32話 私が街でゆっくり過ごすための1番の方法、それは……
歴史的な物で、王族が探していた物だけど、この図鑑の内容は信用ならないな。これは無事に街に入れたら、新しい図鑑を買ってもらった方が良いかもしれない。いや、買ってもらおう。
まさかのまさか、グレイスもケロケロ程じゃないけれど、物凄く珍しい魔獣だった。数年に1匹見つかるかどうかって感じで、もしも見つかれば大騒ぎになるらしい。
何故大騒ぎか。グレイスウルフは、珍しいだけじゃなくかなり強い魔獣で。しかも上手くいけば何とか契約できる魔獣ってことで。その力を手に入れようと、人間や他の種族が集まってきて契約しようとして、大騒ぎになるらしい。
まったく、みんな魔獣を何だと思ってるんだ。家族や相棒として契約するんじゃなく、自分の力にしようと、無理やり契約するなんて。
しかもそんな事、この歴史的図鑑にはまったく書いてないし。本当にこれ、王族が探すほどの歴史的図鑑なのか? これならポル君の落書きと手形、問題なさそうな気がするよ。
と、まぁ、ケロケロとグレイスの、本当の状況が分かったのは良いんだけど。それにより、さらに私は危険な状況になったっていう。
もしも私が、伝説級と物凄く珍しい魔獣、どちらとも契約していることが、何かの拍子に他の人にバレたら?
そしてその人が誰かに話し、さらにそこから広まって。強すぎる魔獣は手に入らないけど、弱い私なら手に入る って思われたら……。私を手に入れれば、2つの力が、何の苦労もなく手に入るって事で。
そうなったら私は各方面から、いつでもどこでも狙われることになり、ゆっくり暮らすことができなくなるって。
それに他にも、私に問題があって。私の力を狙ってくる人もいるかもしれないんだって。
なんかね、私の力は他の子供に比べてかなり強いみたい。ほら、スプラッシュスライム。このスライムはBランクの魔獣で、ランクの低い冒険者なら、討伐が難しいし、下手をしたら大怪我をしちゃうような魔獣なんだったらしい。
そんな感じはしないんだけど。それにケロケロたちも、みんな訓練しているって言っていたしね。後でこれも調べた方が良い?
と、話しを戻すと、そんなBランクの魔獣を、2歳の私が倒しているのを見られたら? それはそれで、力がある子供を手に入れて閉じ込め。その後も訓練をさせ、さらに力をつけさせ、結局自分たちのために私を使おうとする……。
まとめると、ケロケロとグレイスと、私自身の力、両方から狙われる可能性があるみたい。
『まったく、面倒な』
『まぁ、来たところで、その場でやるか追い返しますが』
「確かにお前たちなら問題ないかもしれない。だが、世の中っていうのは、何が起こるか分からないんだ。もしも予期せぬことが起きたら? お前たちが絶対にリアを守れるという保証はどこにもないんだぞ。絶対はないんだ」
『む……』
『確かに……』
「ならどうするか。まぁ、1番簡単な方法は、リアを街に連れてこないことだな。お前たちは普段、海で暮らしているんだろう? ならば用事がある時はどちらかと海に残り、リアを街へ連れてこなければ良い』
『それはない』
『ありえません』
「……即答かよ」
『それは、リアを狙う奴らと同じ事なんじゃないのか? 『閉じ込める』お前が言ったんだろう。奴らはリアを閉じ込めて、自分の力にすると。閉じ込めるのと、いつもの場所から動かさないのは、閉じ込めているのと同じではないのか?』
『私たちはリアとポルに、たくさんの経験をさせるつもりです。それは2人の成長には大切な事ですから。同じ事だけでは成長なんてしませんよ。それに新しい事を学ぶ事で、視野も広がるんですから』
「……お前たち。ずいぶんしっかり考えているんだな。いや、悪く思わないで欲しいんだが、魔獣がそこまで考えるとは思わなかった。そこら辺の人間より、よほど考えている」
「驚きましたね」
『これくらい普通だろう』
「……はぁ、馬鹿な連中に聞かせてやりたいぜ」
「まったくです」
『他の方法は?』
「あ、ああ、そうだな……。今みたいに街の近くまで来て、リアは街には入らず、どちらかと残り、もう1人が街へ。リアはその間、街のそばで過ごす感じだ。だがこれじゃ、海から陸に変わっただけだからな。結局何もできていない。さっきのお前たちの話を聞く限り、これもなしだろう」
『当たり前だ』
『却下です』
「となると次は、最初にお前たちがやろうとしていた、どこからか入り街で過ごす、だが。これはさっき説明した通り、家族証明書があった方が絶対に良い。ただ……」
『ただ?』
「ただでさえ、家族証明書をどう作るか考えなきゃならないのに。リアを守るとなると、普通の証明書じゃダメだ。もっと力のあるものにしないといけないだろう。お前たちがこの世界で、ある程度の立場を持っていればいいが、そうでないなら……」
一般市民で、何かしらの力を持っていた場合。証明書を確認できる立場の人間、たとえば貴族なんかがそれを見て、その人が自分より身分が下で逆らえないと判断すれば。圧力をかけて証明書を書き換え、連れ去ってしまうこともあるらしい。
「だからそれを防ぐために、それなりの地位や力を持った人間に後見人になってもらい、その名を家族証明書に記載する必要がある」
『後見人?』
「簡単に言えば、リアを守る強い味方のことだ。戦う力だけじゃなく、様々な力を持っていて。その力を使い、リアはその後見人にとって大切な家族だと示す事で。面倒な連中は、そう簡単にリアに手を出せなくなる。そんな後見人がいれば、完璧にとは言えないが、リアでもゆっくり街で過ごせるだろう」
『そんな者がいるのか?』
『ならばその者に、すぐに頼みに行きましょう』
「おいおい、待て待て。確かにいれば良いと言ったが、そんな人間には簡単に会うことはできないんだぞ? それに、助けを求めても、向こうが納得しなければ、どうにもならないんだ」
『何だそれは。ならば何故そんな話をしたんだ』
『まったくです。そんなできそうもない話しをするなんて」
「だから待てって。最後まで話しは聞け。普通なら簡単じゃないが、ここには俺がいるからな。俺は、お前たちの力になってくれる可能性のある人間を知っているんだよ」
『……本当か』
『今までの話しからすると……』
『本当だって。なにしろ俺の関係者だからな』
「ベルナード様、それではアーセリオ様に」
「そうだ。あいつなら、きっとこいつらの力になってくれる。まぁ、こんな時ばかり頼ってと、俺に後見人の話しの代わりに、何かしろと言ってくるかもしれないが。それでもリアは守るべきだ。他のまずい所へ連れて行かれたら、大変なことになるだろうからな」
『そっちの人間も知っている者か』
『ならば本当でしょうか』
「おい、何でこいつの言ったことは信じるんだよ」
『ですが、どこまで信用して良いか。あなた方が私たちを利用するために、そう言っているだけの可能性もありますからね』
「まぁ、そこは信じてくれ、としか言いようがないな。だが、今考え得る中では、これが1番の方法だと言っておく。これ以上の手はない」
ケロケロとグレイスが少し黙ったあと、2人でこそこそ話しを始めたよ。そんな2人を、黙って見る私。ポル君は話しに飽きたのか、私の隣で小さなカニみたいな生き物に戯れている。
そして約15分後……。
『リア、俺たちは……』




