みをするほど悪人ではない。そもそも俺は善人の側だったが。

 ミオもおっさんの顔をみて悪いと思ったのか無言で金貨を壺の中に戻し、俺たちはこの家からは何も取らずに後にした。

 家を出たところでミオも反省したようで、


「流石にあれは無理だわ… 盗ることは犯罪でもないようだし、おっさんも持っていって良いって言ってたけど、あんな風に泣かれたら気が引けるわ…」


「やっぱりお金を稼ぐべきか。でも、どうしたらいいんだ。クエストみたいなのがあったりするのか?」


 お金がなければどうしようもない。この世界から脱出するとかそれ以前に飲まず食わずで死んでしまったら元も子もない。


「あ、あそこにクエストセンターっていうのがあるわよ。」


 ミオが右を向いて指をさす。都合のいいことにクエストセンターなるものが存在していてよかった。とりあえず俺達はそこに向かって歩き出した。

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