第ゼロ歩・大災害マイナスほにゃらら 其の弐の中篇
レオ丸と、エンクルマ氏の、発動編です。
本当は後篇でもあったのですが、佐竹三郎様より頂戴致しました詳細な人物設定を全て盛り込みたくなり、もりこみましたら完結し損ねてしまいました。
二部構成のはずが、まさかの序・破・急です。
ゆえに後一回続きますので、更に暫しお付き合い賜りたくぞんじまする。
佐竹様には、前回同様に言語指導と、監修の労を頂戴致しました事を付記致します。
佐竹三郎様、重ねて感謝です!!
梅田地下街を放浪する事、約一時間半。
レオ丸とエンクルマはの二人は、泉の広場と名称された梅田地下街の最奥の一つの、噴水が設えられた場所の傍にある喫茶店に腰を落ち着けていた。
「なるほどなぁ。……エライ目に遭うたんやなぁ」
ウロウロとしていた道すがら、此れまでの来し方の全てを話す、エンクルマ。
言葉を捜しながら、訥々と語られたその内容の、一言一句に耳を傾け続けたレオ丸。
エンクルマは、生まれも育ちも福岡県の中部、筑豊と呼称される所だった。
筑豊とは、かつては産炭地として日本経済を下から支えていた地域。
その地元小中高と進学し、更に美容師の専門学校を卒業した後、学校の薦めに従い上京し、都内では中堅処の美容室に就職したエンクルマ。
彼の社会人としてのキャリアは、故郷から遠く離れた地でスタートする。
生まれついての性分が職人気質であったのが幸いしてか、下積み生活を苦ともせずに、地道に毎日コツコツと修練とも言える日々を送っていた。
だが。
就職してから、十ヶ月が過ぎた先日の事。
エンクルマの身に、実体化した悪意が襲いかかったのだ。
職場の先輩による嫌がらせ、という実害を伴う悪意が。
本人が思い返してみれば、その嫌がらせは就職間もない頃から始まっていたらしい。
エンクルマ自身の考えからすれば、先輩が新参者へとしていた数々の所業は、職人世界には有りがちな事だろうと受け止めていたのだ。
しかし、違っていた。
職場の先輩はエンクルマに対し、善意から来る指導ではなく、悪意に準拠するパワハラをしかけていたのである。
学生時代の仲間達が餞別してくれた、ハサミ。大切な、宝物である。
その宝物が、見るも無残に破壊された。
大恩ある両親、絆深き友人達、そして生まれ育った愛する故郷。
それらが、口汚く侮辱された。
更に。
軽く、とはいえ胸を小突かれ、頬を叩かれたのだ。
「そらぁ……其処までされて我慢出来るんは、マハトマくらいやろ?
ワシなら、見境なく……相手の足踏んで、横から顎に一発食らわすか、横っ腹に肘撃ちでもかますかもなぁ」
「気ぃついたら、そんぼんくらぁ床ン上でしまえちょりました」
「ああ、ガツンとかましたったんやな。
まぁ、当然の報いや、ざまぁ見ろってな。
ほんで、店飛び出して、荷物纏めてバイクに乗って田舎に戻ろうとして、一路西へと直走り、大阪まで来たんか?」
「……はい」
「ほいで、大阪に着いた処で、手持ちのお金とバイクのガソリンが尽きた、と。
しゃーないから、大事に貯めてきた虎の子の預金を下そうと思うて、ATMを探そうとしたんやけど、梅田の地下で迷ってしもうた、と」
「はい」
「ほしたら、よう判らん変なおっさんに捕まってしもうた、って訳やな?」
「はい」
「其処は、“いいえ”やろが! “おっさん”ってトコだけは、否定せんかい♪」
「???」
「まぁ、エエわ。小ボケに即座にツッコミ出来る性格やったら、ぶん殴り返すよりも前に口で遣り込めとるわな」
コーヒーカップを両手で握り締めたまま、眼を白黒とさせているエンクルマを見て、レオ丸は苦笑いを浮かべた。序で、咥えていた煙草を灰皿で揉み消し、眼鏡を外して御絞りで顔を拭く。
「ほんで? ……田舎に逃げ帰って、どないするん?」
「え?」
「売られた喧嘩を買って、代金払って、それで仕舞いかいな?
自分が研鑽して来た十ヶ月、いやいや美容師になろうって思うてからの年月分のモンまで含めて、自分は代金として支払ったんやで?
そんな高額な、……銭金に換えられへんモンを相手に叩きつけといて、そんで自分の掌になんぞ残ったんか?
