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ペンは剣より強し

 2013年の一月末,ポールは一枚の書類を持って,隊員たちが居る宿舎に現れた。

 「任務がある。」と告げて,部下たちの前の机にその紙を差し出すと,隊員たちには見憶えのあるマークと署名が見えた。

 だが彼らは同時にとても気になる文言を見つけ表情を強張らせた。恐る恐るポール大佐を見つめて,この文言が一体全体どういうことか眼で訴えた。その文言には見憶えが無かったのだ。

 「”暗殺”だ。中国陸軍の将軍を対象とする。」

 冗談でしょう?と誰かが言った。しかしポールは反応しなかった。鋭く蒼い目がベックス伍長に一度向けられた後,また書類に落とされた。

 「情報部は敵将軍が北部の山間部で開かれる会合に現れるとの情報を掴んだ。この将軍は戦線の総司令に就いている。この”首”を切り戦意を削ぐ。」

 前述の通り,先日の作戦は一勝一敗であった。戦線北部の敵軍は包囲を受けながらも,依然として抵抗を続けている。直に限界を迎えるとしても,時間稼ぎになるだろう。

 敵が反攻の準備を整える前に,早く西進したい米軍と自衛隊にとっては,この一団は云わば”目の上のタンコブ”となったわけである。

 しかしながら暗殺計画に特殊部隊でもない彼らが抜擢される理由にはならなかった。隊員たちはポール大佐の説明を黙って聞いていながら,どこか納得できないもどかしさを感じたことは偽り様がなかった。

 ウィリアムズは正直かつ実直にこれを伝えた。つまりポールに”なぜ我々なのですか”と問うた。すると彼女は一つため息を吐いて,”理由は二つある”と答えた。

 「腕の良い狙撃手が居る,加えて出来るだけ少人数で実行する必要がある。」

 この回答に当を得た者は少なくなかった。第二小隊のベックス伍長は隊一番の信頼の置ける選抜射手であるし,先日の作戦ではポール大佐のその狙撃技術が一級品であることを証明した。

 もしも一分隊規模の隊員が必要な作戦であるならば,より少数の特殊部隊には任を負えないということになるだろう。これらについて考慮された結果であるかもしれない。

 隊員たちはつまるところ,この二人の何れかを中心として部隊を編成するのだろうと理解した。しかしマックは,ポール大佐との長年の付き合いから,別の答えを察したようだった。

 「”少人数”とは?」

 この質問にもポールは回答した。そしてまた隊員たちは動揺した。予想が外れたのだ。

 「観測手と狙撃手。二名だけだ。」

 続けて彼女は,このたった二人の編成を述べた。「私と…」そしてまたベックス伍長に目を移し,「お前だ。」と付け加えた。

 ポールは将校とベックス以外は席を外すよう命じた。部外者となった隊員たちが放つ雰囲気は戸惑いや,驚き,不安など様々だったが,中には安堵に似たものもあった。

 心の中では”この危険な作戦から外れた”ことを幸運にも感じていた。ベックスや隊長には悪いが,それが正直な感情だった。

 当然居残るよう言われた者たちはそのような感想を持たなかった。一番に緊張したのは言うまでもなくベックス伍長であった。

 そこで彼はポールに発言の許可を求めた。彼女は閉口を保ちながらそれを促すと,ベックスは大きく息を吸った。

 「目標までの距離はどのぐらいですか?」

 彼には眼下の机に広げてある地図が見えていた。そして指令書と合わせて大凡の狙撃距離を推測したが,彼女に聞かずには居れなかった。かつては若く未熟な兵士だった彼を,一端の狙撃手に磨き上げた師の口から聞きたかったのだ。

