4 ◆ うさ用心 一羽だけでも かじのもと? ◆
経度が近い国同士であり睡眠の時間が近いためか、ゲーム内で活動する日がフェルサとかなり被っている。大概はフェルサが先に活動しており、先に“休眠”するのはアレクであった。
そのため、暫くは2人でウサギやピラネーアを狩る日々だった。
珍しくフェルサがまだ“休眠中”のある日、アレクは一人でウサギを狩っていた。レベルも6となり、習得した魔法の数も結構増えている。それぞれのレベル時に習得した魔法を次に記そう。
レベル1:〈グラビティ・ショット〉、〈スノー・ボール〉、〈ヒール〉
レベル2:〈ファイア・ボール〉、〈エアー・ショット〉
レベル3:〈スパーク・ショット〉、〈アクア・ボール〉
レベル4:〈クラック・ストーン〉、〈ウッド・ショット〉
レベル5:〈テレポート〉、〈リターン〉、〈ヒール・ブリーズ〉
レベル6:〈シャイニング・ボール〉、〈メタル・ショット〉
※〈リターン〉は全員習得可能
この中で〈テレポート〉はアレクにとって有り難い魔法だった。初期の転移距離が15m以内と短く再使用時間が3分程と少し長いが、回避用に使えるため死亡する頻度がぐっと減った。また攻撃魔法であるが、〈グラビティ・ショット〉以外はどれもこれも団栗の背比べで半分程の威力であり、出せる弾の数もまだ2~3弾にしかならなかったものの、〈グラビティ・ショット〉だけはすぐに6弾も出せるようになった。
それに火と雷属性で止めを刺すと落下物はほぼ焦げており、風属性の場合は傷が付いていることがある。そういったわけで、数も威力も操作性も高い〈グラビティ・ショット〉が主力となり、出の早い〈アクア・ボール〉、操作性の高い〈シャイニング・ボール〉が止め役としては重宝している。
他の属性は足止めや削り役としては非常に有用だった。〈スパーク・ショット〉は少し痺れさせたり、〈クラック・ストーン〉や〈スノー・ボール〉や〈エアー・ショット〉は後方へ吹き飛ばしたり、〈メタル・ショット〉や〈ウッド・ショット〉は僅かな時間金属化や木の根で足止めしたり、〈ファイア・ボール〉は燃えることで追加ダメージが入ったりという具合だ。
それぞれの発動時に要する感覚は違い、また思い描く映像が鮮明である程、巧く魔法を発動出来る場合が多い。しかも、反復練習にて使い込む程に成功確率や精確性、発動の早さなどが上昇し、安定するようだった。付帯効果については、アレクが試行錯誤した結論では、鮮明に想像出来るかどうかが鍵だった。
成長には時間が掛かるもののアレクは面白さも感じており、のんびりゲームを謳歌していた。
(ウサギ肉を食べたいんだが、一向に出る気配がない……)
先程から一人で200匹程一角ウサギを薙ぎ倒しているのだが、“ウサギ肉”は1つも獲得していない。手に入った物と言えば次の通りだ。
うさ帽子×4
うさマフラー×5
うさぐるみ×6
うさ尻尾×6
うさ小手×2
うさ靴×3
うさベルト×3
うさ手袋×4
うさ指輪×2
うさピアス×2
うさ腕輪×2
うさネックレス×2
一角ウサギの毛皮×129
本来ならば非常に喜ぶべき物達が勢揃いしている。だが、今、アレクが心底欲している物は違う。
(肉だっ! 肉っ!)
狙いを定め、〈グラビティ・ショット(2弾)〉で一角ウサギ1体を撃破する。
(よおぉしっ! 来いっ、肉っ!)
