13.ロブ再登場
第1部の終わりです。
春が過ぎた頃には、人間達は船の周りの森を開拓して生活範囲を広げていた。
パラサイトに憑かれた獣が何度かやってきたが、柵を乗り越えて襲ってこられず、人にさして危害を与えることはなかった。
その初夏前の時だった、ロブがまた地球人の前に表れた。
ヨーコは広場に全員を集めロブの説明を聞くことにする。
「皆さんとこうして無事お会いできたことを嬉しく思います。皆さんがここに来て、1年になります。約束した通りに皆さんに、この星に来てもらった理由をお話します」そう語り始めた。
「前回、話さなかったヴルム人の説明からします。祖先の移住から8000年後には、この新世界でのヴルム文明はひとつの絶頂期に達しました。科学は発達し、光速を超え恒星間旅行もやれるようになった。ここの人口は1200億を超えても、資源にも環境にも問題はありませんでした。ロボット脳により管理されたここの世界はほぼすべての者に豊かな生活と恵まれた環境をあたえてくれました。
皆さんの住む、この世界もこのロボット脳により地球同様な気候になるよう完全に管理されています。ヴルム人の住む世界はもっと住みやすい、理想的な環境になっています。」
「完全なる世界か」誰かが思わず口に出してしまう。
「この段階で、ヴルム人は二つに分かれました。
勇躍して宇宙に飛び出した者、外ヴルム人と、そのままこの世界に留まる者、内ヴルム人です。
外ヴルム人は光速を超え、永遠の生命を得たいと思っていました。宇宙の広大さとビッグバンからの年月に比べ、ヴルム人の移動できる距離は余りに小さく寿命は短すぎた。だから宇宙進出したブルム人は肉体を持つことの不自由さ、限界に気づき、肉体を捨てました」
「肉体を捨てたらどのように活動するというのだ。肉体なしで考えることができるのか」ビルが当然の疑問を口にした。
「肉体を失っても、思考はできます。電子脳がその典型です。外ヴルム人は本来の肉体を捨て、地球の皆さんのイメージできる姿として、電子回路に精神を収めたような存在になったのです。それにより、光速に耐えられる体と永遠の命を得ることができました。」
「それじゃあ、ロボットと同じじゃないか」
「いえ、例えとして電子回路と言いましたが、その回路構造は脳本来のものに非常に近いものです。ただ外ヴルム人はロボット脳にはない精神思考があります。それがロボット脳と大きな違いです」ビルは説明に納得できなかったが、それ以上の質問を止めた。
「外ヴルム人は肉体を捨てた代わりに、物理的な制約から解放された。時に単独で宇宙に飛び出し、時には仲間と合体して、宇宙の謎に挑んだのです。
一方、内ヴルム人は肉体の制約から逃れられなかった。生命科学が発展し寿命を大幅に延ばすことはできたのですが、限界があります。宇宙に出てもこのヴルムの球体の外側に出るくらいでした。しだいに宇宙にも関心がなくなり、この世界に閉じこもってしまったのです。
ただこの世界は電子脳により、全てが管理されており、内ヴルム人にやることは残ってなかった。彼らは無気力な生活を送るようになって、快楽を享受するためだけに生きた。全てはロボットがやってくれ、安逸に暮らしていけた。あらゆる活動に飽きて、子孫を残すという本能まで失ったのです。」
ここにきて地球人にも内ヴルム人の姿が分かってきた。
「人間、怠惰になると衰退するのだな」
「さらに、内ヴルム人の衰退を決定づけた事件が起こりました。古来よりヴルム人には他人の脳波を感じとる能力があり、脳科学の発達もあって、意思伝達の能力を高めて、脳波だけで意思疎通ができるようになった。さらに、個人にもよりますが、他人の思考に干渉できる、暗示能力を持つことも出来るようになったのです。そしてついには、内ヴルム人の中でこの能力が恐ろしく発達した者が現れたのです。彼は他人の心を操り、社会全体に影響を与え、瞬く間にこのヴルムの世界を彼の支配下に置いたのです。
彼の時代は220年と比較的短期に終わりましたが、人口が半分になってしまうほどの暗黒の時代でした。
肉体を持たない外ヴルム人は暗示が効かず、外ヴルム人はこの超能力者を排除しようとした。暗黒時代は超能力者と外ヴルム人の闘争史でした。」
「え、そんなことがあるの」誰ともなく口に出た。
「暗黒時代が過ぎても、超能力者の恐怖から、内ヴルム人たちは他人との接触を極力、避けるようになりました。閉ざされた世界、地球よりも広い世界にただ一人で暮らすようになった。もし他人が自分の世界に侵入しようものなら自動防御システムで攻撃し、排除します。他人との交わりはなくなり、結婚をせず、当然、子孫を残すこともなく、内ヴルム人は数を減らし続けた。内ヴルム人は2千年以上の寿命は持ちますが、今では1億もいません。