 「一・五マイル」

 小隊長たちは息を飲んだ。自分に出来るだろうかと考えたが,とても出来るとは思えなかった。しかしベックスは黙って二度頷いて,もう一つ問うた。

 その問いにポール大佐は思い出したように反応して,腰のポケットからもう一枚の書類を引きぬいた。折りたたんだままのそれをベックスに差しだした。

 「口径二〇ミリの狙撃銃を使用する。これを武器庫に持っていけ。」

 伍長は静かに受け取り,一度開いて内容に目を通した後,その受領書を自分の胸ポケットに差し入れた。

 フォーリーはやり取りを聞きがら小さく口笛を吹いたので,隣にいたバーンズが彼に”二〇ミリって?”と聞いた。フォーリーは”80”とインチ口径に代え耳打ちすると,バーンズは目を丸くして驚いた。「…ワオ。」

 「ベックス。徹甲弾を二発携行する,だが発砲は一発のみとする。もう一発は不発時の予備だ。」

 「出発は三日後。それまでにゼロインを済ませておけ。」

 ポールはとても強い口調で言った。そして伍長が返事をするのを待ち,また続けて命じた。それはまるでスイッチのようにベックス伍長の覚悟を決めさせた。

 「一発で仕留めろ。」

 

 牡丹雪が降りる午後,ポールとベックスの両名は中隊を離れて歩き始めた。二人の手には消音器を取り付け白い布でカモフラージュしたM24狙撃銃が握られていた。

 これに加えベックス伍長は自分の背丈以上もある二〇ミリ狙撃銃を背負う。銃床を折り畳んでもなお長い砲身が彼の頭を超えて伸びている。

 この銃は彼の手で二日を掛けて完璧に整備された。名もなく,設計図もないが,彼の指先がそれを可能にした。ある所は鏡の様に磨き,ある所は角を際立たせる。

 それでも百発百中には程遠かった。調整後に撃った五〇発の内,”効果あり”は三三発。大口径故その全ては致命傷になりうるが,命中率六六%ではあまりに低い。

 この問題の主たる要因は風であった。日本の冬季特有の強風に海風も乗って,銃弾が上下左右に押されてしまう。その上着弾までの時間が変わればコリオリも影響する。

 それを見込んだ上での二〇ミリ弾の選択だったわけだから,一二・七ミリなら更に悪化するだろうし,これ以上となると人が扱える代物ではなくなるだろう。

 この事実は当然ポールにも報告された。だが彼女は気にも留めずに出発を決めた。それほど急務だったのか,あるいは何か策があるのか,ベックスには分からなかった。

 彼女は多くを語らない。所謂”見て覚えろ”というタイプの人間だと,ベックスは理解している。それは二人だけで敵地に侵攻している今とて同じだ。

 それに加え彼女は”足が速い”。周囲を確認し,前進して,また周囲を警戒するという行動が桁違いに早い。それでいて言葉で情報を共有しようとはしないので,ベックスは彼女に追従するだけで一苦労だった。

 また彼らが進むのは深く積もった雪の上のため,歩を進めるにはコツが要った。二人はそれぞれに重い荷物を背負っているので,一歩一歩が際限なく沈み込む。それでも足跡を消しながら歩むよりはずっとマシだろう。

 降り積もる雪が彼らの痕跡を消してくれる。その代わりに体力を特と奪う。全身を覆っていても濡れた編上靴や薄手の手先から体温が逃げていくのが分かる。

 ある集落は地形的にも死角になる場所が多く立ち止まる回数が急増した。その度に身体の冷えをひしひしと感じた。辺りは雑音もなく,尖った空気感が野戦服を貫いて肌を刺す。

 すると二人の警戒心が何かを察知した。ポールは道路脇の生垣に身を屈め,更に積雪の中に埋まって息を潜めた。彼女らは敵の哨戒に行き遭った。

 中国軍の歩兵十数名は比較的低い警戒度で定期的な哨戒ルートを進んでいるところであった。生垣を挟んだ向こう,目と鼻の先に合衆国陸軍の暗殺班が居る事など,微塵も気づいていない。

 ポールとベックスはこの部隊が通り過ぎるのを待った。雪を踏む足音を全身で感じながら,気配を消してその時を待った。結局このニアミスによる”事”は起こらなかった。

 敵の気配が完全に消滅するまでポールはその場で静止させた。ベックスが寒さで身体が震え出す頃だった。

 二人は音を立てないようゆっくりと起き上がり,互いに目を合わせてから周囲を確認するとまた歩を進め始めた。先の敵兵が残したかすかな足跡を辿った。

 

