物語は始まった 3話
お待たせしました、今回は説明が多いです。
※以下ユウト視点
『歌姫親衛傭兵団』
眼鏡を掛けた男に案内されて俺とツバキはそんなチームの占有するビルに入っていく。
ここは9割の人間族のプレイヤー所属する超大規模チームの利用するビルであったが最近人間族の領土内で発生するエルフや獣人、妖精などのファンタジーの代名詞の集団が集まる、通称森林同盟と呼ばれる勢力との拠点の奪い合いが激化したためにビルの中は閑散としていた。
俺とツバキはそのままビルのエレベーターで最上階に上がると、そこには作戦会議室のような部屋が広がっており眼鏡をかけた男は中に入るように促す。
俺は作戦会議室に入ると机の上に広げた地図を見て悩んでいた銀髪のツインテールの少女・明音 美優(アカネ ミユ)は作戦会議室に入ってきた俺に気づく。
ミユは作戦会議室に入ってきた俺を見て嬉しそうな表情を浮かべて立ち上がると俺に近づきながら言う。
「き、来てくれたのユウト?べ、別にそこまで嬉しくないけどせっかく来てくれたなら今度埋め合わせをしてあげ・・・って、うわわわわ!?」
しかしダダダダンッと銃声が作戦会議室に響き俺に近づいてきたミユの足元の床に弾痕が残るとミユは驚きのあまり立ち尽くす。
ミユは突然ことに驚いていたが、しばらくして我に帰るとポケットからハンドガン・マカロフPMを取り出すなりエレベーターの方から銃を撃ってきた人物に構えて叫ぶ。
「やっぱり現れたわね暴力女!あの眼鏡男じゃ多分止められないとは思ったけどさ!」
その人物とは黒い革製のショルダーバッグの中から出したであろう、PDWのH&K MP7をミユに向かって構えているツバキだった。
ツバキは自分に向いているマカロフPMを見ても気にせず、予想通りの展開に頭を痛めている俺に笑顔を浮かべて言う。
「センパイ・・・その女から離れてください。その女は淫乱ビッチ美優という芸名の大人のビデオの女優さんなんです。そんな人に話し掛けられたらセンパイの輝かしい功績に大きな傷をつけられる可能性がありますから私が排除します。」
そんなツバキの言葉にミユは叫んだ。
「淫乱ビッチ美優なんて芸名聞いたことないし、あたしはまだ生娘なの!それにあんた今すぐ世界中の女優さんに謝りなさい!」
だがそんなミユの叫びをツバキは無視すると微笑みを浮かべたまま俺に言う。
「ああ・・・すみませんセンパイ、もうすぐ私がセンパイに近づこうとする淫乱娘に生まれてきたことを後悔させてあげますから・・・少し待っててくださいね?」
そんなツバキの言葉にミユは少し怯えた顔をしたが、しばらくすると気丈に振る舞いながら震える声で言う。
「や、やれるもんならやってみなさいよこの戦闘狂暴力女!こっちはスナイパーライフルを間近で撃たれても防げる服なのよ!?あんたの攻撃なんて致命傷にすらならないわ!」
だがそんなミユの言葉にツバキは微笑みながらトリガーに指を掛けて答える。
「ふふふ・・・拠点内でダメージを与えるのは不可能なのに弾が当たった衝撃はあるんですよね・・・ちなみにこの銃で撃ったプレイヤーを自分から進んでログアウトさせるまでに掛かった時間は過去最高5秒でしたけど・・・その薄っぺらい胸で5秒も耐えられるかなー?」
そんな事を言うツバキにミユも堪忍袋の緒が切れたのかマカロフPMを握り締めながら叫ぶ。
「・・・誰がまな板娘よ!これはまだ成長途中なの!こうなったらあんたなんて返り討ちにしてや・・・」
俺は会話の流れに付いていけなかったが、このままではヤバイことが起きる気がするので溜め息をつくと俺は二人に言う。
「二人とも、もう喧嘩は止めようか。・・・君たち二人はいったい何時になったら仲良くなるんだ?」
そんな俺に向かってツバキは笑顔を浮かべながら走ってくるなり俺の右手を取って言う。
「センパイと私の関係をその女に見せつけてから、その女を銃でズドンといきましょう。」
