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ファースト・キスの魔法【完結執筆済】  作者: 姫 沙羅


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11/40

決行前夜

 決行は明日の夜。万全の状態で迎えるためにも今夜はしっかり休もうと、ラヴィアンは城の当直室に向かっていた。

 自分の家のベッドで眠ることができれば一番だが、今日に限って自宅に帰るなど、不審を招くような行動ができるはずもない。今夜なにも起こらないことを知っているのはラヴィアンだけだ。今まで休日返上で詰め続けていたというのに、突然帰宅をしたら不自然だろう。

「あ」

 中庭を横目に外廊下を歩いていき、当直室に繋がる角を曲がったところで、ラヴィアンはぴたりと足を止める。

「しまった。聞き忘れた」

 この国に迫っている危機を聞かされ、協力を求められて承諾した。秘宝を手に入れるための二人と一匹の作戦会議は長時間にも及び、今に至る。

 失敗は、絶対に許されない。

 そんな状況下で、十年前のあの日からずっと抱いていた疑問とはいえ、口にすることをすっかり忘れてしまったとしても仕方のないことだろう。

 ラヴィアンの疑問は、今すぐ解決しなければならないほど緊急性があるものでも、ましてや作戦に影響が出るような内容(もの)でもない。

「……まぁ、あとでもいいか」

 深々とした吐息を落とし、ラヴィアンは歩き出す。

 さすがに少し疲れを感じていた。

 連日城に詰め通し、緊張を緩めることを許されない日々を送っていた。

 秘宝を盗むための手伝いなど、また別の緊張感に襲われるものの、今夜はぐっすり眠ってしまってもいいのだという安心感は、ラヴィアンの精神(ココロ)を軽くしてくれる。

「あの時の彼はリュート様じゃないの……?」

 そのうち確認しようとぶつぶつ呟きつつ、ラヴィアンは眉間に皺を寄せる。

 たしかに、顔をはっきり目にしたわけではなく、あれから十年も経ち、記憶も朧気にはなっている。

 それでも、決して忘れはしない、仮面から覗いた漆黒の瞳と髪。怪盗が身につけていた服も、リュートの怪盗姿とそっくりだった……、と思う。

 現在リュートはラヴィアンより三つ年下の二十一歳。十年前ともなればまだ十歳そこそこの子供だ。あれがリュートであるはずがない。

 だったら……、と。もしかしたらあの怪盗の正体はリュートの父親だろうかとも思ったが、先ほどのリュートの話の中で、父親はリュートが子供の頃にすでに他界したのだと言っていたことを思い出す。

 ならば、十年前にラヴィアンが会った――負傷をしているところを助けた恩を仇で返すように、ラヴィアンのファーストキスを奪ったあの青年は誰なのか。

「――っ!」

 その時ふいに、怪盗の格好をしたリュートにセカンドキスを掠め取られた時の光景を思い出し、ラヴィアンの顔は赤くなった。

 そういえば、食物庫で二人きりになった瞬間も、不埒な真似をされそうになったのだった。

「あんな……っ。人畜無害そうな顔をしていて、詐欺だわ……!」

 素直で純粋な大型犬のような雰囲気を纏っておいて、実は恋人でもない女性に簡単に手を出せてしまうような軽い人間なのかとショックを受けてしまう。

 話していると真面目で誠実そうな印象を受けるのに、女性関係だけはだらしがなかったりするのだろうか。

 もしそうだとしたならば、あの綺麗な顔に騙されて泣かされた女性は星の数ほどいるのではないだろうか。

「気をつけないと……っ」

 当直室に着き、後ろ手に扉を閉めながらきゅっと唇を噛み締める。

 男女で別れている当直室は、元々女性の数が少ないために、ラヴィアン以外誰もいない。

「あの顔に惑わされたらダメ……!」

 リュートの綺麗な顔は、洩れなくラヴィアンの好みでもあった。

 油断をするとうっかりときめいてしまいそうで、ラヴィアンはそちらの感情を無にすることにする。

 ラヴィアンは、ただの協力者。それ以上でも以下でもない。自分の立場を忘れてはいけない。

「今日はしっかり寝ないと……」

 明日のためにも体調を万全にし、備えなければ。

 湯浴みの後、そう思いながらベッドに入ったというのに、身体も頭も変に覚醒してしまい、ラヴィアンはなかなか寝付くことができなかった。

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