戦利品は“うさ腕輪”2個だった。
1体が戦利品を2つも同時に落とす事もあるようだ。通常は喜ぶべき事態だが、今のアレクは違う。ひたすら“ウサギ肉”の一点張りだ。
更に倒し続けても一向にウサギ肉が出る気配がないため、アレクは諦めて魚へと路線変更することにした。
棚田温泉まで向かい、アレクはひたすら赤ピラネーアと緑ピラネーアをばっさばっさと倒して行く。しかし、こちらもどうしたことか“魚”を落とす気配がない。
こちらも同時に同じ物を2個落とすことがあるものの、どんなに倒そうとも、“塩”や“硫黄結晶”、“虹貝の指輪”ばかり。“塩”は21個、“硫黄結晶”は57個、“虹貝の指輪”は44個も貯まっている。
アレクの腹部では、さながら腹の虫が大合唱している様相だ。アレクは肩を落とし、ため息を一つつく。
そこへ一本の念話が舞い込む。
<よお、アレクっ! 今どこなんだぜぃ♪>
<おっ! フェルサ、今棚田温泉で魚を集めようと頑張っている所だ>
<おーし、すぐ行く>
10分程ピラネーアを倒し続けているとフェルサがやって来た。まだ“魚”は獲得出来ていない。
「いやっほぉー♪ アレークっ! 収穫はどうだっ!」
「ん? 魚はゼロ匹や。時化ているんですぜ」
「何だよ、ピラネーアいないのか?」
「いや、かなり倒して再出現待ち」
「おやおや? アレクの運もやっと俺に追い付いて来たか?」
フェルサはにんまりと笑い、非常に嬉しがっている。
(残念だ、フェルサ君! 事実は惨いなり)
「今のところ、“塩”32個に“硫黄結晶”65個に“虹貝の指輪”58個」
「――っ!?」
呼吸も忘れて固まるフェルサ。窒息しないのだろうか。
「おーい、フェルサー?」
呼び掛けてみるもまだ反応しない。いや、どうやらワナワナと震えているようだ。
「ぬぐぉーっ!! なんっっっだ、その理不尽さはーっ!!」
未だに彼の元に“うさ装備”や“虹貝の指輪”が舞い落ちて来たことは一度もない。“塩”と“硫黄結晶”に関しては数十個だろう。
「馬鹿ヤローっ!!」
棚田温泉の広がる快晴の雲一つない絶景の中、澄んだ青空に向かって叫ぶ牛人の青年がいた。
アレクはその青春真っ盛りな背を眺めて頷くのだった。
「このヤロー、分け前を寄越しやがれっ!」
振り返り詰め寄って来たフェルサが吼える。
「じゃあ、魚の収穫頼むでい♪ 魚♪」
「任せろーっ! 乱獲したるでーっ!」
アレクは物々交換で行こうと提示し、フェルサは当然それを飲む。いつもよりも多く気合いが迸っているフェルサだった。
フェルサの活躍により、アレクは食事にありつけた上に貯蔵分も獲得出来た。
宣言通りフェルサは乱獲をして、“魚”を150個、“一角ウサギの肉”を210個も収穫した。これだけあれば暫く空腹に困ることもないだろう。現実と違い生鮮食品の物持ちが非常に良く、今のところ40日位では腐らない。
「いやっほー♪ “虹貝の指輪”49個、“うさ指輪”2個、“うさ腕輪”1個って、装飾品もこれだけあれば、ひとまず底上げが出来ていいよな。特に指輪は10個も装備出来るからなー。見た目はジャラジャラになるが、背に腹は変えられんぜっ!」
“虹貝の指輪”は質:0・格:0の物でHP・MP・SPがそれぞれ50上昇するので、最大HPがアレク:1100、フェルサ:2260の現状では非常に有用なのだ。
「町に戻って、ころろさんに鑑定して貰おうか」
「そうだなっ♪ しかーしっ、アレク! ころにゃんだっ!」
フェルサが凄い剣幕で訂正を要求してくる。
「ん? おばころにゃん?」
アレクは惚けつつ事実を織り交ぜてみた。
「ちっげーよっっ! 『ころにゃん♪』だっ!」
「あいよ、コロにゃんコロにゃんコロコロにゃん」
アレクはテキトーにいなすことにした。
やって来たのは猫柄日本家屋! 何度眺めても派手な外装の店だ。
ガラガラっ――
「こんにちはーっ!」
「ころにゃーん♪ 来たぜー!」
にゃー
にゃーん
にゃうー
……
大小柄模様様々な猫が出迎えをしてくれ、その内3匹の子猫が一目散にアレクに擦り寄る。
「おーし、おいでおいで」
アレクは頭上に乗っけたり懐に入れたり、抱えて撫でたりと子猫を可愛がる。
「にゃーん♪ アレにゃーん♪ よっく、来った、にゃほーんっっ♪」
おばうさ猫こところろがアレクに飛び掛かるも、アレクは子猫を可愛がったままひらりとかわして、フェルサをころろに押し付ける。
