第2章 友好の道 開幕
遅くなりましたが『友好の道』編がスタートします。
今回はツバキ視点です。
※以下ツバキ視点です。
これは妖精族プレイヤーのチーム『スピードスター』を倒してから、ハヤセさん達が銀髪ツインテールの歌姫に連絡を取ってハヤセさん達に車で最強の銃器店まで送ってもらった後の話。
私はセンパイにマイホームに行く用事があると言って別れた後は私のマイホームには向かわずに、ある女のいる家に行くことにする。
私は最強の銃器店から、しばらく歩いて『本拠点・秋葉原』の郊外にある森林公園地区の中にある目的の家にたどり着いた。
周囲は森に囲まれた茅葺き屋根の木造建築の家は壁に所々穴が開いていて、今にも崩れそうなイメージを持たせるが私はその建物には入らないで建物の近くにあった井戸の蓋を開ける。
すると井戸の中は地下へと続く階段があり、私は迷わず地下へと続くコンクリート製の階段に足をのせて地下に進んでいった。
地下にある程度進むと蛍光灯の照明に照らされたコンクリートの天井や壁に床とコンクリート尽くしの寒々しい何も物を置いていない部屋にたどり着く。
そんな何もない部屋に一つだけあるドアに近付いてスカートの下に隠してあるナイフを引き抜くとドアを少しだけ開けた後、一気にドアを蹴り開けた。
ドアは凄まじい勢いで開くと同時に私は床を転がりながら部屋に侵入すると、銃声が響き私の頭の上を弾丸が通過していく。
侵入した部屋にはコンクリートで出来た壁にある棚やガラスのショーケースの中には大量の銃器が並んでいて、武器庫のような部屋の奥の方では私に向かってハンドガン・M1911を構えた女がいた。
女がM1911のトリガーを引こうとするのを感じた私は反射的に女の大切なコレクションである武器の並ぶショーケースに身を隠すと女は一瞬躊躇する。
私はすかさず女にナイフを投げつけてM1911の銃口が私から逸れた隙に体当たりを食らわせた。
私の高いAGIにものを言わせた体当たりをモロに食らった女が床に倒れ込むと私が近くに落ちていたナイフを拾って女にのし掛かり、女の首に突きつけるのと同時に女の持つM1911の銃口が私の顔に向く。
女は首に突きつけられているナイフを見て残念そうにすると私に話し掛けてきた。
「いやぁ相変わらず強いねぇツバキっち?アタシの負けですよ。なのでナイフを退けてもらえますかな?」
「と言いつつもM1911を握る手は私を撃ちたくて仕方がないようですが?私相手に騙そうなんて無駄ですよ。」
私がそう言うと女はバレてるよねぇ・・・と呟くとM1911をゆっくりと地面に置いて降参とばかりに両手を上げた。
私はそれを見てゆっくりと女の上から退くと女はM1911を腰のガンホルスターに仕舞い、立ち上がりながら朗らかな笑みを浮かべて言う。
「いやぁ・・・やっぱりツバキっちは強いですねぇ?その辺のルーキープレイヤーなら足音が聞こえた時点でドアごと撃ち抜くし、ベテランプレイヤーなら部屋の扉を開けた時点で蜂の巣なんですがな。ナイフだけでアタシが倒されるとかまだまだ修行が足りませんなぁ・・・。」
人間族プレイヤー達のチームに『G.H.O.S.T.』というチームがあった。
チームメンバーの頭文字を取って『G.H.O.S.T.』であり、5人でありながら次々と依頼をこなしていくことで有名だった彼らは急にお互いの仲が悪くなり解散してしまう。
トゥルーはこのチームメンバーの一人だったのだが、解散してしまった後は誰とも組まずに一人で依頼をこなしていた彼女はある日、一人では到底クリア不可能と言われるミッションに何度も挑戦していると、そのミッションを一人で達成した私と出会ってしまった。
それからトゥルーは一人であっさりと達成して帰ってきた私にミッションの達成の仕方を聞いてくるようになり、面倒に思った私が拠点の外で始末しようとして色々とあったものの、それが切っ掛けで今では協力関係を築いている。
そんな経緯で知り合ったトゥルーだが、この女は重度のガンマニアであるため銃のことならこの女に聞いたら色々と教えてくれた。
