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芸子たちがお座敷に出ている間、花はそのひっそりとした夜の街、そこは三年坂と言って、ひとっこ一人いないのだ。


「傘というのは、携えるものではないのよ?」

花の家庭教師の一ノ瀬綾は言っていた。


花は、「それでは、濡れるのではない?」と聞いた。


すると、綾は、さもおかしそうに笑った。

そして、「濡れてなんぼでしょう?」と言う。


一歩一歩は、楽しい。

階段は、下りである。


「花ちゃん!」と、突然呼ばれ花は振り返った。

見ると、晃が少し離れたところから呼んでいる。

「なあに?」と、花は大きな声を出した。

「三軒茶屋の旦那がすぐ戻るようにだって!」

「わかった」

花は、京の街にはふさわしくないであろう洋服を着ていた。

そのビロードのワンピースは、最近花の両親が送ってくれた。

花は、三年坂を今度は逆に登っていく。

十二歳の花には、この神輿の夜がわかっていた。

「腹に据え還る」

言葉にならない言葉を放つ。

けしてついて行かぬように・・・。

「姉さまたちは大丈夫だろうか?」

花は言った。

縁もたけなわとはよく言ったものだ。

夏は、汗とともに奪われるものだと、大門ハルの言葉を思い出す。

上りは京都御所、下りは河原町。

「明日は晴れだって」

晃は、何の脈略もなく言う。



「私も、隠密家業でござります」

花と同じ十二歳の源氏名「ほたる」は言った。

花と晃は、同い年にてとうにデビューを果たしていた蛍を、不思議な思いで見ていた。

「お近づきのしるしに」

蛍が差し出したのは、干し柿であった。

これは渋柿を干し、食べれるようにしたものであり、お高いものであった。

蛍の隣に座っている三軒茶屋の旦那は、それを惜しそうに見ている。

年長の芸子が出家したばかりであった。

この微妙な時に現れた蛍と言う女は、おそらく髪結いに行ったばかりであろう見事なアップの髪をしていた。

「皆様には、ご機嫌うるわしゅう」

蛍の言葉は、自信に満ちていたが、どこかちぐはぐであり、花は笑いをこらえた。

見ると、晃も同じく笑いをかみ殺したような顔をしている。

「近頃は東京の方が物騒になりましてな」

三軒茶屋の旦那はそう言った。

「御冗談を」

女将の声は柔らかだったが、何かを含んでいた。

祭りはこれからだったが、岐阜県の高山では、その祭りで人が死んだと言う。

「そうだ!この退屈な秋を芸術の秋としましょう」

女将はひとり言とも取れるような言葉を放ったのだが、その時ちょうど蜩が鳴いたため、皆が失笑した。

花と晃と蛍は目を見合わせる。

これは友情と言わずに何と言おうか?







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