夜が明けて⑤
「で? どうする気だ?」
「どうするもなにも……」
聞かれても困ってしまう。そもそも偽装なのだから。
この場合、どう回答するのが最適解なのか、という意味で困ってしまう。
「ぶっちゃけ、家柄的にはなんの問題もないわけだし」
伯爵家のリュートと、子爵家のラヴィアン。もし本当に「お付き合い」に発展したとしても、周りから反対の声が上がることはないだろう。
このままリュートの気持ちを受け入れるつもりがあるのかどうかと尋ねてくる副団長に、ラヴィアンは困り顔で眉を落とす。
「そういう問題では」
釣り合いが取れる家柄かどうかなど関係ない。
リュートとラヴィアンがどうこうなるなど、実際にはありえないのだから。
「その感じだと、その気はない、と」
あまり芳しくないラヴィアンの態度に、「ふ〜ん?」とつまらなそうな反応を返してくる副団長は、もしかしたらこの状況を面白がっていたりするのだろうか。
「……まぁ、そうですね」
他人の色恋を楽しむなど悪趣味だと思いながらも、ラヴィアンは苦笑いを零す。
「リュート様のファンは多そうですし」
一応は結婚適齢期にも関わらず、社交パーティーなどにはまったく顔を出さないためにそちら方面の情報はさっぱりだが、あの容姿や王太子の側近という肩書から考えても、きっと女性人気は高いのだろうくらいはラヴィアンにもわかる。
恋愛事に興味などないというのに、そういったごたごたに巻き込まれるような面倒なことはしたくなかった。
「ファン、て!」
いったいなにが可笑しいのか、一瞬目を丸くした副団長が噴き出して、腹を抱えて大笑いする。
なにも面白いことを言っていないと思うのだが、副団長は笑い上戸だっただろうか。
「まー、英断かもな」
英断、とはいったいなんのことを言っているのか、懸命に笑いを抑えようとしながら、副団長はなにやらぶつぶつと考え込む仕草をする。
「いや? どうだ? 意外と上手く収まるかもしれないと思ったりも?」
「副団長……?」
リュートとの関係を進展させないことを推奨するかのような発言をしたかと思えば、すぐにその逆の考えに頭を働かせはじめた副団長に、ラヴィアンは無責任なことは言わないでほしいと恨めしげな目を向ける。
「どちらにしても、リュートの方から誰かに行くのははじめて見たからなー」
それはそうだろう。あのスペックで自ら女性を口説きに行く必要性があるとは思えない。
しつこいようだが、リュートがラヴィアンに気がある素振りをしているのは、本当の目的を隠すためのカモフラージュだ。
「まぁ、頑張れ」
「……なにをですか」
笑いながら応援されても説得力などまるでない。
「ん~? いろいろ?」
それなりに考えているようで口元がニヤニヤと緩んでいるのに気づいて、ラヴィアンはジトリと副団長を見つめる。
「完全におもしろがってますね?」
「バレたか」
副団長はあっさりと認めてみせ、ラヴィアンは数秒間呆気に取られて言葉を失った。
そこへ。
――コホン!
という団長の咳払いが響いて、ラヴィアンも副団長もハッとなる。
ここはプライベートの場所でも時間でもない。立派な仕事中だ。
「あ……」
「すみません……」
恐縮してすぐに謝れば、団長はやれやれという呆れた溜め息を吐き出した。
「わかったならいい」
それからガラリと雰囲気を変え、ラヴィアンを真っ直ぐ見つめてくる。
「ラヴィアン」
「は、はい」
これ以上の失態は許されないと、ラヴィアンは慌てて背筋を伸ばすと直立不動の姿勢で団長からの言葉を待つ。
「プライベートに口出しをするつもりはないが、公私混同は厳禁だ」
「もちろんです」
言われるまでもなく、そんなことはわかっている。
「でも、混同させてるのはあっちだしなー……、って、すみません!」
そこで呑気に突っ込んで、団長からのジロリとした視線に肩を震わせて姿勢を正したのはもちろん副団長だ。
団長は「は~ぁ」という深く細い吐息をついてから、再度厳しい表情になってラヴィアンと副団長へ声をかけてくる。
「とにかく、いつまた緊急招集がかかるかわからない状態だ。引き続き気を引き締めて業務にあたってくれ」
もちろん、仕事を怠るつもりはない。ラヴィアンが所属する警備団の主な任務は、怪盗を捕まえることではないのだから。
「はい」
ラヴィアンは気持ちを入れ替えて、よく響く声で応えたのだった。