「うさころにゃーん♪ 今日もくぁわいいぜー♪」
「にゃーん♪ ごろにゃーん♪」
じゃれ合う牛男と浴衣猫女。アレクはその様子を生暖かく眺める。
(幸せそうで何よりだよ、フェルサ君。そして、満更でもなさそうな“おばうさ猫ろろ”)
「ころろさん、楽しそうな所悪いですが、戦利品の鑑定をお願いします」
「にゃーん、アレにゃーん、ころにゃんにゃん」
「うさころにゃん、頼みまっせ」
「にゃんにゃん♪ わかったにゃほーん♪」
ころろが再び抱き着こうとするも、アレクはさっとフェルサで防ぐ。
「ほら、フェルサも鑑定して貰えよ」
「にゃにゃーん、アレにゃん手強いにゃん……」
渋々ころろは2人が持ち込んで来た品々を鑑定し始めた。
さて、2人が“鑑定”と“目利き”の技能、それに“鑑定士”の称号を持つころろに鑑定を依頼したのは値打ちや質・格の確認のためであるのだが、それには非常に重要な理由があった。それは、きちんと鑑定された物でないと質・格が判明しないだけでなく、性能もその通り発揮してくれないのだ。つまり、鑑定するまでは全て質:0・格:0の性能表示と同じ値しか示さない。しかし、実際の質や格、それに性能は手に入れた当初の表示通りとは限らないのである。何とも厄介なことだった。
「にゃふっ! にゃふふんっ! またうさシリーズが沢山にゃん……アレにゃんずるいにゃん。譲ってにゃん」
「これからも鑑定をお願い出来るなら、幾つか譲りますよ」
「にゃんにゃん♪ 決まりにゃん♪ 任せてにゃんっ♪」
ころろは気分良く、そして張り切って山盛りの品々を鑑定して行く。
鑑定結果を確認すると、今回の戦利品にはかなり良い物が含まれていた。+の値の高い、目ぼしい良品は次の通りだ。
・一角ウサギの毛皮:(質:+3~8)×それぞれ多数
・硫黄結晶:(質:+1~5)×それぞれ多数
・塩:(質:+1~6)×それぞれ多数
・虹貝の指輪:(質:+7・格:+6)×1、(質:+2・格:+8)×1
・うさ指輪:(質:+6・格:+3)×1
・うさネックレス:(質:+7・格:+1)×1
・うさぐるみ:(質:+10格:+15)×2
質・格共に最高の物が含まれているのだが、それはアレクにとっては不要な、そして装備するのは断固拒否したい“うさぐるみ”だった。
アレクは目を瞑り、ゆっくり長く鼻から息を吐く。
(使える指輪やネックレスも優良品だから良しとしとこう)
それから、アレクは無言で最高品の“うさぐるみ”を1つころろに手渡した。
「にゃっふんっ! げふっ!」
ころろが驚愕の余り噎せる。
「アレにゃん、これしゅんごい高額にゃふっ! にゃんにゃにゃーん!」
襲来したころろを、アレクは素早くフェルサで防ぐ。
「ごっつい男には、そんな物複数も要らないですしね。実用性の高い装飾品以外は、収集用に1式あれば十分です」
「にゃーん、一緒にうさうさになるにゃん♪」
「絶対に遠慮します」
「なっ! それなら俺が貰ってやるぞっ! 一緒にうさうさになるにゃーん♪」
「にゃんにゃん♪」
アレクの眉間に深い皺が刻まれる。
(……ここは蜂の巣にする程の突っ込み所……うん、すっきり流そう)
「必要ない分の“一角ウサギの毛皮”や“硫黄結晶”、“虹貝の指輪”は銀行売りにして来ますんで、不要なうさ装備はにゃんこ商会の方で捌いて貰えますか?」
「にゃーん、それならころにゃんが懐にくすねて収集しちゃうにゃん♪」
一瞬時が止まる。それからアレクは眉を顰めて黙り込む。
ころろ相手では埒が明かないので、アレクはにゃん吾郎に相談を持ち掛けることに決めた。
<にゃん吾郎さん、今は店の付近にいますか?>
<いいえ、今にゃんこ商会の集まりで都市【トラッツェ】にいますよ>
<今平気ですか?>
<ええ、平気ですよ。退屈な話を延々と聞かされ続けていますから>
アレクは首を傾げてから、そのまま会話を続ける。
<余剰分のうさ装備をお願いしたいんです。うさころろがくすねるとか冗談言っているので>
<……あの方は本気で言ってそうですね、うさ装備に限っては>
<それで銀行売りにする考えもよぎったんですが、銀行売りは気が進まないんですよね。どちらが良さそうなものなんです? えーと、色々な意味で>
