それはある朝の
女が歌うと白金の髪が揺れる。目で追うと、次第に空に溶けて、やがて一筋のきらめきとなる。
世界の始まり
人がまだ 楽園へと続く 小道を知っていた頃から
その花は 咲き誇る
そして 追われた我らを追って
おお 汝は 新たなる世界に生まれた
ああ しかし 汝は たおやめの如く
麗しく しかし その美を 守るすべを知らず
風に吹かれて歌は心の空白に浸透し、徐々に痛みを奪っていく。
刈られ 手折られ 貪られ
そうして 汝は 剣を持った
かぐわしき 花 けれど 鋭い棘を持つ
その花は 飾りとなり その刃は 守りとなり
薄れゆく景色の中、ふと女が今どのような表情を浮かべているのか知りたくなった。重い首を上げれば女はこちらを見ていた。いつも微かな微笑みの浮かぶ唇も、少し閉じたような瞼も無い。常と違う顔は作り物めき、聖堂の聖人の彫像のように人間的な感情から最も遠く感じられる。唯そこにあるのは眼差しだった。何も言わず、ただひたすら一切を目に焼き付けようとでもいうように見つめる。
ごまかしの微笑みも、曖昧な言葉も無い。鏡のように己を映し出す瞳が全てだった。
そして 眠りを・・・。
歌が空気をかき乱す最中、瞳の中の自分が目を閉じた。