 ゆるやかな山間には幾つかの宿泊施設が建っていた。近隣に広いスキー場が併設されているが整雪されていない為かゲレンデのリフトは異常に低い位置にあるように見えた。

 ここはそう遠くない最近に敵軍の戦車が幾輌か行き来していたようであった。深く積もった雪に混じって削り取られたアスファルトの断片が二本通っていたからだ。人が通った跡はさほど目立たなかった。

 二人はまだ雪が強く降り続いているうちに狙撃場所に辿り着きたかった。自らが残した足跡を消してくれる降雪があるうちしか猶予はない。もしもこの真新しい足跡に気づかれたならば、敵の将軍らの会合は、少なくとも場所を変えるか或いは取りやめになるやも知れない。

 先にも敵の哨戒班とニアミスを演じている彼らにとっては、予想していたとはいえ”敵陣のど真ん中にいる”ということを再認識し限りない危機感をあおるには十分である。そしてこの冬の間に、来る春の進軍の切っ先になろうというこの作戦の重要性と、同時に二人の身に余るようなこの作戦の負担感を常に抱えていた。

 数十ポンドは下らない重い装備に加え、大口径の対物ライフルの重厚さも異常なら、精神的な負担も異常以上の異常であることは間違いない。

 ”例の作戦本部”が何を考えているのか、兵卒のベックス伍長にとってあまりに不可解であった。だがポール大佐が”やれ”というならば、人生を掛ける覚悟はあった。フラフラと遊び歩いた彼は陸軍に入ってから”自分の価値”を気づいた。そのきっかけは彼女だ。

 周囲への警戒を怠らず低い姿勢をとっている彼女の五メートル後ろから、彼は狙撃場所の天辺を見つけた。十二階建ての古びた旅館が、少し丘のようになった道の先に建っていた。

  その旅館は云わばコンクリートのビルであり、旅館という通り飾ってはいるものの、非常に単純なビルだった。一階部分は完全に雪に埋もれているため、彼らは二階、と思われる割れた窓からビルに侵入した。

 丁寧に雪を払い、館内にも痕跡を残さないよう身支度をすると、彼らは狭い階段を静かに上がっていった。床には赤い絨毯が敷き詰められていて、編上靴が発する硬い足音が鳴る。

 階段を上がりきろうというとき、二人は十二階、つまり最上階が機械室となっていることに気づき、十一階へ引き返した。そこで手当たり次第に空いている部屋を探した。幸いなことに幾つかは空いていて、彼らは好きに場所を選ぶことができた。

 そこで階段から一番に遠い1163号室を選ぶことにした。ここは非常階段からは近い位置にあり、隣の1165号室には部屋の中の鉄扉を通じて移動することができた。”事”が終われば、どちらの階段からでも脱出できるし、特に非常階段は外からは開かないようになっている。もしも敵兵が雪崩れ込んでもよいようにしたわけである。

 この部屋からは雪に覆われた山々とその先の街並みを一望できた。もちろんそこには中国軍が大勢いることも確認することができた。戦車、野戦砲、レーダーに対空砲など、何でもあった。まるで兵器の見本市だった。

 彼らは分厚い二重ガラスを小さく切り取り、銃身とスコープ、単眼鏡が覗けるようにし、ライフルを組み立て、旅館の腰掛や机などを上手に組み合わせて即席の狙撃台を作り上げ、そこで狙撃対象が現れるのを待った。それはしばしの安らぎだった。

 刺すような冷たい風が吹き込むことはあるが雪は防がれているし、暖房はないが比較的暖かいし、なにより静かなのが良い。二人の衣擦れの音と自然の音以外に感じるものはない。敵の存在を忘れられる、それだけでも精神的な余裕を得ることができた。

 二人は交代で対象場所を監視しながら、ここで二晩を明かした。その間、言葉は一切発しなかった。

 

