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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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19/40

密会①

(……う)

 待ち合わせ場所に着いたラヴィアンは、数歩先ですでに自分を待っているリュートの姿を目にして思わず足を止めてしまっていた。

 道の端に置かれた木箱に軽く腰をかけ、無造作に脚を投げ出しているリュートは絵になっていて、行き交う人々がチラチラと視線を投げているのがわかる。

 本人としては格好つけているつもりなのか無意識なのかはわからないが――ラヴィアン的には、無意識に自分の「魅せ方」をわかっていてやっているのではないかと思うのだが――ほんの一瞬、見惚れてしまいそうになった自分に悔しさが湧く。

 顔がいいのは認めるが、リュートのことをそういう目で見るつもりはない。

「リュート様」

 そろそろかとラヴィアンの姿を探していたのであろうリュートは、ラヴィアンが声をかけるとすぐにこちらに顔を向け、人懐こい笑みを浮かべた。

「ラヴィアンさん」

 自分のことを慕ってくれる可愛い弟がいたとしたらこんな感じだろうか。

 そんなことを考えながら、ラヴィアンはリュートまで残り数歩の距離を縮めた。

「お待たせしました」

 先ほど時刻は確認したが、おそらく約束の時間ぴったりだ。

「僕もさっき来たところです」

 近寄ってきたラヴィアンを確認すると、リュートはお決まりのセリフを口にして木箱から腰を上げる。

「では、行きましょうか」

「はい」

 笑顔で促され、ラヴィアンはすぐにリュートの隣に並んで歩き出す。

 今日はこれから、三つ目の秘宝に関する今後の動きを相談するのだ。

 とはいっても。

「どちらへ?」

 話の性質上、人の耳があるところで相談できるものではない。

 リュートのことだ。その辺りのことはもちろんきちんと考慮して移動しているのだろうと横顔を窺ったラヴィアンに、リュートはさらりと告げてくる。

「ホテルを手配しました」

「ホテ、ル……?」

 たしかに、確実に部屋で二人きりになれるホテルであれば秘匿性は確保されるが、だとしてもその選択肢はどうなのだろう。

 自意識過剰だとは思いつつも、つい動揺してしまったラヴィアンに、案の定目を丸くしたリュートの笑顔が向けられる。

「あ。もしかして警戒させちゃいました?」

「――!」

 一瞬ぎくりとしたラヴィアンの反応にしっかり気づいていたらしいリュートが呑気に笑いかけてきて、ラヴィアンの目は見開いた。

「ご希望であれば期待に応えますけど」

「けっこう! です!」

 なんでもないことのように告げられて、ラヴィアンは声を大にして遠慮の気持ちを主張する。

 ほんのり頬を赤らめて批難の目を向けるラヴィアンにリュートはおかしそうに笑っているが、たとえ冗談だとしても本当にやめてほしい。

「……やっぱり、女の敵……っ」

 副団長曰く、来るもの拒まず去る者は追わず。

 ラヴィアンの目から見ても、リュートの女性経験の高さは窺える。

 国の一大事ということで協力しているが、そちら方面においてはとても味方ではいられないと一人でもやもやしていると、リュートからは少しだけ不満気な質問が返ってくる。

「やっぱり、ってなんですか。やっぱり、って」

 ラヴィアンを見下ろすリュートは拗ねているのか、どことなく子供っぽい。

 その姿に、やはり年下の可愛い男の子認定してしまい、ラヴィアンは真面目の顔でいてからかうような目を向ける。

「違うんですか?」

 ラヴィアンの中の恋愛見本は、一人の女性を一途に想うものであり、複数の女性たちに軽い気持ちで手を出すようなものではない。

 つまり、後者のリュートは遊び人だろうと疑問符を投げかければ、リュートは慌てて否定の声を上げる。

「僕は今まで、女性にたいして不誠実な真似をしたことはありませんっ」

 恋人がいれば他の女性と関係を持ったりしない、と懸命に主張するリュートの言葉が正しければ、たしかに「不誠実」や「女の敵」とまではいかないのかもしれない。

 ただ、ラヴィアンにしてみれば、短期間で恋人を入れ替える恋愛観は、〝真面目〟とはほど遠い位置関係にあるものだとは思うけれど。

「いつも振られる側ですし」

「それは……」

 自分から別れを切り出したこともないと小さな吐息をつくリュートに、ラヴィアンはなんとも複雑な表情になる。

 リュートがすぐに振られてしまう理由は、なんとなく理解できる気がした。女性の想いに対し、返ってくるリュートの気持ちが軽いと感じて辛くなってしまうのではないのだろうか。相手の女性が本気であればあるほど、ただ優しいだけのリュートの態度に傷つき、耐えられなくなってしまうに違いない。

 リュート本人は誠実に接しているつもりで、なぜいつも上手くいかないのだと頭を悩ませているのかもしれないが、わざわざその原因を教えてやるほどラヴィアンは優しくない。

「ご愁傷様です」

 結果、それだけで済ませたラヴィアンに、リュートは無言になる。

 ただ、本気でなにが悪いのかわからない様子のリュートには少しだけ同情も覚え、ラヴィアンは小さく肩を落とすと綺麗なその横顔を見上げた。

「いつか本気になれる女性に出会えるといいですね」

 つまりは、そういうことなのだ。

 告白され、自分も相手に好感を持ったからお付き合いする。たとえその間、他の女性の誘いに応じなかったとしても、その程度の気持ちで恋人関係を築こうとするから上手くいかないのだ。

 もしリュートが自分から求めるような女性が現れたとしたら、その時はまた違う結果になるのだろうと思う。

「……ありがとうございます」

 なんだが微妙そうな表情でお礼を口にしたリュートは、次の瞬間、「あ」と目を見開いた。

「ラヴィアンさんっ」

「!?」

 直後、ぐい……っ、と肩を引き寄せられ、ぎりぎり横を通り過ぎていった人物の存在に気づいて、ラヴィアンは自分が通行人にぶつかりそうになっていたことに気づかされる。

「注意力散漫でした」

 リュートのおかげでぶつからずに済んだことはたしかで、本気で恥ずかしくなって「すみません」と謝りながらも、一方でむかむかとした気持ちも湧いてくる。

 なんとなくだが、こういう機転が「遊び人」たる行動のような気がする。わざわざ肩を抱く必要があるのだろうか。

「いえ。どういたしまして」

 にこりと笑うリュートからは一切の悪気も下心も感じないが、なんとなく腹立たしい。

 年下のくせに! という意味不明な八つ当たりを心の中で抱きながら、リュートに先導されるままに大通りから少し外れた横道に入っていく。

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