……ボッタクリの飲み屋でかて、もうちょいマシやで、ホンマに。
華々しくスタートしたのに、そんな事で転倒してリタイアってどないやねん。
ふむ。…………ふむ、よっしゃ!」
レオ丸は、お絞りを丁寧に畳んでから、眼鏡をかけ直し徐に一つ頷く。
「エンクルマ君よ。自分が勤めてたお店の、住所と電話番号、それと店長さんの名前を教えてくれるか?」
「なしです?」
「ま、エエから。ちょいと考えが閃いたんやわ。今が自分のドツボやとしたら、今よりも悪くはならへんし、案じようワシに任したりぃな」
見方によっては悪い感じの、微妙な微笑を浮かべたレオ丸に、エンクルマは首を傾げながらも素直に問われた事を口にした。
レオ丸はそれらを全て、テーブルに備えられていたペンで、広げた紙ナプキンに書き記す。
「此の住所って、どっかで見た事あるんやけど……、何処やったけ……か?
って、ああ! あいつントコとほぼ一緒やんか!!
ツキあんなぁ、自分! 中々のモンやで、ホンマ。マジで笑うてまうわ!」
含み笑いをしながら、レオ丸は腰に装着したホルダーから、携帯電話を取り出し開いた。
「さてさて、あいつの電話番号は……、お、コレやコレや。
東京モンはワシらと違うて暇やろし、大丈夫やろうさ。
……あ、もしもし! 御無沙汰! 大阪の松永で、おま!
ひっさびさやなぁ! 寝惚けた感じの声も元気そうで何よりやわ♪
突然ゴメンな、堪忍やで! 今、ちょいとエエかな? スマンな忙しい処。
え? 昼寝してた? ああ、さよけ。ホンマに寝てたんかい!
そら、安眠を妨げて申し訳ない。
ほんでな、ちょいとお願いしたい事が、あんねんわ。
あんな、自分トコの近所にな、ちょいと洒落て小粋な美容院があるやろ?
え? 病院? 病院と違うわ! 洒落て小粋な病院って何やねん!
び・よ・お・い・ん、や! 美容院! せや、美容院や!
…………って、お店があるやろ?
其処の店長さんって、自分、もしかして面識ないかなぁ、てな?
訳? 直ぐに言うさかい、先に質問に答えてぇな。
はい? マジか? 自分トコの檀家さんかいな!
何て、好都合な! よー出来た展開やなぁ、ホンマに!
え? 何の事かって? 今から言うやん、ちょい待ちぃや。
今から話すんは、独りの青年の過去・現在・未来が懸かってんねんわ!!」
通話相手に、レオ丸は微に入り細に入りと、エンクルマの事情を伝える。
「…………ってな訳やねん。な、聞くも涙語るも涙の物語やろ?
ほんでな、スマンけどその店長さんと、ちょいとお話がしたいって思うたんやけどな、行き成り大阪の坊主が電話したとて、胡散臭いだけやん。
だもんで、ゴメンやけど仲介の労を取ってもらわれへんやろか?
オッケー? 忙しいけど、一肌脱いでくれる?
……昼寝しとったクセに、何処が忙しいねん? って、ウソウソ!
此の御礼は何れ、精神的に胃袋にキュンとするモン贈らせてもらうし。
ゴメンやけど、大至急頼むわ、おおきにスマン、頼むわな、ほな!」
キョトンとした顔のエンクルマに、通話を終えたレオ丸が、ニヒヒと笑いかけた。
「エンクルマ君よ。やっぱり君は実に真っ当な、行き方しとってんなぁ?
ちゃんと生きてる人には、ちゃんと運が廻ってくるんやわさ。
正に“Heaven helps those who help themselves.”、“天は自ら助くる者を助く”やね。
さて、と。
向こうから返信があるまで、もうちょいダラダラしてよか?」
レオ丸は店員に、オレンジジュースとコーヒーを御代わりとばかりに、追加の注文をする。
「ああ、そや。……エンクルマ君」
「え? あ、はい」
「今更聞くのんも変な感じやけど……、本名は何て言うんや?」
「え~、あ~、あん、済んまっせん。六車円ち言います」
「はー、そーか! それで、エンクルマなんか! なるへそな!