なので今回、威力不足になってきたMP7の代わりに新しいアサルトライフルが欲しい私はこの女にどんなアサルトライフルが良いのか聞くことにしたのだった。
私は青く長い髪をポニーテールにして、薄手のシャツと膝丈のジーンズを穿いたトゥルーに呆れた顔で言ってしまう。
「それは一対一より複数対複数の方が有利なスキルを持つトゥルーより一対一で有利なスキルを持つ私では私の方が圧倒的に有利ですから。あと私の事をツバキっちと呼ぶのは止めてください、いい加減にしないと怒りますよ?」
だがそんな私の言葉にトゥルーは武器のショーケースの鍵を開けながらおどけたように言う。
「おお怖い怖い・・・ツバキっちを怒らせたらダンジョンとかで出会った瞬間に死にそうですなぁ。まぁそんなことよりも・・・アタシのところにツバキっちが訪ねた理由は基本的に武器の相談か協力して依頼をこなすかの二つしかないですからの。今回はどっちの用件ですかな?」
「MP7よりも威力の高い武器を欲しいなと思いまして。出来れば様々な戦場で対応できるアサルトライフルを教えて欲しいです。」
私はあまり銃器に詳しくないので大雑把に質問するとトゥルーは呆れた顔で私に言ってきた。
「・・・ツバキっちは銃のこと良く知らないからって相変わらず質問が大雑把すぎですねぇ・・・そりゃあアサルトライフルといっても様々なニーズがあるから一概にどれがいいとは言えないし・・・。結局さ、銃なんて使用する弾の性能以上の威力は出ないし超精密射撃が可能な銃でも当たらなかったら意味無いし、それにアタッチメントも組み合わせて使えば基本的にどこでも戦えるからねぇ。強いて言うなら7.62NATO弾や7.62×39㎜の規格以上の弾を扱う銃とかはツバキっちの体格だとフルオートで撃ったときに銃口の跳ね上がりを抑え込めないからオススメしないかなぁ。確かにAK47とか威力は高いけど、上手く扱えなくて弾が当たらないなら意味ないからねぇ。」
そう言ってトゥルーはショーケースから取り出した様々なアサルトライフルを私に見せて言う。
「これはM4A1とM16A4ね。アタッチメントも豊富だしツバキっちなら銃を手入れするだろうし、ツバキっちの体格でも抑え込めるだろうからオススメしとく。ちなみに必要ならアイテムトレードでフルチューンしたM4A1とツバキっちの使い込んだMP7を交換できるけどどうする?」
※アイテムトレードとは
※レア度が低い武器やアイテム同士でアイテムを交換することが出来るシステム。
※基本的にNPCの店で購入可能な武器やアイテム及びレア度の低い素材で作成された武器は交換が可能であり、レア素材を使って作成された武器やボスドロップのレアアイテムなどは交換不可能。
※ちなみにユウトの作っている悪魔ウエポンもレア素材がたっぷりと使われているため交換不可能。
私はシステム画面でアイテムトレードを選択して、MP7をトゥルーに渡すとトゥルーは私にM4A1を渡してきた。
晴れて私の物になったM4A1は伸縮式ストック・ACOGスコープ・サプレッサー・レーザーサイト・フォアグリップが装備されている。
私はそれを手に取ってしげしげと眺めているとトゥルーは私に言ってきた。
「そういえばさぁ?ツバキっちは明日の予定ある?」
「・・・明日は休日なのでログインする予定ですが何故ですか?」
「実はさぁ・・・また今度手伝って欲しい依頼があるんだよねぇ?アタシ一人じゃ厳しそうなんでツバキっちには是非とも手伝って欲しいのさ。」
「もしセンパイがログインしていない場合は手伝いますよ。」
私がそう言うとトゥルーはショーケースから出した武器を弄りつつニヤニヤとしながら私に言う。
「相変わらずツバキっちは一途だねぇ?愛しのセンパイとは上手くいってるのかなぁ?いやぁでもツバキっち意外とウブだからなぁ・・・」
「人の恋路を邪魔する人は馬に喰われて死んじまえと言うそうですよ?」
