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青のともだち

作者: ごはん

旅先でふと立ち寄った水族館。

みおは人の少ない平日の朝、クラゲの水槽の前で立ち止まっていた。

光が差し込む青い水の中で、ただ浮かび、流されているだけのクラゲ。

澪の心も、似たようにどこにも引っかからず、ただ流れていた。


その日、水族館の奥のほうで特別展示が始まっていた。

「ジンベエザメとの共鳴—海の静けさを感じる体験」

という、小さな展示コーナーだった。


澪はなんとなく足を向け、壁に描かれたジンベエザメのイラストに目を留めた。

その穏やかで優しげな目に、ふと心がほどけるような気がした。

「なんでこんなに惹かれるんだろう」

自分でも理由はわからない。ただ、その場を離れがたくて、展示コーナーのベンチに座り込んだ。


そのときだった。

頭の中にふいに、過去の恋人との記憶がよぎった。

一緒に訪れた海、言葉よりも沈黙の多かった時間、

そして別れの朝――

でも不思議と、胸が痛まなかった。

「もう、これはいい思い出でいいのかもしれない」

そう思えた。


ベンチの横に置かれた小さなジンベエザメのフィギュア。

それは、どこかで見たことがあるような…

いや、たしか、自分のカバンにも同じものがついていたはずだ。


澪は静かに笑った。

「やっぱり、前から呼ばれてたのかもね」

海の深くで、誰かの心にそっと寄り添うように泳ぐジンベエザメ。

それは、自分自身だったのかもしれない。

誰かを包み、手放し、いまここにいる。

傷つけず、ただ、泳ぎ続けてきた。


その日以来、澪は水族館で見たジンベエザメの姿を、ふとした瞬間に思い出すようになった。

朝の空気の中で、電車の窓の青さの中で。

それはまるで、静かな再会のようだった。

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