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TRANSBAUNDARY(トランスバウンダリー)  作者: きつねいたち
第1章 模範的な若者たち
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第4話 地表同盟のリクルート・イベント / テッセラ大陸の首都・ラダ_3

 薄暗い壇上では、強烈なスポットライトが一人の青年に当てられている。堂々とした立ち振る舞いで演説を行う20代後半の青年が、百日紅やデイジーの近くに等身大で投影される。 


 ”入盟希望の皆さんは、すでにご存じだとは思いますが”


 立体映像と同じく、音声もデイジーの腕時計から発せられる。聞きなれた青年の冷たい声音に、百日紅がげんなりとした表情を浮かべる。


 立体映像の長身で細身のスーツ姿の青年は、百日紅たちと同じく黄色の外套を羽織っている。彼は肩までの長さの青い髪をひとつ結びにし、ハンカチで時折額を拭う。切れ長の目に鼻筋の通った理知的で端正な顔立ちの青年は、縁なしの眼鏡を中指で上げた。


 ”他民族は敵です。敵は排除し、不安要素は淘汰する必要がある”


 立体映像の中できっぱりと言い切る青年の声に、ピアスをいじる百日紅の目が泳ぐ。


 ”その敵勢力に対抗する組織の創立、それがこの『地表同盟』の成り立ちです。そして、本部は7つ目の大陸であるここテッサラ大陸の首都、ラダにあり・・・”


 青年の背後に、グリニッジ子午線を中心とした世界地図が投影される。南極が上、北極が下の上下さかさまの世界地図には、大陸名が大きく記載され、後方の席にも見やすいよう壇上いっぱいに広がる。


 世界地図には、『ユーラシア大陸』、『アフリカ大陸』、『北アメリカ大陸』、『南アメリカ大陸』、『オーストラリア大陸』、『南極大陸』の他に、『テッサラ大陸(the Tessera Continent)』と書かれた7つ目の大陸が描かれている。テッサラ大陸は北大西洋(ヨーロッパ、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸の間の海洋)の中央に位置し、大きさは南極大陸より小さく、世界最小の大陸。テッセラ大陸の形は凹凸が少ない楕円型で、その中心に『Capital : Lada (首都:ラダ)』と首都が示される。


 観客たちは驚きもなく世界地図を眺め、青年の言葉の続きを待つ。


 ”ご存じの通り、『地表同盟』は5つの省から成り立っています。そのうち4つの省は特定の民族との折衝・交易を担います。資源や食料の購買や越境規制、他民族との交流や条約の締結などを主業務として・・・”


 青年が背後の真っ暗な空間に手をかざす。


 


 『地表族保護省/Department of the Surface』


 『対地底族省/Department of the Subterranean Affairs』


 『対天空族省/Department of the Firmament Affairs』


 『対海表族省/Department of the Float Affairs』


 『対海底族省/Department of the Cryptid Affairs』


 の文字が、組織図とともに浮かび上がる。




 そして、”残りのひとつが、地表族保護省。こちらは地表族(=人間)や地表同盟の加盟国(日本、アメリカ、中国など)の安全の確保や統制を行います”という青年の言葉とともに、『地表族保護省/Department of the Surface』の文字が最後に舞台に浮かび上がった。


 客席の若者たちは、青年の自信に満ちた立ち振る舞いに息を飲み、舞台上を見つめる。


「リコリスさん、やっぱり口が上手いな。長所とメリットばっかり、でかい声で話してる」


控え室で立体映像を見つめていた百日紅が感心したように、壇上の青年に視線を送る。


 「顔もいいよ」手鏡を熱心に見つめながら、デイジーが食い気味に割って入る。「見た目と世渡り上手さだけでスピード出世してるって、リコリスさん本人もよく言ってるじゃん」


 「ちょっと」近くのソファーに座っていた三つ編みの少女が、2人の会話に割って入る。「ボスをからかっちゃだめだよ。この小隊のトップなんだから。あとで怒られるよ」


 「でもほんとのことだよー?」


 「ほんとのことだから、人は怒るんだよ」


三つ編みの少女がむっとした表情で、コーヒーゼリーを食べる。


 「あはは。ばれないってー」


 デイジーが腹を抱えて笑い、足を組み替える。


 デニムのショートパンツからのびる肉感的な太ももや、タンクトップからのぞく胸元の深い谷間に、百日紅の視線が無意識に向かう。百日紅は焦ったようにピンクの髪を触って咳払いし、演説を続けるリコリスの立体映像に視線を逸らす。


 ”そして私、リコリスは対地底族省に所属しています。先程のやんちゃそうな若者、百日紅も同じ所属で、対地底族省は黄色の外套を着用します。主な任務は、地底族たるモグラの動向の監視をはじめ、好物や地下エネルギーの輸入、それから地表で収穫された野菜や虫の輸出の管理など・・・”


 リコリスの予定調和で面白みのない演説が続き、デイジーが飽きたように伸びをする。その拍子に、左手に付けた腕時計がソファーに擦れた。文字盤のない時計が一瞬光り、控室からホールへのマイクがオンに切り替わる。

設定を考えているときが一番ワクワクします。

読んでくださる方に理解していただけるような描写力をもっともっともっと磨きたい!

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