私とセンパイの関係を茶化してくるトゥルーに私は微笑みながら言うと、トゥルーは顔に冷や汗を浮かべつつ、部屋の奥の方にあるキッチンに歩いていきながら私に言う。
「いやいやいや!?そんな怖い慣用句無いからねツバキっち!?愛しのセンパイを一途に好きだと言うツバキっちが羨ましいから、ちょっとからかっただけじゃん!?ホラ、心配しなくてもツバキっちとセンパイの恋路は邪魔しないよ。それより久しぶりにここに来たんだからさ、少しお茶でも飲んでいかない?」
トゥルーはそう言ってキッチンから戻ってくると紅茶を私に出してきた。
私は紅茶を受け取ってトゥルーとしばらく他愛もないことを話したあと、時間も遅かったのでログアウトして寝ることにする。
「じゃあねぇツバキっち?明日暇だったらミッションを手伝ってねぇ?」
「センパイがいないなら手伝います。」
私はそう言ってトゥルーの家を後にするとゲームからログアウトしてシャワーを浴び、すぐにベットに潜り込んだ。
次の日の朝、私は朝食を食べ終えるとゲームにログインするとセンパイがいるであろう最強の銃器店に向かった。
私の格好はいつも通りの黒を基調としたワンピースでM4A1を背中に背負い、ワンピースの胸ポケットにはペンに見せかけた小型のナイフが付いている。
可愛らしい刺繍のされている黒いショルダーバックの中には30連マガジンを8本入れていて、ちょっと重い気もするが私は気にせず歩いているとようやく最強の銃器店に到着する。
私は今センパイが何をしているのか気になって窓から店の中を覗くと窓から見えた光景に私は凍り付いてしまう。
店の中では可愛らしいデザインの白いドレスを着こなして、真っ黒の艶やかな髪をもう少しで床に触れそうなくらいに伸ばした美少女がおどおどとした様子でセンパイに話し掛けていて、センパイはその美少女の話を真面目に聞いていた。
それを見た私は瞬時に判断する。
これはとても危険な状況で、敵は誰もが守ってあげたくなるような小動物的可愛さを放つ美少女であり、優しいセンパイはこういった守ってあげたくなるような雰囲気を放つ人物の言葉を断れない。
そして私の知っている限りこういった人物がセンパイに接触してくる時は録でもないことを考えていることが多い。
なので私は速やかに美少女を始末することに決めると最強の銃器店の扉の開け、ドアベルがカランカランと音を立て私は店の中に聞こえる大きさの声で言い放った。
「センパイ!今日も大好きですよ!」
その言葉にセンパイと美少女が私を振り向くと同時に私は音を立てず速やかに店の中を移動してセンパイと美少女の間に挟まれる手前の位置で止まるとようやく気づいたかのような口振りで言う。
「あれ?センパイ・・・今日は誰か知り合いと会う予定だったんですか?」
ちなみにこの言葉はセンパイの知り合いかどうかを確かめるための言葉で別にこの美少女がどこの誰だろうが興味はない。
大事なのは美少女がセンパイの知り合いだった場合で、その場合だと強行手段や通常手段による排除は控えてなるべく穏便に美少女を排除しなければならないからだ。
でないと私がセンパイに嫌われてしまうかもしれないし・・・と、私が思っているとセンパイは真面目な顔で言う。
「いや違う、今日初めて知り合った。名前はユキで・・・」
私はそこまで聞くとセンパイの話を笑顔を浮かべて聞いているフリをしながら思案する。
どうやら美少女・ユキはセンパイの知り合いでもなかったことから穏便に排除する必要が無くなった。
私としては今すぐ強行手段によりセンパイの周辺から排除したいが、そんなことをすればセンパイに嫌われてしまうため私は仕方なく通常手段で排除する事にする。
私はセンパイが話す間も笑顔を浮かべながら美少女に向かってゆっくり近づいていくとセンパイは突然聞いてきた。
「・・・という訳なんだツバキ。ツバキはそれで問題ないか?」
私は目の前の美少女を排除することしか考えていなかったので、センパイに聞かれた事に思わず反射的に答えてしまう。
「えっ・・・と、もちろんですよ!センパイのためならどんなことでもしちゃいます!」