<ははは、やはり鋭いですねえ。稀少品に関しては断然銀行を介さない方が良いですよ。ちょろまかされたり、買い叩かれたり、銀行から流通しなくなりますからね。質や格が0以下の物に関しては銀行売りでも構いませんが、+1以上の物は正規の商業組合を通した方が良いですね。買い取り価格も上がりますし>
<じゃあ、手数料としてうさ腕輪か指輪かピアスかネックレスを差し上げますんで――これならにゃん吾郎さんでも使えますよね?――余剰分の全身うさうさをお願い出来ますか?>
<おや、そんな高額な物を手数料として下さって構わないのですか?装飾品類は確か大分前に腕輪が1つしか出現していないそうなので、1つで千万から億単位になると思いますよ>
<……これに、そこまでの価値があるんですか? 確かに割合でステータスが上昇するので装飾品ならば魅力的な性能だとは思いますが、もっと凄い物があるでしょう?>
<割合で上昇する装備品類は、高レベルになるほど性能としても優れたものになる場合が多いので人気ですよ。勿論上昇する項目に依りけりですが。それに、うさシリーズは女性に大人気でして……各国の王女や姫辺りは喉から手が出るほど欲しがるでしょうね。その装飾品類ならば、尚のこと>
アレクは眉間に皺を寄せて目を瞑る。
ゲーム内にも王や王女、姫などが存在することに驚きを隠せなかった。更に、その人々がうさ装備でうさうさコスプレに御執心な絵を思い描き、残念な気持ちで溢れ返る。
<兎に角、にゃん吾郎さんが使えそうな物を差し上げますんで、どうにか捌くのをお願いします。そろそろ合掌造りの家がうさうさ装備でてんこ盛りになりそうなんです。ホント、あんなにいらない>
<ははは、贅沢な悩みですね>
<運の良い代わりにとっても死にやすいですよ>
<おや、そうなんですか?>
<レベル6でも、ウサギなら4撃、ピラネーアならば3撃、鹿なら1撃でお陀仏です>
<とっても軟らかいですね。稀少品という美味しさがないと挫ける軟らかさですよ、それは>
<ははは……何だか嬉しくない事実を聞いてしまったが、ひとまず運の良さの対価として納得しておきます>
<アレクさんのおかげで退屈な話もやり過ごせましたよ。30分程で其方に戻りますから、其れ迄ころろさんを押さえ込んでおいて下さい。絶対に目を離さないで下さいよ>
<わかりました>
にゃん吾郎との会話中、うさフェルサとうさころろはずっと2人で盛り上がっていた。様々な仕草をやってみたり、モデル気分ではしゃいでいたりと本当に楽しんでいる2人だった。ひとまず言えることは、うさ装備一式を着たごっつい牛男は不似合い故に気持ち悪いということだ。
ふとアレクに懸念が生じる。まさか、このうさ装備は男にも人気がありはしないだろうなと。
そこで、アレクはこれまでに見掛けた種族の男性にうさ装備を着用した姿を想像してみる。
(魚人……絶対駄目っ!
人狼……これもないっ!
虫人……いかんでっ!
花人……人に依ってはいけ、俺の中では無しだっ!
鬼人……駄目に決まっとるがな!
鳥人……どうにかなるかも。
牛人――目の前に駄目なのがおるわっ!
猫人……にゃん吾郎さん……いけるかもしれないのか)
そして、にゃん吾郎が万屋へ戻って来た際にアレクはそれとなく尋ねてみると、猫人、鳥人、虎人の男でも欲しがる者はいるそうだった。少し前にねこ商会の集いにてうさ装備の話を少ししたところ、全員が食い付いたらしい。そして、男で何名かは『是非欲しい』と言っていたらしい。これも驚いたが、以前2式目をころろにあげた際、それをにゃん吾郎が着てみたそうだ。太っちょうさ三毛猫になり、ころろに大笑いされたらしいが、靴や手袋、ベルト、マフラーは似合うそうだ。
アレクは一旦合掌造りの家に戻り、収集用の1式分以外のうさ装備を全て持ち出してくると、丸ごとにゃん吾郎に預けた。相当な量ににゃん吾郎は目をまん丸にしていた。手数料としては、今後のこともあるので指輪とネックレスを渡した。
「にゃんこ商会でうまく捌いてみせますよ。しかしながら、これだけあると……商会内の者が欲しがりそうですね。ああ、当然ながら御代は取りますよ」
「よおしっ、アレにゃんっ! もっとうさうさを集めるぞにゃん!」
うさフェルサが何かを言っているのだが、アレクはそれとなく流した。
「ではにゃん吾郎さん、宜しくお願いします」
子猫達に別れを告げ、うさフェルサを残してアレクは一旦家に戻った。肉と魚を腹に収めるために。
さて、それらのうさ装備が巻き起こした“うさうさ騒動”は、また別のお話しであった。