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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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32/41

過去と現在の錯綜①

 リュートとともに前回と同じホテルの部屋に行くと、そこには先客――ベッドの上で丸くなって眠っているシャロルがいた。

 どこからどう見ても猫にしか見えない、むしろ眠る姿は毛質のいい丸いクッションにすら見えるもふもふとした塊が〝聖獣〟だなどと、未だもって信じられない気持ちになる。

 目覚めて身体を起こしてからも欠伸を洩らし、まだ眠そうに顔を擦る姿など、猫以外の何者でもない。

 だが、シャロルは間違いなく神の時代から存在する聖獣で、ラヴィアンとリュートにとっては導き人だった。

「それで、シャロル。なにか打開策でも見つかったのか?」

 ベッドの上にちょこん、と座るシャロルを見つめ、ソファに腰かけたリュートが緊張の面持ちで今日の議題を口にした。

 リュートを通し、シャロルから例の件で話したいことがあると聞いたのは、午前中のことだった。

 今は仕事上がりの夕暮れ時。昼と夜の境界線である不思議な時間帯のためか、部屋に流れる緊張の空気が、妙に重たいような気がした。

 ――『結論から言えば、最後の秘宝を見つけることは諦めるべきだにゃ』

 だいぶ慣れはしたものの、シャロルの見た目と声質と喋り方と口調が合っておらず、とんでもない結論を告げられたというのに、理解が一瞬遅れてしまう。

「な……っ?」

 一方、リュートの双眸はすぐに愕然と見開かれ、数秒言葉を失った。

「でも、それじゃあ……!」

 秘宝の探索に見切りをつけるということは、魔王を封印するための魔具が揃わないということになる。

 魔具もなしにどうやって魔王に立ち向かえというのか、絶望の訴えを上げかけたリュートに、シャロルの厳しい視線が送られる。

 ――『人の話は最後まで聞け』

 身を乗り出しかけたリュートの言動を制し、シャロルは淡々と話を続ける。

 ――『そろそろ魔王は本格的に動き出すだろう。とてもではにゃいが最後の秘宝を探していては間に合わにゃい』

「そんな……」

 突然聞かされたタイムリミットに、リュートの隣に座ったラヴィアンは青くなって唇を震わせる。

 時間がないことはわかっていた。わかっていたはずなのに、今まで実感が薄かったことに気づかされて大きな衝撃を受けた。

「それで? 秘宝を揃えずにどう立ち向かえと?」

 こちらはすぐに気持ちを切り替えたのか、それともシャロルが他の打開策を考えているとでも思ったのか、リュートの瞳がひたりとシャロルを見つめた。

 ――『秘宝を揃えることは可能だ』

「は?」

 そうして返ってきた答えに、リュートの口からはさすがに少しばかり間抜けな声が出た。

 それはそうだろう。秘宝を見つけることは諦めろと告げてきたその口で、舌の根の乾かぬうちに秘宝は揃うと断言したのだから。

「どうやって……」

 リュートが困惑するのは当然で、ラヴィアンも矛盾する発言を前に呆気に取られたまま、シャロルの説明を待つ。

 ――『最後の秘宝を手に入れるためには、もう手段は一つしか残されていにゃいと考える』

「それは、どういう……?」

 秘宝を見つけることは諦めるが、秘宝は手に入れる。

 絶対に成立しないその言葉の真意はなんなのかと、リュートは混乱の疑問符をシャロルに投げかける。

 シャロルはそんなリュートの視線を真っ直ぐ受け止めて、それから絡んだ視線を外すとなぜかラヴィアンのほうへ顔を向けてくる。

「な、に……?」

 ひやり、と背中に冷たい汗が流れていくのを感じた。

 心臓が耳の奥を響かせる鼓動を刻み、ラヴィアンは緊張の息を呑む。

 シャロルの金色の瞳が光るのを、はじめて見た気がした。

 ――『(キー)はお主じゃ』

「は?」

 シャロルがなにを言っているのかよくわからない。

「へ?」

 隣からはリュートの間抜けな声も聞こえ、なんとか言葉そのものの意味だけは理解して、ラヴィアンは驚愕に目を見開いた。

「わたし!?」

 シャロルは、ラヴィアンが秘宝を手に入れるための鍵を握っていると言ったのか。

 ――『そうにゃ』

 ラヴィアンから視線を逸らすことなく頷いて、シャロルは冷静な声色と態度で話を続ける。

 ――『お主には時間遡行の魔術があるじゃろう』

「え……」

 時間遡行の魔術、というのは、シャロルが命を落としかけた時に開花したラヴィアンの能力だ。

 あの時ラヴィアンは、シャロルの時間を過去に戻すことにより、シャロルの命を呼び起こした。

 時間遡行の魔術は、歴史上でも数例しか確認されていない稀有な力で、聖女の中でも大聖女と呼ばれる者にしか発現しないとされている。

 ――『過去の秘宝を手に入れる』

「過去の……」

 呆然とシャロルの言葉を反芻する。

 ――『秘宝が盗まれる前の時間まで遡り、盗まれる前の秘宝を()ってこの時代に戻ってくればいい』

 その説明を理解するには少しばかり時間を要したが、無謀とも思えるあまりにも力技すぎる手段に、リュートの喉がごくりと鳴った。

「それは……」

 今の時代で秘宝を見つけられないのなら、確実にそこにあるであろう時代に行って秘宝を取ってくる。

「……すごいことを考えるな?」

 理論上では可能かもしれないが、普通はまず思いつかない奇想天外な発想に、リュートの口からは戸惑いと混乱の入り混じった声が洩れる。

 ――『もうこれ以外に方法はにゃい』

 千年単位で生きてきたシャロルが出した結論は、たしかにその通りなのかもしれないが、すぐに呑み込めずに沈黙する。

 ――時間遡行魔術で、リュートを十年前まで飛ばす。

 そんなことが本当に可能なのか。

「ま、待って……?」

 混乱した思考の中で、ふとなにかが引っかかり、ラヴィアンは数秒黙り込む。

 ――十年前に王家の墓の中から持ち去られた秘宝。

 ――時同じ頃、幼いラヴィアンの目の前に現れた、リュートそっくりな侵入者。

 そして――。

 ――幼いラヴィアンの唇に触れた……。

 あの日の光景が、鮮明に頭の中に甦る。

 ――『追いかけてきて? 掴まえてよ』

 くすり、と笑った言葉の意味は。

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