「いやゴメン、何言ってるか分からないから落ち着こうか?」
俺は急に意味不明なことを言い出したツバキを心配していると俺は左手を握られる感触がして左手の方を見る。
ミユは俺の左手を握りながら笑顔で言う。
「もし嫁にするとして野蛮で残酷な戦闘狂の女と歌って踊れる可愛い乙女のどちらかを選ぶなら考えるまでもないわよね?」
そんな満面の笑顔を浮かべながら言うミユに俺は告げた。
「選択肢や質問の内容が突飛過ぎて返答が難しいな。とりあえず君も一度落ち着いて話そうか?」
しばらくして俺は二人とも落ち着いたのを見計らいミユに本題を聞くとミユは思い出したとばかりに机に広げてある地図を指差した。
俺とツバキはミユが指差した地図を見ると大量の点が打ってあるが、そのなかで人間族の拠点と書かれた点は3つしか残っていなかった。
ミユはそんな拠点が3つしか残っていない地図を見ながら言う。
「・・・ユウトも知ってると思うけど、これが私たち人間族プレイヤーの現状よ。加えて現在のこの拠点『シティ・暁』はフェアリー族の奇襲のせいでさっき占領されたわ。」
そう言ったミユは俺を見ながら言う。
「あたしのチームはエルフ族と獣人族だけで手一杯なのにフェアリー族まで残った拠点を攻めてきたら人間族はもう勝てないわ。そこで、あたし協力要請に応じた精鋭チーム『ファルコンクロー』と共に奇襲してきたフェアリー族の主力を撃破してほしいのよ。・・・でも・・・ユウトがダメなら無理強いはしないわ。」
そんな申し訳なさそうな顔をするミユを横目に心のなかでガッツポーズをした俺は喜んで答えた。
「いや、やるよ。・・・ただし今回も最新作を買い取ってもらってもいいか?ミユのチームで使ってもらって感想が聞きたいんだ。」
そう・・・俺の作る武器は基本的に要求STR値が高いし値段も高いため、プレイヤー個人では買うことができず、また俺では扱うことができないため使用した時の感想を知ることが出来なかった。
ちなみに要求スペックが俺のSTR値以上の銃を作ることは出来るものの、銃が完成した瞬間にその場から動かせなくなるので、その場合は俺の知り合いに運んでもらっている。
なら俺の知り合いに最新作を使ってもらえばいいのだが、その知り合いは銃を使わない主義だった。
ただでさえ普段完成した銃を倉庫に運んでもらっているのに主義を曲げて最新作を使ってくれと言えなかった俺はチームのアイテム共有システムを思い出した。
チームを組むメリットのうち、このチームのアイテム共有システムはチームに所属するプレイヤーの指定した武器などをチームメンバーと共有することが出来るというもの。
そこで『歌姫親衛傭兵団』のチームリーダーであるミユに俺の最新作を買ってもらい、『歌姫親衛傭兵団』に所属するプレイヤー達と最新作をか共有さて使ってもらえば多くの人の感想が聞けることに気づく。
その事に気付いた俺はミユにその事を相談すると最新作を幾つか買い取って貰うことになり、それ以降ミユが俺を何らかのクエストに誘ってくる度に店に置いてある最新作を買い取ってもらうことにしていたのだ。
そんな俺の返事にミユは依頼を引き受けてくれるのかと喜びかけたものの、最新作という言葉を聞いて何かを悟ったような顔をして俺に言う
「も、もちろんいいわ!エンジョイ勢のプレイヤーは話のネタになるって喜んで使ってくれるし、ガチ勢プレイヤーはなかなかキチガイ性能な武器だって好評だからあたしのお金で買うのは問題ないわよ!・・・ちなみに今回の最新作って何なの?」
冷や汗を浮かべながら最新作の事を聞いてくるミユに俺は不思議に思っていると、ツバキは達観した表情で答えた。
「センパイの倉庫に善意の塊で出来たショットガンとスティンガーミサイルが山積みになってるんです、あと今日の新商品は善意の弾丸ですね。」
