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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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秘宝を求めて②

「どうやって」

 王宮内には、王族と一部の高級官僚しか入ることを許されていない部屋がいくつか存在している。そしてその中でも、最も立ち入りを厳しく制限されている部屋の一つが機密文書が保存されている保管室であることくらいは、ラヴィアンではなくとも城に勤めている者であれば誰もが知っていることだった。

 リュートが王太子の側近であることは周知の事実だが、だからといってその程度の立場で立ち入り許可が出るとも思えなかった。

「それはもちろん、こっそり侵入して、です」

 案の定、にっこり笑ってとんでもないことを口にしたリュートに、ラヴィアンの目は呆気に取られて見開いた。

「それって犯ざ……」

「今さらなにを言ってるんですか」

 立ち入り禁止区域に無断で足を踏み入れる行為は、当たり前だが不法侵入にあたる。

 思わず顔を引き攣らせてしまったラヴィアンだが、リュートはむしろ意味がわからないとばかりにあっけらかん、と目を丸くしていて困惑する。

「それはそうですけど」

 法的にはすでにいくつもの犯罪行為を犯してしまっているリュートにしてみれば、たしかに今さら一つ二つ罪が増えたところで大差はないに違いない。

 リュートが人知れずにしようとしていることは、この国を守るためのものだ。

 説教をするようなことができずはずもなく、ラヴィアンはとりあえず聞かなかったことにして記憶を抹消した。

「いいから先に進みましょう。夜になってしまいます」

 もう矢が出尽くしたことを確認しながら先を急ごうとするリュートに反対する理由はもちろんない。

「……はい」

 足元に散らばる数えきれないほどの矢を踏まないように歩みを進め、最初のトラップエリアを抜けながら考える。

 かつて、歴代の王が亡くなるたびに、発動する罠を掻い潜りながら棺を運んだなどということがあるはずもないから、どこかに罠を解除するための仕掛けが隠されているに違いない。

 どうにかそれを見つけられないものかと目を凝らしてみるものの、やはりラヴィアン程度の探索魔術では、それらしきものを見透かすことはできなかった。そもそも、リュートが同じことを考えていないはずもないだろうから、現状、罠の解除は諦めたほうがいいのだろう。

「あ……っ!?」

 その時、背後で魔術の流れを感じたと思えばなにかが動く気配がして、慌てて振り返ったラヴィアンは、瞳に飛び込んできた景色に驚愕する。

「な……?」

「まぁ、それはそうといえばそうなんでしょうけど……。帰りも油断しないようにしないとですね」

 小さく肩を落としたリュートの、どこかのんびりした声が響く。

 どうやらトラップは一定の時間がたつと元に戻るような永久継続の魔術がかけられているらしく、床に落ちていた矢は壁に吸い込まれるようにして消えていき、数秒後にはなにごともなかったかのような姿に戻っていた。

 リュートの言う通り、これでは帰りも真っ直ぐ出口に戻ればいいというわけにはいかないだろう。

「ラヴィアンさん」

「はい」

 行きましょう。と再度促され、ラヴィアンはまだ驚きが抜けぬまま、先導するシャロルに続くリュートのあとをすぐに追った。

 ――にゃぁ~

 シャロルの目が鋭く光り、その指示に従うように少しだけ膨らんだ岩壁をリュートが押せば、ゴゴゴゴ……ッ、という音を立てて足元から地下へ降りる階段が現れた。

「!?」

 ――にゃあ!

 待て。とでもいうかのような鳴き声が上がり、階下をじっと見つめたシャロルが、安全確認を終えたのか、ゆっくりとした足取りで階段を下りていく。

 見た目は猫そのものだが、シャロルが聖獣だという話は本当なのだろう。

 そのあとも、シャロルの嗅覚に従って、少し遠回りになるとしても迂回路が見つかれば怪しげな場所は避け、数種類のトラップを掻い潜ってさらに地下へ潜っていく。

 そうして、目的地の場所がわからぬままどれくらいの時間を歩いただろう。

「随分奥まで来ましたね」

 時折上階に登ることもあったものの、基本的には下り続け、体感としては地下五階くらいの深さだろうか。

 あいかわらず辺りは仄かに明るいが、空気は随分とひんやりとしてきた気がする。

「そろそろだとは思うのですが……」

 若干の肌寒さに、ふるり、と身体を震わせたラヴィアンに、リュートが前を歩くシャロルの様子を窺った。

 ――にゃぁ~

 振り向き、一声鳴いたシャロルはなにを言っているのだろう。

 聖獣の言葉を理解するために必要なものは単純な魔術力なのか他のなにかなのかはわからないが、現状、ラヴィアンにはただ猫が鳴いているだけにしか聞こえない。

「あぁ。見えてきました。その奥の扉の先が玄室です」

 こちらはシャロルの言葉をきちんと理解しているリュートが廊下の先に目を凝らし、ラヴィアンへ重厚な扉を視線で示すと、やっとここまで辿り着けたことへの小さな安堵の吐息を零す。

 だが、自分たちの真の目的は、棺が安置された玄室に行くことではない。

「と、いうことは……」

 玄室へ伸びる通路のちょうど中間点辺りで壁に手を這わせたリュートは、その向こうの空間を探るように目を閉じる。

 リュートは完全に壁の向こうを探知することに集中し、シャロルもその足元でリュートの行動を見守っていた。

「……?」

 その時、玄室の扉のほうでなにかが動いたような気配を感じ、ラヴィアンはふとそちらへ視線を向けた。

 だが、特に変わった様子はない。

 気のせいだったかと思いつつ、それでも油断大敵だと身を引き締める中、リュートの瞳がぱっと見開いた。

「! ありましたっ、ありました!」

 まるで宝物を見つけたかのような無邪気な笑顔になり、リュートが嬉しそうにラヴィアンのほうへ振り向いた。

「この壁の向こうに、奉納庫があります」

 亡き王たちの葬送品として納められた希少な品々がそこにあると言って、リュートは壁をコツコツ叩く。

 それから、ラヴィアンの意識が自分ではなく違う場所に向いていることに気づき、顔に疑問符を浮かばせる。

「ラヴィアンさん? そちらには用はないですよ?」

 玄室のほうを気にしているラヴィアンに、「どうかしましたか?」と声をかけ、リュートの視線がチラリとラヴィアンの視線の先を追った。

「いえ……」

 神殿にも似た装飾をした玄室の入口は静まり返っていて、特におかしな点は見つからない。

 奇妙な視線を感じる気がするが、それは玄室を守るように扉の両脇に置かれている、蝙蝠のような羽が生えた奇怪な生き物の石像がこちらを向いているせいだろうか。

 奉納庫を見つけて多少気が緩んでいるリュートだけであればまだしも、シャロルまで大人しくしているということは、ラヴィアンの胸のざわつきは杞憂なのだろう。

「扉の開錠方法は……」

 引き続き壁をコツコツと叩きながら、リュートは宝物庫へ繋がる扉と、その扉を開ける仕掛けを探して壁面全体を観察する。

 一歩後ろへ下がり、天井を見上げて隅々まで視線を巡らせる。

 その時。

「! 危ない……っ!」

 玄室のほうから目にも留まらぬ速さでなにかが飛んでくる気配がして、ラヴィアンは咄嗟にリュートを庇って前に進み出ると防御壁を発動させる。

「!?」

「……っ……ぅ……!」

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