私はそう言って笑顔を浮かべ、話を聞いてなかった事を誤魔化すとセンパイは安堵の表情を見せた。
だが私はセンパイの安堵の表情よりも美少女を排除する為に集中していたのでその表情の意味を理解していなかったのだが、私は気にせず美少女に話しかける。
まず通常手段で敵を排除する時のポイントは相手に私は親切であり、優しそうだと思わせることが大事だ。
「初めまして、私は舞花椿と言います。舞花と気軽に呼んでください。」
笑顔を浮かべての自己紹介は人に油断させる時の基本中の基本。
もちろんセンパイ以外にツバキなどと気安く呼ばれた時には思わず強行手段により排除してしまうかもしれず、目の前の美少女も例外ではないので、あらかじめ私の事は舞花と呼ぶようにしてくれと言っておく。
そう私が笑顔を浮かべて自己紹介をすると目の前の美少女は慌てた様子でおどおどしながら私に自己紹介した。
「は、はは初めまして!私の名前はユキでしゅっ!?・・・舌が・・・舌が痛い・・・。」
自己紹介で自分の名前を言って舌を噛んだユキという敵は涙目になりオロオロし始める。
そんな美少女に私は大丈夫?と心配そうな表情を浮かべ、内心では案外楽に片付きそうだと安堵しながら次の行動を思案するとユキに訪ねた。
「ユキさん・・・でいいのかな?ユキさんはどうしてここに来たのですか?困り事なら私も相談に乗りますよ?」
大体、このゲーム世界で人間族プレイヤーがセンパイに近づく理由は一つ。
一センパイを利用して自分の欲求を満たしたり、銀髪歌姫との関係を持とうとする事だ。
『歌姫親衛傭兵団』の銀髪歌姫に気に入られていることで有名なセンパイは(本人は全く知らない)男性プレイヤーだと銀髪歌姫との接点を持ちたくて、女性プレイヤーだと銀髪歌姫が気に入っているセンパイを我が物にして羨望の的になりたい等の理由でフレンド登録やチーム登録を要求してくるのだ。
もちろんその事を知った私は、そんな目的でセンパイに近づいてくる人物を影で片っ端から始末しているので今のところ誰もセンパイにフレンド登録やチーム登録させることを成功していないが。
ともあれセンパイに近づいてくる人物はハヤセなどを除いて、ほとんどセンパイを利用しようとする人物達である事を知っている私は恐らくユキの目的もそんなところだろうと思いつつ優しい口調で聞くと、ユキは涙目になりながらオロオロしていた表情が徐々に輝くような笑顔に変わっていくと私に告げた。
「わわ、私は『暗黒帝国』の代表者のユキです!人間族プレイヤーの『歌姫親衛傭兵団』と同盟を結ぶ為に来ました!美優さんに紹介してもらった勇人さんと舞花さんに護衛をして欲しいのでここに来ました!」
そんなユキの想定外の言葉に私はしばらく呆然としているとセンパイは私に告げる。
「どうやら『暗黒帝国』と『歌姫親衛傭兵団』が組んで『森林同盟』に対抗するつもりのようだ。そこで『暗黒帝国』の代表であるユキがミユと話をして同盟を組むことが決定したようだが・・・どうやらミユはユキの帰り道の護衛に俺とツバキを紹介したようだ。」
そんなセンパイの言葉を聞いて私は思考する。
『暗黒帝国』とは小悪魔族や死霊族などの魔族プレイヤーが集まる一大勢力で、小悪魔族とは夜間の戦闘が得意で闇の魔法を自由自在に操る種族で、死霊族はモンスターを操り戦う種族なのだが目の前のユキはそんなプレイヤー達の代表者。
そして恐らく『歌姫親衛傭兵団』の最高指令官である銀髪歌姫が『森林同盟』に対抗するため、どうにかして連れてきたに違いないのだが・・・
「しかし良かった。ツバキが断ったらどうしようかと心配していたが杞憂だったようだな。俺も安心できる。」
そんなセンパイの言葉に私は嫌な予感がして、私はおそるおそるセンパイに聞く。
「・・・どういう依頼かもう一度詳しく聞いてもいいですか?」
今回は優しいセンパイの見えないところで苦労しているツバキの話でした。
次回はいよいよ『友好の道』編がスタートしますのでのんびりとお待ちください。