そんなツバキの言葉を聞いたミユは俺に言ってきた。
「・・・ただの善意の塊なのに買い取るのが怖いけど・・・ええい!最新作を買い取る代わりに協力をお願いするわ!」
ミユに最新作を買い取ってもらうことが決まると、俺とツバキは眼鏡をかけた男に案内されてビルの一階にある車庫に向かった。
車庫に着くと眼鏡をかけた男は一礼して去っていくのを見送ってから俺とツバキは車庫の中に入る。
そこには三台の黒塗りのバンが並んでおり、その周りには『ファルコンクロー』のメンバーがたむろしていた。
俺とツバキはその集団に近づくと、真っ赤な髪を短く切り揃えた髪型にAK74を肩からぶら下げ、ODのBDUの上にボディーアーマーとチェストリグを装備している男が笑顔を浮かべながら話しかけてきた。
「よぉ、お二人さん。相変わらず進展してなさそうだな?ユウトは愛想つかされる前に気づけよ?」
そんな男の言葉に俺は首を傾げているとツバキは男に微笑んだ。
「早瀬さん?口は災いの元、死人にくちなしっていうことわざを知ってますよね?」
そんなツバキの言葉に笑みが凍りついた男の名前は早瀬 琢磨と言い、俺の高校時代の先輩だった。
先輩が高校時代の時は札付きのワルだったがある事が切っ掛けで俺と知り合い、先輩は色々あってこのゲームを始めることになる。
先輩は持ち前の負けず嫌いな性格で瞬く間にベテランプレイヤーに並ぶ実力をつけるとガチ勢のプレイヤー達から誘われてしばらく強いチームに所属していたが、初心者や実力の低いプレイヤーを排斥しようとするチームリーダーと揉めてチームを抜けると、先輩は初心者や上手くなりたいプレイヤーを10数名ほど集めたチーム『ファルコンクロー』を結成したのだ。
俺は札付きのワルで誰からも恐れられていた先輩が『ファルコンクロー』を結成してからは、面倒見がよくチームメンバーから慕われているチームリーダーだと知った時は驚いたが、ともあれ今では『ファルコンクロー』は優れた連携により強敵を倒す精鋭チームとして有名になっている。
そんなハヤセが俺やツバキに話しかけるのを見て『ファルコンクロー』のメンバーが驚いた顔をして何かを囁いていた。
(あれが例の二人か?)
(あの男が噂になってる有名な銃器職人らしいぜ?で、あの可愛い女の子が伝説の女の元相棒らしい。)
(その噂マジなのか!?あの万年ソロプレイヤーに相棒とかあり得ねえだろ!?)
(その噂はおれも聞いたよ。なんでも極度の人嫌いで有名なあの女があそこにいる女の子を凄く気に入ってたらしくてな、あの女が直々に鍛えたらしいぜ?)
(知ってるよそれ、あの女の子って可愛い顔して実は滅茶苦茶強いんだろ?たしかそんな噂を聞いた覚えがある。)
そんな囁きが聞こえた俺は何の話か分からなかったが、俺はふと隣を見るとツバキは何故か不機嫌な表情を浮かべている。
急に不機嫌になったツバキを見たハヤセは囁いていたチームメンバー達を注意した。
「おいおい・・・お前らな、本人の前で根も歯もない噂をするんじゃない。ユウトとツバキちゃんが困ってるだろ?」
「す、すみません・・・。」
ハヤセに注意されたチームメンバー達は申し訳なさそうに謝るとツバキは不機嫌な表情を消して微笑みながらに言う。
「・・・次から気を付けていただければ問題ないです。ただ私はその噂と全く関係ないですから、本当の話かどうかも分からない噂に勝手に私を当て嵌めて適当な話を捏造し、その話をそこらじゅうに吹聴するのは止めてくださいね?。」
そんなツバキの言葉を聞いてチームメンバー達は申し訳なさそうにしているなか、ハヤセは俺と今回の作戦を話し合おうと言う。
ハヤセは俺に止めてあるバンの中に『シティ・暁』の地図があるから見に来いと言うなり先にバンの中に入っていった。
俺はハヤセに後で行くと告げて、ツバキが急に不機嫌になった噂について聞いてみた。
「噂っていうと・・・伝説を作った女ソロプレイヤーのこと?」
