23話 お互いに気づいていた秘密
「さて、これでゆっくり話せるな」
『……』
今、私たちはベルナードさんと向き合っている。そしてランドルフさんは、向こうに岩場があるんだけど、私たちの会話が聞こえないようにそこまで下がったよ。
本当、まさかの言葉だった、グレイスのことを魔獣と言って、しかも名前のことや身分証のこと、私のことまで言ってくるなんて。私はそれを言われて、もうドキドキだったよ。
でもケロケロとグレイスは、じっとベルナードさんを見つめたあと頷き合い、ベルナードさんに返事をしたんだ。『分かった』って。それで今から話しをするところだよ。
「まず、そっちの魔獣だが、お前も相当な力のある魔獣だろう? だから、こいつのように人の姿になれるはずだ。で、ウルシェイドの兄とされているアスレイドっていうのが、おそらくお前だと思うんだが。ここまでは合ってるか?」
『……』
「俺はこれでも上級冒険者でな。これまでにいろいろな種族と関わりを持ってきたおかげで、そういうのが何となく分かるんだよ」
ケロケロのこともバレてたよ。ベラルーシさん、上級冒険者って言ったけど、だからって、本当にそんな正体まで分かるものなの?
私はケロケロとグレイスを見たよ。2人はピクリとも動かず、じっとベルナードさんを見ている。なんて答えるのかな? ドキドキしながら待っていると数秒後……。
『その通りだ』
そうケロケロが答えた。
「やはりか」
『はぁ、そうです。私たちは魔獣で、ウルシェイドとアスレイドではありません。あなたの言い方では、気配で私たちのことを分かったようですが。私たちに声をかける前から、分かっていたということですか?』
「いや、最初は分からなかった。が、近づくにつれて、お前たちからの圧が大きくなってな。そうして近くに来て、ほぼほぼ確信したって感じだ」
『そうか。これからはもっと気をつけなければ』
『そうですね』
『まぁ、俺たちも、お前の力には気づいていたがな』
え? どういうこと?
『ええ。私たちもあなた方が近づいてきた時に、しっかりと調べさせてもらいましたからね』
『お前は普通の人間と比べて、かなり力が強かったからな。俺たちはいつでも逃げ出せるように警戒していたのだ』
「そうか、まぁ、お前たちなら、俺のレベルなんて簡単に分かるだうな」
そうだった、ケロケロたちは気配を調べて、相手の力がどれくらいか、調べることができるんだった。なんだ、それなら先に言ってくれれば良かったのに。
ケロケロがこそっと私とポル君に教えてくれる。ベルナードさんは、かなりの実力者で。ケロケロたちが戦って負けることは絶対にないけれど、それでも怪我を負うかもしれないって。ベルナードさん、まさかそこまで強い人だったのか!?
お互いにお互いが、相手の強さに気づいていて、警戒していたなんて……。何か、頷く合図だけじゃなくて、警戒しろ的な合図も考えた方が良いんじゃないかな?