地球と同じ規模の世界が3000万もありますが、中には全くヴルム人の住んでいない世界がいくつもあるのです。ヴルム人のいなくなった世界でも、ロボット脳により管理維持されており、世界が破滅、荒廃することはありませんが、新たな文明は二度と生まれないでしょう」ロブの話すヴルム人の姿は地球人にとってショックだった。
「外ヴルム人はこのことを予測していて、衰退していく母星の中で、小さな実験を試みることにした。
当時地球は生命に満ちあふれた銀河でも珍しい星で、文明が花開こうとしていた。この若い星の種を母星に移植すればいずれはこの地に文明が育ち、このヴルムにまた文明が興るだろうと考えたのです。
その計画は予想した通りでした。全くの裸の地であったこの世界に植物は果敢にのぞみ、生活の場所を切り開き、根を張った。その後を追って動物達も活動範囲を広げて行き、この世界のいたるところで繁殖している。ここの世界は他のヴルムと違い生命の活気に満ちた世界になりました。いずれは高度に発達した世界になるでしょう。主人の目的は半分は達せられ、あとは地球人が文明を築くのを待つだけです」
「それなら、なんで初めから人類を連れてこなかった。猿が進化して人間並みの文化を作るまでには大変な時間が必要になるだろ?」ビルがまたも疑問を出す。
「人類も小グループですが十数団、連れて来たのです。その中には文明社会を築く集団も生まれました。しかし強敵が現れたのです。そのために地球人が打ちたてた全ての文明は滅んでしまい、皆さんの地球のように高度文明を築くことはできなかったのです。もっと多くの地球人を連れてくれば滅びることはなく、高い文明を築けたかもしれませんが、それでは残された地球の歴史に大きな影響を与えかねなかった。主人達は地球の歴史に影響を与える考えはなく、それ以上多くの地球人を連れてこなかった。」
「その強敵とはパラサイトなのね。あのパラサイトの正体はなんなの?」ヨーコが質問をした。
「ええ、その通りです、ミセスジョンソン。パラサイトは、暗示能力者の子孫です。暗黒時代をどのようにして生き残ったのか、またどうしてここの世界に侵入できたのか不明です。ですが、彼が超能力者の子孫である証拠は見つかりました。彼は別の世界で、能力に目覚め、その能力を発揮しようとした。しかし、内ヴルム人は他人との接触を完全に拒絶したので力を使うことができなかった。そこで彼はここの世界に目を付けたのです。700年ほど前にここの世界に侵入し、文明を滅ぼし、地球人を殺し、この世界の覇者として君臨したのです」
「あんな化け物を侵入させて何もしなかったか?」マルコスの当然の質問だ。
「主人は地球人にこの世界をどのような文明を開くか任せることにした。上手く文明が花開くか、途絶えるか、地球人次第と考えたのです。ですから、長期間ここの世界は放置されていた。残念ながらその期間に、能力者が侵入して全ての文明を滅ぼした。この世界に能力者が侵入していると気づいたのは地球人の文明が滅ぼされた後でした。」
「お前の主人は能力者をそのままにしておいたのか、何故だ?」ヘンリーが怒りを込めて質問。
「私の主人も万能ではありません。外から生物を持ち込むのは簡単なのですが、一度作ってしまった世界を変更するのは難しいのです。この世界に侵入した能力者を見つけ出し、排除するのは困難です。能力者だけ排除は難しく、一緒にここの世界に芽生え育っていた生物も滅ぼしかねなかった。主人たちの力がありすぎて、ここの世界を殲滅しかねないのです。
主人は地球人が進歩して、能力者に負けない人たちが現れるのを待つことにしたのです。文明が進めば地球人も能力者に対抗できると考えた。
地球文明は発展し、別天体に進出するようになった。丁度別天体に向われる皆さんを見つけ、この世界に来てもらいました。皆さんは能力者を見事に倒してくれました。」
「おい、それは都合の良い、考えだ。俺たちはここに来たくて、来たんじゃない。お前に連れ去られたんだ。」イワンは少し切れかかっている。
「それは失礼しました。この世界は皆さんのおかげで救われました。」
「感謝するのもいいが、パラサイトのことを説明してくれ。能力者というのは、パラサイトなのだろう?ヴルム人はあんな形をしているのか?」ヘンリーは前から思っていた疑問を口にする。
「暗黒時代の暗示能力者はヴルム人の肉体のままでした。皆さんの言うパラサイトの姿ではありません。でも彼は此処に来て自らの体を改造し多様なのです。そして動物に寄生することに快感を覚えたみたいです。パラサイトがどれだけの能力があるのか分かってません。私も皆さんの活動を通して初めて彼の能力を知りました」
「じゃあ、俺たちに武器を与えてくれれば簡単だったじゃないか」マルコスはもう顔が真っ赤だ。
「主人の考えは皆さんの力だけで倒してもらう考えです。私が力を貸すことは許されません」この答えに不満の声が一斉に上がったが、ロブは平然としている。
「蛸をはじめ様々な動物に寄生したがどうして人間にはとりつかないのか、教えてくれる」キャサリンが別の質問をした。
