秘宝を求めて①
王家の墓は、岩石でできた巨大な建築物だった。正面にある立派な扉から奥へ向かうと、数代前までの歴代の王たちの棺が納められているという。
だが、ラヴィアンがリュートとともに向かった場所は。
「こんなところに入口が……」
墓の裏手に回る途中に、目くらましの魔術で隠された小さな扉を見つけ、ラヴィアンは目を見開いた。
昔の王たちの棺が近年の王たちとは別の場所に納められているというだけならばいいのだが、なぜこんなにも隠された場所にあるのだろう。
「はい。普通は入口さえ見つけるのに苦労するはずなんです」
リュートがぶつぶつと呪詞を唱えながら手を翳せば、石板でできた扉は重い音を響かせながら横に開いていく。
神妙な顔をして頷いたリュートが言うように、ラヴィアンたちはこの辺りに隠し扉があるとわかって、魔術の波動に目を凝らしながら探したために気がつくことができたのだが、そうでなければ別の入口の存在に気づくことはまずないと思われた。
つまりそれは、十年前の侵入者がこちら側の扉の存在を知っていたということになり、知っていたとしたならば、どこからその情報を入手したのだという話になる。これが、ただの墓荒らしだと考えるのは少し無理があるのではないだろうか。
「内部の構造は文献を確認してもすべて把握できていません。どんなトラップが仕掛けられているのか未知の世界です」
近年の王たちの棺が表側に納められている大きな理由はきっとこれだろう。玄室に用があるたびにトラップを解除しながら進まなければならないなど、足が遠のくのは当然だ。特に近年、昔に比べて魔術の力が弱まってきているとなれば、場合によっては怪我をするどころか命がけになってしまう。
「準備はいいですか?」
現代では想像もつかない魔術の罠が待ち受ける世界。扉の向こうに半分足を踏み入れながら尋ねてきたリュートに、ラヴィアンは緊張の息を呑む。
「……はい」
自分の魔術は、この先どこまで通用するのだろうか。そして、ラヴィアンよりも遥かに高度な魔術力を持つリュートであれば、問題なく目的地まで辿り着くことができるのだろうか。
――にゃぉ~
「シャロル」
そこでリュートとラヴィアンの間を擦り抜けて一歩先に駆けていった小さな影、ことシャロルが振り向いて、一瞬驚きの表情になったリュートが柔らかな笑みを浮かべた。
「先導してくれるの? ありがとう」
――にゃぁぁ~
聖獣であるシャロルがどういった能力を持ち、どれほどの魔術量を持っているのかはわからない。ただ、リュートが〝相棒〟と呼ぶように、頼れる存在ではあるのだろう。猫にしか見えない姿で猫のように鳴いたシャロルは、「ついてこい」とばかりに軽い動作で奥へと身を躍らせた。
「では、行きましょう」
真剣な顔つきになったリュートに促され、ラヴィアンはこくりと無言で頷いた。
シャロルが先導してくれるとはいえ、魔力を込めた目を凝らし、辺りを警戒しながら洞窟のような通路へ一歩足を踏み入れた。
「この光は……、どこから来ているんでしょう?」
後方で扉が閉まってしまえば、光を取り込む窓などもない閉ざされた空間だというにも関わらず、内部は曇りの日程度の明るさを保っていた。
見える範囲では灯火などがあるわけでもなく、明るさの正体はわからない。
「光の屈折を上手く利用して外部から取り込んでいるのか、魔術によるものか」
「両方、でしょうか」
「そんな感じはしますね」
リュートと二人で天井をはじめとした通路全体をぐるりと見回しながら、危険はないかと魔術の流れを探索する。
「壁画、ですか」
「すごい……」
広い通路の両脇の壁には、動物らしき生き物――もしかしたら、今や消えてしまった聖獣だろうか――たちが描かれていて、壁画を見上げるリュートに続いてラヴィアンは感嘆の息を洩らす。
ひんやりとした空間は、遠くに壁が見えるものの、まさか行き止まりということはないだろう。
――にゃ~~っ!
慎重に奥へ進んでいくと、ふいに足を止めたシャロルが振り向いて、なにかを警告するような鳴き声を上げた。
「! 止まって」
右腕を差し出して停止を示してくるリュートに、ラヴィアンは警戒心を膨らませながらぴたりと足を止める。
「なにかあったんですか?」
今まで歩いてきた道とこの先と、特に変わったところは見つからない。
だが。
「トラップが仕掛けられています」
「え」
数歩先に厳しい視線を向けるリュートに倣って目に魔力を集中させれば、うっすらとした魔術の波動が見えた。
「……本当だわ」
「視えますか?」
「はい。なんとなくですけど」
リュートからの問いかけに頷いて、ラヴィアンはきゅっと唇を噛み締める。
どんな魔術かまではわからないが、攻撃性を感じる嫌な波動がラヴィアンの肌へぴりぴりと触れてくる。
だが、それだけだ。
リュートに言われなければ気がつかなかったであろう現実に、屈辱にも似た悔しさが湧き上がる。
「さすがです」
平均クラスの魔術士では決して視えないだろうと称賛されようが、言われて初めて気づく程度ではなんの役にも立ちはしない。せめて足手まといにならないように、などと考えるようになってしまったらと想像すると、冗談ではないと焦りが募る。
もっと、限界まで集中力を上げなければ。
「さて。いったいどんな罠が仕掛けられているのか……」
「リュート様!?」
真剣な顔で辺りを警戒しながら一歩前へ足を踏み出したリュートに、ラヴィアンはなにをするつもりかと驚きの声を上げる。
「避けられるものなら避けたいですが、進まないわけにはいきませんし」
「それはそうですけど……」
迂回路のようなものがあるとは思えない以上、このまま進むより他はない。
気づけば壁に描かれた動物の姿は幾何学模様に代わっており、なにか魔術的な意味があるのだろうかと考えるが、すぐに答えが導き出せるものではなかった。
「ラヴィアンさんは巻き込まれないようにそこにいてください」
「ちょ……っ!?」
トン……ッ、と軽い動作で地を蹴ったリュートを止める間もなく、頼れる愛猫へ視線を送ったリュートの声が響く。
「シャロル!」
――にゃあ!
リュートの呼びかけに応えるようにシャロルの鳴き声が上がり、その小さな影はリュートの肩に乗る。
その直後。
「きゃぁぁ……っ!?」
壁に描かれたぐるぐるとした円の中心部の異空間から矢が現れ、ラヴィアンの目の前を四方八方に飛んでいった。
「リュー……」
これでは二人とも八つ裂きになってしまうと青い顔になったラヴィアンの視線の先。身体の周りに突風を巻き起こし、己に向かってくる矢を悉く薙ぎ払っているリュートの姿が目に入り、リュートの名を呼びかけたラヴィアンの声は喉の奥に呑み込まれた。
勝算があったからこそ特攻したのだろうことはわかっても、心臓に悪いことは止めてほしい。
それと同時に魔術士としてのリュートの実力を見せつけられ、わかっていたこととはいえ悔しくなる。
「よくある初歩的なトラップですね」
矢を放出し切ってしまったのか、静けさが返ってきた通路の中心に立ち、リュートがくすりと勝利の笑みを刻んだ。
それがなんとも様になっていて、ラヴィアンの口元は勝手にむすりとしてしまう。
「どうしてそんなことを知ってるんですか」
頭のどこかではこんなことを聞いている場合かとも思うのだが、ついついジトリとした目を向けたラヴィアンに、リュートは悪びれもなくにこりと笑う。
「王宮の機密文書室に残されている文献で読みました」