私とポル君、何も知らずに、クッキーとジュースをバカ食いしちゃってたよ。何ならポル君は、しっかりカバンにしまっていたし。
そうそう、無造作にカバンにクッキーを入れたと思っていたポル君だけど、ちゃんとしてたよ。
買い物をしたときに使おうと思って、何も物を入れていない袋を、カバンに入れておいたんだけど。それにクッキーを入れていたんだ。だからカバンの中は、クッキーまみれになっていなかったよ。
「ただ、力は分かっても、どういう奴らかまではな。あの偽造の身分証を見て驚いたぜ。まさか俺の探していた冒険者が、お前たちだったとはな」
ケロケロたちのことは、本当に耳にしてたみたい。そして話したいと思っていたことも本当で。理由はさっきから言っている通り、ドラゴンの脅威から街を守るためね。それから聞いてみたかったって。どうして断ったのか。何のことかといえば……。
『普通は皆、冒険者ランクを上げたがるのに。お前たちはその説明お途中で、ギルマスが席を外したうちに消え、そして戻ってこなかったって言うじゃないか。SとかSSの面倒なランクじゃなく、まぁまぁ自由に動け、それこそ下のランクと違い金が稼げるのに、何でランクをあげなかったんだ、ってな」
この世界の冒険者は、ライトノベルに出てくる冒険者と、ほとんど同じようなものらしい。冒険者とは? みたいなのが本に書いてあって、読んでもらったんだ。
各街に冒険者ギルドというものがあって。冒険者になるには、まずそこで登録する必要があり。登録が済めば、依頼を受けたり、魔物を倒したり、遺跡を探索したりと、いろんなことに挑戦できる。
それから冒険者にはランクがあって。E、D、C、B、A、S、SSの七段階に分かれていて。誰でも最初はEランクからのスタート。依頼をこなして実績を積めば、少しずつランクが上がっていく仕組みになっているって。
強くなりたいとか、有名になりたいとか、目指すものは人それぞれ。ただ、年に何回かは、絶対に依頼をしないといけないって決まりもあるみたい。それをやらないと冒険者カードが失効しちゃうって。まぁ、それでも、失効したらお金を払って、再登録できるらしいけど。
というかね、ここまで本で読んでもらっていたんだから、自分達も冒険者だって、言ってくれれば良かったのに。そうしたらもっといろいろ質問したのにさ。
時々ケロケロとグレイスは、大事な事を話してくれないんだよな。当たり前すぎのことが多いから、いちいち言わなくて良いと思っちゃうのかな?
それで話は戻るけど、今ケロケロたちはBランクの冒険者。そこでこの前クリスタルドラゴンを討伐したから、Aランク冒険者にならないか。他の条件をクリアすれば、すぐにAランクになれるって、冒険者ギルドの偉い人が、ケロケロたちに話しをしていたみたい。
だけどケロケロたちは興味がないと言い。その話しの最中に、さっさとどこかへ行っちゃって。今ではケロケロたちが本当にいたのか? なんて噂まで出ているらしいよ。だからベルナードさんは、本当にケロケロたちがいるなら、何で断ったか、聞いてみたかったって。
「で、何で断ったんだ。……じゃないな。それは後で聞こう。今は先にこれを聞かないとな。……お前たちの本当の目的は何だ? 冒険者にまでなって、何をしようとしている。ここへは何をしに来た? その子供はどうしたんだ? その子供をどうするつもりだ」
たくさんの質問とともに、またベルナードさんの雰囲気が、ピリッとした緊張したものに変わる。
たぶんケロケロたちが魔獣だということは分かっても、なんの魔獣かまでは分からないんだろう。だけど、強い魔獣だということは伝わっているから。もしかしたらこの街で何かをするつもりで、面倒ごとを起こしにきたんじゃないかって、凄く警戒しているんじゃないかな?
それに私は……。人間の、しかもちびっ子。ほかに人の姿はなくて、魔獣とだけ一緒にいる。それはおかしいんじゃないか? もしかしたら、どこかから私を攫ってきて、私に何かしようとしているんじゃないか? そう思われているのかもしれない。
『……目的ですか。それに、いろいろと質問してきますね。はぁぁぁ、目的ですが、これといって大きな目的はありませんよ。今回はこの子のいろいろを、やるために来ただけですからね』
『そうだ。生活に必要な物を買いに来ただけだ。なにしろ我々は家族になったのだからな。家族のために買い物をするのは、当たり前のことだろう』
『とはいえ、全部の質問に答えないとダメそうですね。このまま逃げたところで、あなたはどこまでも追ってきそうですし。攻撃される可能性もある。そうなれば、この子たちが怪我をするかもしれませんから』
そうだった。ベルナードさんは、かなりの実力者らしい。変なことを言ったり、嘘がバレたりすれば、攻撃されるかもしれない。ちゃんと気をつけないと。
『とはいえ、今回は本当にこの子の買い物で、来ただけなので。その辺は後でもう少し話すとして。冒険者の方から話しましょうか。私たち冒険者になった目的でしたよね。それからクリスタルドラゴンのことを……』