「今言ったように彼の能力には不明なことが多いです。管理者のデータでは、ここに侵入したヴルム人は彼一人しかいません。あれだけたくさんの動物に寄生できたのはクローン技術を使って、自己複製をしていることになります。能力者はここで自らの体を改造し脳だけの体となり、複製した脳を多く作りだしてパラサイトになったと思われます。クローンの複製脳として多くの動物に寄生し、意識を共有して動物の目や耳からこの世界を感じ取っていると考えられます。おそらく哺乳類や鳥、蛸まで寄生して支配できるのでしょう。人間にだけ寄生できないとは思えません。彼が寄生できないのはパラサイトには小型すぎる小動物でしかないでしょう」
「あの蛸は何なの?あんな怪物は地球には存在してなかった。だけどどうしてここに出現したの?」
「彼は自らの体まで改造してパラサイトになってます。地球産の動物を改造するのにためらいはないでしょう。おそらくこの世界の最強の生物を作り出すためにあの蛸を作ったのではないでしょうか」
「そんなこと、ヴルムの技術で作れるの?」キャサリンが確認する。
「内ヴルム人の生命工学は進んでます。どうして蛸を選んだのか分かりませんが、いろいろな生物を怪物にすることは可能です」
「私たちだけをどうして連れてきたの?あなたの主人は永遠の命を持つなら、もっと未来の進んだ地球人連れてくる方が理屈に合う。あるいはもっと大勢の地球人を連れてくればパラサイトに対し、圧倒できたし、危険は減らせた。なんで現代の私たちを選んだの?」ヨーコにはそれが納得いかなかった。
「主人達は地球人が独自でどのような文明を築くことに興味があり、自分たちの存在を地球人に知られることで、影響を与えるのをよしとしません。なるべくヴルム人の存在を知られないまま地球人を見守る考えです。しかし地球の文明が進んで宇宙観測が進歩してくると、一部の科学者によって超光速軌道の存在を気づかれる危険がでてきました。
またもっと多くの地球人を連れて来なかったのは、皆さんの行方が分からなくなっただけで、地球では監視体制が強まりました。多くの地球人を連れてくれば、社会問題となり私の存在も気づかれてしまいます」
「しかし、我々だけで文明など生まれはしないぞ」ビルが問いただす。
「皆さんにできなくても、皆さんの子孫が繁栄し文明が発展すれば出来るはずです。皆さんだけで1年間生き残れたのですから、いずれ皆さんは子孫を多く残し、その子孫なら高度な文明を作れるはずです」
「俺は地球に家族を残してきたんだ。どうしてくれるんだ?」
「私は主人の命令に従うだけです」これを聞いてイワンの怒りが爆発した。いきなりロブに殴りかかり、ロブの顔、胸に何度もパンチを浴びせた。
それでもロブは顔色一つ変えず黙って立ち続け、何の抵抗もしなかった。イワンのパンチを受けているだけだ。
周りの者もイワンを抑えようとしない。
しばらくして気がすんだのか、ようやくイワンも拳を下ろした。
「今の私に謝罪できることは何もありません。イワノフさんに殴られるのが唯一の謝罪です。このくらいで皆さんの怒りが静まらないと思いますが、許してください。また皆さんとお会いできればと思います」こういうとロブは静かに消えて行った。
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船を見降ろせる丘にヨーコは来ていた。最近少し足腰が弱くなったのを自覚して彼女は丘に登り足を鍛えるのを日課としていた。途中の野原では10人近い子供達が遊びそれを見守る老犬がいた。
「ヨーコ。お花、あげるね」一人の少女が近寄ってきて、差し出された手にはひなげしの一輪だ。
「まあ、きれいね、ありがとう」少女はうれしげに微笑むとまた次の花を摘みに行く。
ヨーコは丘の上の墓に手を合わせいつものようにつぶやいた。
「船長、あなたの船は今も立派に皆を守っているわ。まだパラサイトの襲撃は続いているけど誰も犠牲になってない。地球人は力を合わせ、団結してここまで来れた。あなたが守りたかったものを引き継いできたのだわ。あなたは私たちの誇りよ。
さっきの少女、あれが、ジョーとキャサリンの2番目の娘よ。もうあんなに育ってくれた。こんな原生の地でも地球人は生き伸びて子孫を残していけることを証明できたのよ。これからも苦難の道は続くでしょう。でもきっと私たちは生き残ってみせるわ。
それから今日で私はリーダーを辞めるわ。これからもここでみんなを見守っていてね」
ヨーコに皺と白髪が目立っていたが、誇らしげに目が輝いていた。
長くなりましたが、ようやく話に区切りが付けられました。
まだ怪物の発生の謎、ヴルム人との関わりなど話したい事がありますが、ひとまず区切りと
します。すぐに第2部を書きたいところですが、構想が出来ておらす、筆が進みません。
替わりに「岩山から落ちて」という話を投稿します。
是非お楽しみください。