ヒネリなしの直球ストレートとは、恐れ入ったわ。了解や!」
何とも間抜けな会話をしているな、と自覚するレオ丸は苦笑いを浮かべた。
ウェイトレスが置いていった、新たなグラスとカップを口にしながら、待つ事暫し。
やがて。
テーブル上に出しっ放しだった携帯電話が、小刻みに震え出した。
「はい、もしもし! ほいほい、仕事が速くて助かるわ! おおきにな!
はいな、ほな、スマン、へいへい、ヨロシコ!
……もしもし、店長さんですか? お忙しい処、誠に申し訳ありません。
私は、大阪で寺の住職をしています、松永と申します。
初めまして、暫しお時間を頂戴致します。
実は、ひょんな事で、人生の迷子を拾いまして。
ええ、そうです。その……六車円、君です。
袖摺り合うも多生の縁、みたいな感じで彼と知り合いまして。
それで、色々と話を伺っている内に、これはちょっと捨て置けんな、と思ってしまいましてね。
ええ、ええ、はい、はい、そうです。
お宅さんが、その方からどのような話をお聞きになられたのかは存じませんが、出来れば彼の話も聞いてもらえたら有難いな、と思いまして。
少なくとも、彼は粗忽者かもしれませんけど、短絡的なアンポンタンやとは違うようですし、決して好んで暴力を振るう人間でもなさそうです。
こう見えても、お宅さんと同じく此方も自営業のサービス業みたいなもんですよってにね、ええ、人を見る眼は、それなりにありまっさかいに♪
まぁ、出会うて直ぐの人間の事情に、アレコレと口出しすんのはド厚かましいなぁとは思いましてんけどね、人一人の来し方行く末に係わり合いを持ってしもうた今となっては、そんな世間体を気にした事言うてても仕方ない、って考えましたんや。
お宅さんに取っては、実に迷惑な話やろうとは思います。
お先に、お詫び申し上げさせて戴きます。
余計な御節介をして、本当に御免なさい。
ですけど。
事情に疎い第三者が、横から口出す事やないってのは重々承知の事ながら、相済まぬ事ですけれども、差し出口を挟ませてもらわせて戴きとう存じます。
改めて、お頼み申し上げます。
彼の、六車君の……言い訳、あるいは聞き苦しい泣き言になるやもしれませんけど、彼の言葉に御耳を御傾け下さいますよう、切にお願い申し上げます。
以上、勝手ながら口添えさせて戴きます」
更に幾つかの遣り取りをした後に、レオ丸は携帯電話の内側を御絞りで軽く拭い清める。
そしてそれを、エンクルマに差し出した。
「店長さんが、自分と、話をしたいって」
二杯目のカップを手に、眼を丸くしていたエンクルマの口は、半開きとなっている。
レオ丸の見た処、どうやら展開の速さに着いていけていないようであった。
全く世話の焼けると苦笑いしながら、レオ丸はエンクルマの手に、携帯電話を強引に握らせ耳に当てさせる。
すると。
肩を落として小さくなっていた、エンクルマの背筋が大きく跳ねた。
正しい姿勢になったエンクルマは、宙を仰ぎながら少しずつ丁寧に、言葉を連ねていく。
まぁ取り敢えず、寸断直前やった人と人の繋がりを、どーにか結び直す事に成功したみたいやな?
レオ丸は、音を立てずに安堵の息を漏らしながら、煙草を一本取り出し咥えて火を点ける。
明後日の方向へと煙を吐き出すや、レオ丸は軽く眼を閉じた。
「“一週間、待っちょっちゃるけん。そん間に、此れまでと此っからの先ば考えて、そん答えば言いに来い”っち言わん……言ってくれんしゃったです」
通話を切り、一つ大きな息を吐いたエンクルマは、折り畳んだ携帯電話を丁重な仕草でレオ丸へと差し戻す。
「ほうか、ほうか。そいつぁ、良かったな!
……良かったけど。
さぁ~~~てと、此れからどないする?
東京に戻るのに余裕を入れて二日必要として、残りが後五日。
何処でどないして、過ごす?
飯代に宿代って、結構かかるで?
今の冬季に野宿なんぞしたら、あっという間に風邪引くで?
さて、其処で、や!
自分にお薦めのプランがある。
三食ついて宿代は、ローコストってプランや。
しかも、精神修練にもなる、バッチグーなのんが、な?
自分には、どーやら精神的なゆとり、所謂“遊び”が足りひんようにオレは思うんやけどね。
五十HR・二十盗塁ってゆう、日本球界唯一の記録を達成してはる、小鶴誠さんみたいな感じのがな。
そんな時は、どうしたらエエか? って、答えは一つや。
ほら、旧国鉄のCMでもあったやろ?
