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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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third kiss①

 魔剣士は戦闘力は高いものの、逃げる者を追い駆けて捕まえるような追跡能力には長けていない。

 つまり、今回の怪盗捕縛任務に関し、魔剣士は戦力外だ。

 リュートは、〝魔剣士〟。そこまで考えて魔術の才能がないことを公言しているのだとしたら、かなりの策士だとしか言いようがない。

 リュートがどんなに優秀な魔剣士だろうが、怪盗捕縛作戦に引っ張り出されることはない。

 だが、それでは困るのだ。一介の魔術士でしかないラヴィアンが早急にリュートと接触する方法を考えた場合、協力依頼という建前で近づく以外の手段が思いつかなかった。

 有能な魔剣士は、遠方からその魔剣特性の攻撃術を放つことができる。リュートはもちろん、それができる有能な魔剣士だ。

 自分でもかなり苦しい理由付けだとは思うものの、ラヴィアンは団長に、一か八か、リュートへの協力依頼をできないものかと相談を持ちかけたのだった。

 その結果。

「団長の遣いで参りました。お忙しいところを申し訳ありませんが、リュート様をお借りできますでしょうか」

 王太子専用の執務室で、ラヴィアンは深々と頭を下げて王太子の顔を窺った。

 時刻はもはや、就業時間終了間際の夕暮れ時。事前連絡もなく謁見を願い出たラヴィアンを、王太子は嫌な顔一つせず迎え入れてくれていた。

「リュートを?」

「はい」

 護衛を兼ねた側近とはいえ、常に傍に控えているわけではない。

 運良くたまたま居合わせていたリュートへ、王太子が窺うような視線を送れば、リュートは整った綺麗な顔に柔らかな笑みを浮かべた。

「僕でしたらかまいませんが」

(!)

 なにか理由をつけて断られることを想定し、応酬問答を考えていたラヴィアンは、リュートがあっさりと承諾したことに内心目を丸くする。

 いったいなにを考えているのか、リュートの言動はラヴィアンの想像の斜め上をいっている。

「わかった」

 王太子はリュートがいいならばかまわないと頷いて、このまま離席することへの許可を出してくれる。

「ありがとうございます。すぐにお戻しいたします」

「いや。今日はもうとくに用事もないから、このまま帰ってもらってかまわないよ」

 深々と頭を下げて最上級の謝礼を示したラヴィアンに、王太子はくすりとおかしそうな笑みを零し、リュートへ顔を向けると優しく微笑んだ。

「かしこまりました」

 本日の業務終了を告げた王太子へ敬礼し、リュートはラヴィアンとともに執務室をあとにする。

 赤絨毯の敷かれた廊下を、少し後ろからついてくるリュートの気配を感じながら歩いていると、ラヴィアンは自分が緊張に襲われていることに気づいて密かな深呼吸を繰り返す。

 ドキドキと脈打つ心臓の音がうるさくてたまらない。

 今、ラヴィアンのすぐ後ろを歩いている青年は、王族貴族たちが躍起になって捕獲しようとしている怪盗の仮の姿に他ならない。

 場合によっては、口封じのために命を取られかねない状況だ。気を張るなという方が無理というものだろう。

「……」

「……」

 階段を下り、外へ伸びる廊下を歩いている間中、ラヴィアンとリュートはどちらも口を開くことのないまま、ただ沈黙が落ちる。

 そうして城の裏手の外廊下に差し掛かった時、先に沈黙を破ったのはリュートのほうだった。

「どちらへ?」

 怪訝そうな視線を送ってくる、リュートのその問いかけも無理はない。

 人気(ひとけ)がないこんな場所、当然その分、なにもない。

「とりあえずは人の耳がないところでないとダメでしょう?」

「随分と仰々しいお話なのですね」

 ラヴィアンだけが知る目的地に向かいながら後方へ軽く振り向けば、リュートがおおげさなくらい目を丸くして、ラヴィアンの眉はぴくりと引き上がる。

「誰のせいで……っ」

 とぼけているのか、天然なのか。

 自分の立場を本当にわかっているのかと憤慨するラヴィアンにも、リュートは落ち着き払ったまま付いてくる。

 なにも応える様子がないことからも、ラヴィアンの訴えは流すことにしたらしい。

「食物庫ですか?」

 城の裏手の奥まった場所にある扉の前で立ち止まったラヴィアンに、リュートが目をぱちぱちと瞬かせながら不思議そうに声をかけてくる。

「他にいい場所が思いつかなかったもので」

 二人きりで話ができる部屋を手配する時間もなく、ラヴィアンが思いついたのは、普段あまり人が寄りつくことのない、食物の在庫が保管されたこんな場所くらいだった。

 鍵を開けたラヴィアンに続いて、少しだけひんやりとした食物庫に足を踏み入れたリュートが、軽く室内を見回している様子が伝わってくる。

「密会をするには色気のない場所ですね」

「な……っ?」

 おかしそうに笑われて、ラヴィアンの顔には一瞬にして朱色が差した。

 王太子の側近としていくら落ち着いた雰囲気を纏っていても、年下は年下だからだろうか。こんな時だけ無邪気な空気を醸し出すそのギャップに困惑する。

 さらには。

「ちょ……っ!?」

「こういうことをされたかったわけではなく?」

 ふいに腕を取られたかと思えば、扉横の壁に押し付けられ、驚愕と動揺の息を呑む。

「そんなはず……っ」

 振りほどこうにも、男女の腕力差に加え、相手は普段から身体を鍛えている剣士。リュートの腕をぴくりとも動かすことはできず、ラヴィアンは唇を噛み締めるとすぐ傍にある顔を睨み上げる。

「なにを考えて……っ」

また(・・)、奪われにきたのかと」

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