 「大佐・・・!」とベックスが初めて口を開いたのは3日目の正午過ぎだった。ポールは閉じていた目をカッと見開いて単眼鏡を覗いた。ベックスは二〇ミリ対物ライフルの大きなスコープを覗き、銃床を自分の右肩に押し当てた。

 ポールは少しかすれた声で彼に確認した。

 「南へ微速移動。背嚢なし、ロングコートを羽織った野郎か。ああ、今敬礼された奴だ。」

 「確認しました。おそらくは。」 「装填待機、対象の確認まで待て。」

 一・五マイル先には彼らが目標とする中国陸軍の将軍らしき男が到着していた。各所で敬礼をされていることからも、その男が只の士官であるとは云い難いだろう。

 しかし顔を確認するまでは確実な対象かどうかを判断することはできなかった。もし手違いだったとしたら、本来の目標は当然逃げてしまうはずだ。もちろんだからといって、みすみす見逃すこともできない。チャンスは一度しかないが、誰もそれを教えてはくれない。

 彼女が覗く単眼鏡のほうがより拡大率は高かった。これは対象を確認するためであり、放物線を描いて飛ぶ弾丸の照準器とは一線を画すものである。ベックスは豆粒ほどもない小さな対象に狙いを定めて、対象確認を待つことになった。

 ポールはその蒼い目をしかと凝らしてその男を注意深く観察した。ひとつ、またひとつと倍率ダイアルを捻って、顔はもちろん体格や風貌、記章を含めた服装などを丁寧に照合したうえで、ベックス伍長に一声かけた。

 「当該対象を狙撃対象とみなす。初弾装填。」

 すると伍長はライフルをピクリともさせないよう大きく重い二〇ミリ口径の徹甲弾を薬室に置き、槓杆を押し込み引き下げた。

 「準備よし」その言葉に、ポールは続いてこう述べた。

 「距離2673、風速2、目盛り右へ1修正。」

 ベックス伍長は云われた通りにスコープの調整つまみを右手で行い、左手は銃床を強く右肩に押し当てたままで言った。「右1修正よし」

 「安全装置確認」「確認よし」

 「対象が移動中。方位160から165。」「視認よし」

 「距離2670、風速2、修正なし」「修正なし。よし」

 二人はとても機械的だった。所謂ルーチンワークのうちであった。何一つ慌てることなく、焦燥もなく、至極”当然”にやり取りを行った。

 やがて敵の将軍が立ち止まり、双眼鏡で遠くに見える自軍の対空砲陣地を眺めているときに、大佐はついに切り出した。

 「安全装置解除」「解除、確認」

 「対象静止。照準、胸へ。」

 ベックスは一つ大きく息を吸い、そして止めた。覗くスコープに吸い込まれるような奇妙な感覚になった。敵の人相や声などが、その周囲の環境が流れ込んでくるようだった。

 神経は研ぎ澄まされ、指はトリガーを柔らかく包んでいた。

 鼓動の一つ一つが、血の巡る血管の脈動が、一瞬ピタリと止んだ。その刹那だった。

 

 「撃て」

 

 ”””ドーン”””という音とともに衝撃波が彼らの体を打った。音速を超える速度で打ち出された弾丸はこれまた凄まじい右回転をしながらまっすぐに敵の将軍へ向かっていった。

 その軌道がポールには見えていた。そしてわずかに放物線を描いたかと思うと、

 瞬く間に敵の将軍の上半身を粉砕する様子が見て取れた。

 それを目の当たりにした中国軍の面々は驚きを隠せなかった。突然「パーン」というソニックブームの劈く轟音を聞いたかと思えば、目の前にいたはずの将軍が血煙に代わったのだ。

 辛うじて形が残った下半身は吹き飛び、あたり一面が薄い血肉の色で染まった。

 それが狙撃によるものだと気づくには、そうはかからなかった。

 