“そうだ、お寺に行こう!”って。
まぁ、そんなキャッチーなコピーはあらへんけど。
ってな訳で、何日間かウチで過ごさへんか?
宿代と飯代の代わりに、肉体奉仕で支払ってもらうさかいに。
って、ゆーてもオレは、そっち系のイヤーンな趣味はないさかいな!
おねーちゃんの生足・美脚以外に、ワシの崇高なる劣情は発動されへんし!
ウチに居る間、箒と塵取りを手にして、境内を綺麗にして欲しいねんわ。
オレも自分も損はないって思うんやけど、どないだ?」
捲くし立てたレオ丸の勢いに押され乗せられてか、エンクルマは言葉を発する事さえ忘れ、つい頷いてしまった。
「おっしゃ! 話は決まった。そしたら善は急げや、早速に動こか?」
席を立ち、会計を済ませようとする、レオ丸。
怒涛の展開について行けず、ぼんやりとした状態で未だ椅子に腰かけ続けている、エンクルマ。
「ボサッとしてたら、置いてくで♪」
レオ丸の一言に、エンクルマは慌てて立ち上がった。
梅田から五分ほど歩いた先の、レオ丸の知り合いの駐車場にエンクルマの愛機であるSR400カスタムを駐輪した後、二人はタクシーで天王寺の端へと移動する。
西へと進めば、十分とかからずに日本橋の電気屋街に到着する。
やはり十分ほど南へと歩けば、阿倍野の商業区画へと至る辺り。
大阪市内に幾つかある寺町の一つ、その外れに、レオ丸が住職を勤めている寺院は建っていた。
歩道に面した石段を数段昇り、山門脇の木戸を潜る二人。
「さて、お立会い! 此処がワシの、寝起きしとる自坊でおます♪
そないにデカくはないけれど、歴史だけはたっぷりとあるよってに!
平安時代の初期からあるしな、ってゆーてもバブルの前に建て替えた鉄筋の本堂と、庫裏母屋やけどな。
此処にはワシしか住んでへんから、気兼ねのぅ過ごしたらエエわ。
両親は、別の寺に住んどるさかいに、……未だに独身やからなワシ。
さぁさぁ、ようこそいらっしゃいませ、ってなもんや!
草深き坂東の片田舎から、京の都の西南、難波の宮の傍の歴史深き所まで、まぁ無事にようお越しやした!」
レオ丸の口上も耳に入らぬ様子で、エンクルマは視界を圧する堂宇を見上げ、ただただ立ち尽くすばかりである。
ほんの僅か色濃くなった午後の陽を撥ねつける、無数の甍。
交通量の多い国道に面しているにも関わらず、樫や公孫樹など幾本もの樹木とささやかな竹林が覆う境内は、ひっそりとしていた。
一枚として同じ色のない、カラフルな黄色や赤に染まった桜の葉が足元に散らばり、エンクルマが歩を進める度に敷かれた砂利と相俟って、硬質な音を立てる。
レオ丸が手招きする玄関先には、椿の古木がこんもりと青葉を繁らせており、冬特有の澄んだ空気に温かみを与えていた。
何処かからか、小鳥の囀りとカラスの鳴き声がする。
エンクルマは、御伽噺のマヨヒガに迷い込んだような、幼少の頃の遊び場にタイムスリップしたような、何とも不思議な気分で玄関の敷居を跨いだ。
その夜の事。
冷蔵庫の中の材料で、レオ丸は手早く野菜炒めとキノコ汁を作り、炊き立ての白御飯と共に食卓に並べる。
「後は、冷凍食品のコロッケくらいしかないけど、勘弁な。
ほな、お粗末さんでスマンが、どうぞ遠慮なくお上がりやす」
テレビのニュースを見ながら、恐縮頻りのエンクルマと夕食を済ませると、レオ丸は食器を手洗いし、お風呂の準備をした。
客間の和室にエンクルマを案内し、押入れから冬用の布団一式と毛布を出し、エアコンの設定を暖房に切り替えて稼動させる、レオ丸。
そして。
「さて、六車君。いや、エンクルマ君。……何や言い難いなぁ。
“エンちゃん”、って呼んでもエエかいな?」
「よかです、……松永さん」
「ああ、オレの事は“レオ丸”でエエよん♪」
「レオ丸……さん」
「さて、お互いの呼び名が改めて確定した処で!
