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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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秘宝を求めて⑤

「――っ!」

 リュートの口から零れた悲痛の呟きに、ラヴィアンは恐怖の息を呑む。

「あの瞬間、覚悟はしていました」

 シャロルを抱いたリュートの腕にはぎゅっと力が籠り、その一方でもう片方の腕は力なく下へ落ちた。

「もう、ダメだって……」

 ダメ、とは、なにがダメなのか。

「リュート、さ……」

「だから、もういいんです」

 なにかを諦めたように緩く首を振り、リュートは震える唇で言葉を紡ぐ。

「無駄な魔力を使わせて申し訳ありません」

 これ以上の治癒魔術を施すことは無駄だと告げてくるリュートに、涙の浮かんだラヴィアンの瞳はさらに揺らいだ。

「そんな……っ。リュート様!」

「……っ……」

 シャロルのことを、〝相棒〟と言っていた。

 二人の付き合いがいつからのものなのかは知らないが、聖獣が神の時代の存在であることを考えると、リュートが生まれた時から傍にいたのではないだろうか。

 今にも泣きそうに顔を歪めたリュートの姿に、ぎゅうっと胸が締め付けられて苦しくなる。

 付き合いの浅いラヴィアンだって苦しいのだ。リュートの苦しみはどれほどのものだろう。

「……リュート、さ……」

 なんとかして少しでもその苦しみを取り除いてあげたくて。

 どうすればいいのかわからないまま、ラヴィアンの手がリュートの腕に伸びた。

「ラヴィアンさん……?」

 きょとん、とラヴィアンを見下ろしたリュートの瞳がわずかに濡れているような気がするのは気のせいか。

「……」

 どうしてこんなことをしようと思ったのか、ラヴィアンにもわからない。

 ただ、頭で考えるよりも先に、身体のほうが動いていて。

 ラヴィアンの唇がそっとリュートのソレに触れ、少しだけ強く押し当てられた時。

「――!?」

 ラヴィアンとリュートの身体の間から――正確には、そっとシャロルの身体に置かれていたラヴィアンの掌から――ぶわりと白い光が膨らんで、二人の唇はすぐに離れた。

「え……?」

 己の手から湧き上がる白い光に、ラヴィアンの瞳は困惑で見開いた。

「えっ? え……っ?」

 いったいなにが起こっているのか、白い光はシャロルの身体を包み込み、あたたかな熱が生まれた。

「なに、これ……っ?」

「ラヴィアンさん……!」

 驚き、思わず手を離しかけたラヴィアンの手首をリュートが掴み、強い瞳がラヴィアンを見下ろした。

「そのまま……っ」

「は、はい……!」

 わけがわからぬまま、言われるままに頷いて、ラヴィアンは掌の光に意識を集中させる。

 今まで構築したことのない魔術の波動とこの感覚は、いったいなんなのだろう。

「……ぁ……?」

 白い光は安定せず、今にも消えそうになって揺らいだ瞬間、リュートの慌てた声が上がった。

「ラヴィアンさんっ」

「ん……っ?」

 すぐに唇を塞がれて、キスをされたことに驚くよりも前に、再び白い光が強く大きくなったことに動揺する。

 その後も、唇を離し、光が小さくなりかけると再びキスをするという動作を繰り返し、不安定な光が少しだけ落ち着いたように感じた時。

 シャロルの小さな腕がぴくりっ、と動き、ラヴィアンとリュートは驚愕の目を落とした。

「シャロル……!?」

 ――『……これは、時間遡行の魔術にゃ』

「え……?」

 それから、ふいに脳内に響いた低い声に、ラヴィアンは驚きで固まった。

 ――『大聖女のみが使える魔術』

 言葉の意味もわからないが、この声が誰のもので、どこから聞こえてくるのかわからない。

「え、と……?」

 ――『お主は儂の怪我を治癒したのではにゃく、儂の身体を怪我を負う前の時間まで巻き戻したのにゃ』

 儂の怪我、という言葉とは不釣り合いすぎる妙な言い回しにも困惑するが、それはともかく、言われている話の内容に直感する。

 直接頭の中に響く、この声の持ち主は。

「シャロル!?」

 リュートからも驚きの声が上がり、ラヴィアンは疑心暗鬼に自問自答する。

「……これ、は、シャロルの声……?」

 その呟きに、見開いたリュートの瞳がラヴィアンを見つめた。

「聴こえるんですか?」

 やはりこの声はシャロルのものらしい。

「はい」

 ――『聖女であれば当然儂の声は届くじゃろう』

 ゆっくりと頷けば、おかしそうなシャロルの声が聴こえてきて、未だ動揺から立ち直れないまま、仄かな光に包まれているシャロルを見下ろした。

 ――『礼を言う。助かった。もう死を覚悟していたからにゃ』

 シャロルの瞼が静かに開き、ラヴィアンと目が合った。

「……時間遡行? 大聖女?」

 こちらはこちらで先ほど耳にした言葉を困惑気味に反芻するリュートへ、ちらりとシャロルの目が向いた。

 ――『治癒能力を持つということは、元々はそ奴の中には聖女の血が流れているのじゃろう』

 〝聖女〟と呼ばれるほどの力を持つ存在は失われてしまったが、治癒魔術は聖女の血を受け継いだ者にしか使えないというのが俗説だ。

 つまり、かなり薄まっていたとしても、ラヴィアンは一応聖女の末裔ということになる。

 ――『おそらく、危機的状況に置かれたことで聖女の血が覚醒し、リュートの魔力に触発されて能力が開花したのじゃろう』

 伝説では、かつて大聖女と呼ばれた女性は時間を操る能力を持っていたとされている。

 聖女自体が持つ能力も絶大だが、大聖女はさらに上をいく女神にも近い存在だ。

 そんな人間が、現代に存在するはずがない。

 だが。

 ――『先祖返り、とでも言えばしっくりくるか?』

「先祖返り……」

 告げられた説明を、呆然と反芻する。

 そんなことが、ラヴィアンの身に起こったというのか。

 ――『いろいろと混乱するのはわかるが、とりあえず今は時間がにゃい』

「! シャロルッ」

 とうとう自力で動けるようになったシャロルが身体を起こし、リュートからは嬉しそうな声が上がった。

 と、同時に白い光は収縮して消えてしまったが、シャロルの様子を見るともう大丈夫だろう。

 ――『先ほどのトラップが回復する前にここを去らにゃければ』

 床に落ちた元石像の奇怪な生き物の頭は現状粉砕されているものの、いつ修復活動が始まるかわからない。

 ――『リュート』

「わかってる」

 感動は後だと告げてくる相棒にリュートは真剣な表情で頷いて、壁の向こうへ目を凝らす。

「今のうちにさっさと宝物庫の中を確認しましょう」

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