このゲーム積んでね?
「あー、夏休みもあと一週間かー。」
そうつぶやきながら、俺はよくダメ親父が着ていそうなグレーのパジャマに身をつつみ、炭酸飲料片手にRPGのレベル上げ。夏休みに入ってから一度も外にでていないので俺の黒髪はボサボサのままだ。
所属しているコンピュータ部は夏休み中に練習とかないので、夏休み中の暇な時間のほとんどをゲームに使っていた。しかし、夏休みとはいつか終わるものである。俺はその現実から逃避するため、ますますゲームにのめりこんでいた。
「よし、レベルアップ~。ちょっと疲れたなぁ~。」
キャラのレベルが一つ上がったところで俺は目をつぶり、その場で伸びをする。
しかし、そんなとき異変は起こった。
「あれ? 俺のゲームは?」
伸びをやめて目を開けると、数秒前とは全く違う景色が目に飛び込んでくる。
「てかここ、俺の部屋じゃなくね?」
目の前に広がるのはただ真っ黒なだけな空間。しかしそこに突如「何か」が現れる。
「あら、私の駒は弱そうね。」
「え?」
そこには紫のスパンコールドレスを身にまとった、ロングヘアの美しい女性が立っていた。
というかこの超展開に思考が追い付かない。
どうしてゲームしてただけでこんなところにいるんだ?
「実は今、私たち神々の世界でRPGが大人気なの。そこで、私たちの作った世界で誰の駒が一番早く魔王を倒せるか競うことにしたのよ。」
「お、おう。てかそういう理由ならもっと強そうなやつを連れてきた方がよかったんじゃないか?」
俺の名前は橋本アキラ。いつもパソコンかゲームをしているだけの高校生。名前も生活スタイルも平凡な俺より、魔王を倒すならボクシング世界チャンピオンとか連れて来た方が絶対いい。
「私たちにとってはただの暇つぶし。あなたを連れてきたのは数々のRPGを生み出してきた日本に住んでいたという理由だけで、正直あなたでなくても日本人なら誰でもよかったのよ。」
「じゃあ俺、適当に選ばれたってこと?」
「そうよ。」
「マジかよ! 適当な理由でこんなところに連れてこられた俺の夏休みダラダラゲームライフを返せよ!!!」
いくら夏休みが終わらなきゃいいのにと願ったとはいえ、ゲームができなければ意味がない。というかこんな世界に連れてこられたら二度とゲームなんて出来そうにないし、最悪だ。
「魔王を倒したら元の世界に返してあげるから安心しなさい。倒せばいいのよ、倒せば。じゃあ、早く始めたいからRPG世界に召喚させるわよ。」
彼女が持っていたる杖を突きだすと俺の足元に光輝く白い円が出現した。そして俺の体はどんどんその白い円へ吸い込まれていく。
「いやいやいやいや! ちょっと待てよ! お約束のチートスキルは!? それがないと魔王なんて倒せないだろ!」
体が吸い込まれていくなかで必死に願ったが、彼女の返答は…
「最初っから強かったら面白くないじゃないの。それはRPGではないわ。たまに失敗するけど、私の召喚魔法で始まりの町に飛ばしてあげるからそこから努力しなさい。」
「え!? ちょっと待って! 今、たまに失敗するって言ったよね!? 失敗したらどうすんだよ!」
聞き捨てならない言葉に反応したが、白い光に吸い込まれた俺の言葉は、もう届かなかった。
「うーん、ここは…」
俺はいま何かの建物の中にいるようだ。中世の城のような内装だが、中は薄暗く、なんだか気味が悪い。こんなところが始まりの街なんて神も趣味が悪いな。
「お、あそこの壁になんかの地図があるぞ?」
近づいて見てみると、おなじみの城の中にあるフロアマップ。こんなの作ってくれるなんて親切だなぁ。
しかし、ここってなんていう城なのだろうと思って見た、このマップに書かれた文字列に度肝を抜かれた。
「え? "ここは魔王の城8階です"だって? え、いや、ウソだろ…」
そういえばさっきの女神が「たまに失敗する」と言っていたのを思い出した。
「ま、まさか、俺、ラストダンジョンに召喚されちゃった?」
読んでいてだきありがとうございました。
事前に書いておき、投稿はもう少し後にしようと思っていたのですが、偶然これと似た設定のゲームの発売が先ほど決まってしまったらしいので、パクリと言われる前に急いで投稿しました。