此れから自分に、長ーい目で見れば人生において、大事な大事な事を教えよう。
耳の穴をかっぽじって、よう聞いておくれよな?」
「はぁ」
だだっ広い居間の壁際に置かれたテレビの横、パソコン机を背にして回転椅子に腰かけたレオ丸は、傍で床に正座をしているエンクルマに、咥え煙草で語りかけた。
「先ずは、足を崩しなはれ。もし正座をするんなら、少なくとも二時間は微動だにしたらアカンで?」
慌てて胡坐を掻く、エンクルマ。
「さて、エンクルマことエンちゃんよ。ちょいと聞くけど、<エルダー・テイル>歴はどれくらいや?」
「就職してからですけん……」
「ほな、丸々十ヶ月ってか。ほいで、レベルは?」
「……28です」
「ふぅ~~~ん」
恥かしそうに背中を丸めたエンクルマは、レオ丸の次の一言に背筋を伸ばした。
「にゃるほど! 伸び盛りやな、自分! 実に、結構! 誠にオッケーやわさ♪」
「???」
「さぁさぁ、ほんだら長話をしよか? 明日もお参りはあるけれど、まぁエエやろ。
先ずは軽~~~く、前置きから始めよか。
<エルダー・テイル>って、RPGゲームやんか?
正確にゆーたら、“テーブルトーク・ロール・プレイング・ゲーム”やん?
つまり、“喋って・演じて・楽しむ・遊戯”って事や。
喋るも演じるも、どっちも自己表現やんか?
しかもそれを楽しんで遊ぶ中で、せな面白うないねんわ。
ほな、それをするにはどないしたらエエか?
“慣れ”の一言しか、ねぇーやな。
実は此の一言が曲者でな、経験者にしか判らへん感覚やねん。
だもんで、早速してみよか? 所謂、明日のための其の一、ってヤツや。
処で自分は、ノート使うてんのやろ?」
「です」
「ほな、持っといでぇな。ちょいと一緒にやってみようや♪」
客間に取って返し、ボストンバッグからノートパソコンを取り出したエンクルマは、小走りで居間に戻って来た。
「したらば、ログインしよやおまへんか。自分は今、何処に居るん?」
「アキバに居るとです」
「オッケー了解。したらば、『青春の門』……やのうて、トランスポート・ゲートの前で待っといて頂戴な。直ぐにそっちへ行くさかいに」
都市間移転門からレオ丸のアバターが勢いよく飛び出すと、其処には足軽と土豪の間くらいの武装をしたアバターが一体、直立不動で待ち構えている。
< 名前 / エンクルマ >< 所属ギルド / 無所属 >
< 種族 / 狐尾族 >< 性別 / 男 >
< メイン職 / 武士 >< Lv.28 >
ステータスの確認をするまでもなく、キャラクター設定時とさして変わらぬ一式の武者鎧と、腰に下げた名もなき刀。鍬形だけは矢鱈と立派な筋兜。
一の谷の合戦にでも、参加してそうな格好やな?
モニターから足元に視線を移すと、折り畳みの小机に乗せたノートパソコンに、一本指打法で向かっているエンクルマ。
「ほな、エンちゃん。先ずはフレンド登録な」
レオ丸は、咥えた煙草に火を点けながら、キーボードを右手のみで叩く。
≪初めまして、エンクルマ君。オレは西武蔵坊レオ丸。今後とも何卒ヨロシコ♪≫
≪初めまして、西武蔵坊レオ丸さん。こちらこそ宜しくお願いします。≫
同じ室内に居ながらにして、無言で文字チャット会話を続ける、三十路半ばと二十歳の男が二人。
≪さて、エンクルマ君。いや、こっちでもエンちゃんでエエか≫
≪はい、それで結構です≫
≪オレの方は呼び易いように、適当にしてくれたらエエし≫
≪でしたら、……レオ丸さん≫
≪オッケー! したらば次は、二人ぼっちのパーティを組もか?
はい、登録完了。
これで、オレと自分は、ナイスなバディや♪≫
「ほな、お次は……っと。
エンちゃんのアイテムを、ちょいと強化しに行こか?」
レオ丸は自分の声でエンクルマに直接、そう告げた。
私事ですが、社会人になってから出来た友人が、知り合いの寺の檀家だった、って事がありました。
修行仲間・寺仲間って全国に居ますんで、同じ宗派であれば、今回の話のような事は実際にあったりします。
故に、恥かしい事を致しますと、その恥が日本全国に拡散する事もあり。
まぁそのような事が無いように、身を謹んでひっそり細々と暮らす今日この頃です。