 「ハートショット、ヒット。よしベックス退却するぞ。プランAだ。」

 ポール大佐はそう言うと、辺りを手早く片付け、積んだ腰掛や机をひっくり返して部屋を後にした。手にはM24狙撃銃を握り、警戒態勢ながらも駆け足で階段を駆け下りる。

 先の発砲で近隣の敵兵は異常に気付いているはずだ。何としても先にこのビルから脱出せねばならない。

 脱出ルートはすでに打ち合わせ済みだった。5つのプランのうち、最も単純で明快なプランAは最もうまくいったときのものだった。

 狙撃場所から素早く脱出し、まっすぐに敵前線を超える最短ルートである。当然味方の援護も期待できる。

 二人は何ら障害なくビルから脱することができた。例の割れた窓、二階から雪の上に着地して、すぐさままた走り出す。

 すると左側面に異常を感じた敵兵の数名がビルに向かっている様子が見えた。当然敵も二人に気づいて、即座に展開を始めようとした。

 が、ポールは急に足を止め、その場で棒立ちになったかと思うと、手早く一名を射殺した。すると残りの敵兵は身を隠すために道路を外れるために走り出す。その一瞬を狙った。

 また二人はこれまでにない速度で雪原を駆け始めた。敵兵の一団もおおよその見当はついたようで、すぐに砲撃が始まった。ビルに着いた初日に見たあの野戦砲からの砲撃だと思われた。

 しかしながらこれは二人がすでに去ったあとのビルとその周辺に対するものだったため、まったく効果はなかった。それどころか、その間は中国陸軍兵たちが足で彼らを捜索することができなかったため、敵をまんまと逃がす形になった。

 ポールはここで無線のスイッチを入れ、司令部との通信を試みた。狙撃が成功したことや敵に追われているといった直近の情報を手短に伝えた。二人は次第に遠ざかる敵の砲撃音を感じながら、森や丘を駆け抜け、プラン通りのルートをまるで短距離走の選手のごとく走り抜けた。

 しばらくすると丘の向こうに自軍の前線部隊を視認したので、彼らは最後の力を振り絞って兎に角走った。もはや息も絶え絶え、必死も必至。狙撃前の無表情さの欠片もなかった。

 そして前線部隊が掘った小さなタコ壺に頭から滑り込んだ。そのタコ壺にはすでに二名の兵員がいたが、彼らは二人の飛び込みを身を呈して受け止めた。

 

 この異様な暗殺作戦は、こうして幕を閉じた。結果は完全に成功だった。

 あの後、追撃はそう激しくなかった。敵も最早どうしようもないことは理解しているようだった。

 二人は一晩はその前線部隊と共に過ごし、明け方になってから補給部隊のトラックに便乗して、自分の宿舎へと戻っていった。そこには中隊副官のアンダーソンや師団長まで居て、二人の成果を称えようと待ち構えていた。

 ベックスは仲間からも”歓迎”された。そしてどうやら前線を離れることになりそうだということを小耳にはさんだ。それが何よりの吉報だった。

 大佐は詳しい状況の報告を行うため師団司令部へと掛かりっきりとなり、多くの通達は各小隊長を通じて配下の兵士たちに伝えられた。

 そうして数日を過ごしたのち、彼らは晴れて前線を離れることとなった。彼らにとっては二度目の安息が待っているように思えた。

 熱いシャワー、清潔なベッド、そして暖かな食事。給料も支払われるだろう。そう思い込んだ。あるいはそう思いたかったというべきだったのかもしれない。

 しかし彼らは南の前線へと移動したに過ぎなかった。今度は西からの中国軍と韓国軍とのつばぜり合いに駆り出されることになった。彼らの落胆はとても大きかった。

 日本一の大きさを誇る琵琶湖の周囲を取り囲む形で前線部隊は構成されていた。こちらは積雪がないので、何処かに居座って散発的な撃ち合いをするのではなく、夏季の戦闘と同じような市街戦が繰り広げられていた。

 師団はまだ彼らの安息を許さず、あくまでも素晴らしい戦力として戦い続けさせることを選んだのだった。

 彼らはまた、哨戒と戦闘の日々を過ごすこととなったのだった。

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