ー1章ー 5話 【威厳と風呂】
戦いを終えた拠点に訪れる、思わぬ展開。
静かなはずの大浴場で、マスターとリシェルを待ち受けていたのは……?
少しコミカルに、そして少しドキドキしながらお楽しみください。
俺とリシェルは互いの体温を感じ合っていた。
信頼を育むという至極真っ当な選択だ。
何を恥じる事があろうか!
彼女は震えていたのだ。
支えてやるのが創造主としての務め……。
この答え以外に何があるというのだ。
静寂の拠点。
風の音しか聞こえない。
今日は酷く汗ばむ……
夏……なのだろうか。
それとも……。
突然、誰かの足音が聞こえる。
敵襲か!?
急いでベッドから身を起こし、臨戦態勢を取る。
リシェルも俺を庇うように身構えた。
「ま……マスター。………食材を調達して参りました……」
現れたのは美少女兵の一人だった。
様子がおかしい……何故言葉を詰まらせている?
そんなに動揺する何かがこの部屋にあると言うのか!?
辺りを見渡すが、その様な物や事象は確認できない。
……どう言うことだ?
何故目を逸らす?
ん?
この美少女兵も顔が赤い。
リシェルと同じ症状なのだろうか?
そう言えば、やけに肌がスースーする。
あ、服がない。
何だ……俺だったのか、原因は!
しかしここで動揺すれば、創造主の威厳は消え去るかもしれない。
……であれば。
敢えてこうしていたと言うことにしてはどうだろうか?
……やや苦しいか!
しかし、よくよく見てみればリシェルも俺と同様の格好ではないか。
ならば二人で堂々としていればこの場を乗り切れるのではないだろうか?
「お召し物をお持ちします……」
気を使われた!
「頼む」
素っ気ないぞ、俺!
美少女兵はそそくさと部屋を後にした。
しかし、何とかやり過ごせた。
創造主たる俺の威厳は恐らくだが、
保たれただろう。
しかし汗だくだ。
確か施設には大浴場があったはずた。
300人も収容できるのだ、それ位の規模感でなければ困る。
着替えはそっちに運ばせるとして、汗を洗い流しながら今後の方針を決めねばなるまい。
「着替えは風呂場へ頼む」
リシェルも汗だくのようだが、一緒に風呂へ行くのはさすがにマズい。
俺はリシェルと別れ風呂場へと向かった。
扉を開けるとさすがに300人同時には入れないが、よくある温泉の大浴場位の大きさだった。
スキルで出した拠点施設にしては随分と立派だな。
ひとまず身体の汗を洗い流し、湯船に浸かった。
少し熱めなのがまた良い。
今日一日で色んな事があった。
模型屋に入ったら何故か見たこともない世界の戦場に投げ出され、ステータスやらスキルやらゲーム内にいるかの様な仕様になっているわで……。
恐らく異世界転移したって事は分かるが、この先どうすれば良いんだ?
現状を整理すると、俺たちは戦場の兵士達を敵味方なく殲滅した。
まぁ、味方が居たかさえ謎なのだが。
普通に考えれば今後俺たちは狙われる可能性大だ。
狙われるにしても相手が何者なのかは知る必要がある。
今の戦力で事足りるのか。
相手も実は俺の様な転移者で、何かしらの能力を保有しているのか...…。
いずれにしても明日はその辺りを探る必要がありそうだな。
となると、密偵役が必要になるな……。
しかしそんな都合よく職業をこちらが決める事なんてできる訳ないか………。
ステータス画面を出しリシェルの情報を眺めていた。
そう言えばリシェルを【造形】した時、イメージしたのは美少女である事は言うまでもないが、戦乙女のようなイメージをしてたな……。
実際リシェルはそれに近しい感じだし……。
ん?
職業……ヴァルキリー!?
まんまかよ……!
……と、言う事はだ!
【造形】を発動した時のイメージに職業も思い浮かべれば良いということなんじゃないか?
ガラガラガラ………ピシャ
んー。
説明文だけじゃまだ謎な事は多いが……。
ひとまず可能性は見出せたか。
何にせよ目的が必要だ。
101人の小規模ではあるが、軍隊を持ってしまったからな。
ヒタッ……ヒタッ……カポンッ……
戦い自体はリシェルに任せるしかないが、100人の美少女兵をどうするかだな。
その辺も方針として考えなくちゃな。
……チャポンッ
「マスター。考え事ですか?」
あぁ、突然の出来事でやるべき事が山積してるんだよ。
こりゃ俺を補佐する参謀も必要になってくるな。
……って!リシェルさん!?
何故ここに!?男湯ではないのか!?
……いや、俺が女湯と間違えたのか?
待て待て……落ち着くんだ。
風呂場の入口は一つしかなかった。
施設の案内板にも風呂はココだと記されていた。
だから俺は迷うことなくここに来たんだ。
いや、ひょっとしたら風呂場はここしかない可能性さえあるぞ?
しかしこの状況……リシェルも女湯だと思って入って来たのだろう。
ならばお前が間違っているなどと言ったら彼女が傷付くのは明白!
ここは一つ、男を見せて俺が間違っていたという事にして、この場を去るしかない!
身体も温まったし丁度良いではないか!
「……すまない。邪魔をした」
邪魔をしたって……邪魔じゃなくて、間違えましただろ!?
あぁ、もういい!とにかくココを出よう!
するとリシェルが俺の手を掴んだ。
と、同時にガラガラと音がした。
美少女兵たちじゃないか!!!
「マスター、お背中をお流しいたします」
いやいやいやっ!リシェルさん、マズイですから!
あ、美少女兵と目が合った………。
終わった………。
今回はお風呂シーンという事で、少しコメディ寄りの展開となりました。
マスターの威厳と、リシェルや美少女兵たちの存在が入り混じると、どうにも騒がしいですね。
それでも彼らの関係性が、こうしたやり取りの中で少しずつ形になっていくのかもしれません。
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