「そうです。獣人の精鋭騎士団全員を一人で倒したとか、エルフの魔法攻撃の嵐を一人で生き抜いたとか、ドワーフ族の戦士を素手で倒したとか言う都市伝説みたいなことばっかりしたソロプレイヤーの噂ですよ。」
俺の言葉にツバキは不思議そうな表情を浮かべると言葉を続ける。
「最近そんなソロプレイヤーには相棒がいたとか噂に尾ひれがついて、その実在するかも分からない相棒が私によく似てるそうなんですよ。だから私が町を歩いてたらすれ違う男達から噂は本当なのかって絡まれて大変なんですけど・・・それがどうかしたんですか?」
ツバキの言葉を聞いて俺はそんな噂があったのかと思う反面、普段世話を焼いてくれるツバキと一緒にいながら噂のせいで迷惑な思いをしていることに気づかなかった俺は、なんだか申し訳なく思いながらツバキに言う。
「・・・じゃあその噂が流行らないように俺も何か手を打つことにするよ。だから今後はツバキが困ってて俺に頼みたい事があったら言ってくれ、その・・・普段世話になってるツバキが困ってるのに気づけなくてごめん。」
俺がそう言うとツバキはキラキラした目で俺を見ながら言った。
「あ、ありがとうございますセンパイ!そんな私の心配をしてくれるセンパイは何時も大好きですよ!」
そんなツバキの様子によほど噂のせいで迷惑は思いをしてたんだなと再認識した俺は、ありもしない噂を消すための手段を考えつつも感極まった様子で大好きと言い出したツバキに言う。
「ツバキがそこまで喜んでくれると俺も嬉しいけど、流石に彼氏ですらない俺に大好きは言い過ぎかなと思うよ?・・・じゃあ俺はハヤセの所に行ってくるから少し待ってて。」
俺はそう言ってハヤセの待つバンに乗り込んだ。
そう言ってバンに乗った俺と、ガックリと肩を落として車の外で待つツバキを見た『ファルコンクロー』のメンバーは囁いていた。
(・・・苦労してんだな、あの女の子。)
(・・・おれ、あんなストレートな好意をぶつけられて気づかないあの男の鈍感さに驚いたわ。)
(・・・あの女の子を手助けしてやるか?)
(そうしようぜ、なんかあの女の子が可哀想になってきた。)
車の外で『ファルコンクロー』のメンバーがそんなことを囁いていたとは知らない俺は車の中に入るとハヤセは待ちくたびれた顔をしていたが、ハヤセは俺を見るなり車内の中心に置いてある地図を指差して言った。
「いいかユウト?オレたちの目的はここにいる森林同盟のフェアリー族を撃破することだが・・・こいつらは知っての通りAGIにかなりのステータスポイントを振ってるから、空を飛んでても疲れにくいし空を飛ぶスピードも速い。まぁ要するにユウト、オレたちはそんな奴等と戦うんだが・・・何か名案はないか?」
俺はハヤセの言葉にしばらく考え込み、しばらくして俺は名案を思い付いたのでハヤセに言う。
「でもフェアリー族の飛べる高度は最高30メートルでどれだけ頑張っても五分以上飛び続けることは出来ない、それに時速45キロで空を飛ぶことが出来るけど反射神経や動体視力は向上しない。」
そんな俺の言葉にハヤセは理解できなかったようなので説明を付け加えた。
「時速45キロとは100メートルを8秒で走るスピード、つまり人がほぼ全力ダッシュしてるスピードよりも速いんだ。それを逆手に取る。」
俺はそう言ってハヤセに作戦を説明するとハヤセはあきれた顔をしながら俺に言う。
「・・・これはまた斬新な迷案だな?まぁ多分ユウトが考えたなら成功するんだろうが・・・よし、取り敢えず必要なものを揃えよう。空を飛んで余裕な顔してるフェアリー族の顔を真っ青にしてやろうぜ?」
ハヤセはニヤリと笑うとバンから出てチームメンバーを集め次々と指示を出し始めると、俺もバンから出てツバキとこれからの作戦を話す事にした。
次回はようやく本格的な戦闘シーンとなりますので、のんびりお待ちください。