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TRANSBAUNDARY(トランスバウンダリー)  作者: きつねいたち
第1章 模範的な若者たち
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第7話 テッセラ大陸の辺境の山奥_2

 デイジーは小走りに少女のもとに駆け寄った。十代前半に見える少女に、彼女は気さくに声をかける。


 「可愛いお嬢さーん! ちょっと聞きたいことがありまーす!」


 「ちょっと、デイジー」置き去りにされた百日紅が、慌ててデイジーを追いかける。


 淡い野花に囲まれ、純白のワンピースで体操座りをする少女が振り返る。艶やかな長い黒髪に、純白のワンピース姿の少女は、純朴な顔立ちであどけなさに満ちていた。少女は驚いた様子で2人に視線を向け、近づいてくる2人に見られないよう素早く、片手を湖畔に向けて軽く振る。


 「思ったとおり可愛いー。あ、2人いたんだね!」


 ビーチサンダルでほとりに辿り着いたデイジーが、黒髪の少女の背後に、別の存在がいることに気づく。


 黒髪の少女の背に隠れるように、茶髪の少女が怯えたように座っていた。10歳前後の2人の少女は、非常によく似た顔立ち、よく似た背格好。茶髪の少女も、白いワンピースに可愛らしい花冠を纏っている。


 「ふたりはこのあたりで・・・」快活に口を開いたデイジーが、一瞬言葉に詰まる。湖畔に視線を移し、心底嬉しそうに破顔する。彼女が小さくガッツポーズをする様子に、百日紅が気づく。「このあたりで、その花冠を作ったの?」


 「え、あの」2人の少女が顔を見合わせ、黒髪の少女が答える。「は、はい」


 「すごく綺麗。似合ってるね」


 デイジーが中腰になって少女たちと目線を合わせ、優しい笑みを浮かべる。デイジーが自然な動作で、茶髪の少女の花冠に触れようと手を伸ばす。淑やかで内向的に見える黒髪の少女が、咄嗟にその手を払い、震える茶髪の少女を守るように抱きしめる。


 「ご、ごめんなさい。用事があるので、失礼します」


 黒髪の少女がそう告げ、デイジーと百日紅の羽織る黄色のマントを一瞥し目を逸らす。二人は形式的に頭を下げて足早に立ち去る。純白のワンピースの少女たちが、夕焼けの映える湖畔に沿い、野花の咲くほとりを並んで歩く。その様を感慨深げに見つめるデイジーに、百日紅が不思議そうに声をかける。


 「”ふたりはこのあたりで、多民族と遭遇したことはありますか?”とか聞くのかと思った」


 立ち上がったデイジーが百日紅に向き直り、可愛らしく小首をかしげる。


 「んー? なんでー?」


 「なんでって・・・」


 「何のために聞くの? 今日中に本部に帰還する算段は、もう整ったのに」


 デイジーがマニュキアの映える長い指で、少女たちの後ろ姿を指さす。


 穏やかな湖畔沿いを、黒髪の少女と茶髪の少女が手を繋ぎ楽しそうに歩く。2人の仲睦まじい様子が、夕焼けと新緑の木々に彩られた湖畔に映る。


 少女たちの歩く湖畔、その水面には2つの生物が映っている。


 1つは花冠を乗せた黒髪のワンピースの少女。もう1つは、黒髪の少女と同じ背丈で真っ白のワンピースを着た、茶色い体毛の2足歩行の海鳥。ぎょろりとした威圧感のある目に大きなくちばし、羽に覆われた両手に、アンバランスに細く長い2本の後ろ足。海表族の子供と思しきそれは、片手で花冠を愛おしそうに何度も撫でた。もう片方の手で黒髪の少女の肩を抱き寄せ、にこにこと笑う。


 「今夜は自分の部屋のベッドで、ぐっすり寝れそうだね」


 デイジーが笑顔で伸びをする。


 驚きと焦りに満ちた表情を浮かべた百日紅が、湖畔の水面からあぜ道に視線を移す。

畦道、大好き。

トトロ、大好き。

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