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サングラム  作者: 國崎晶
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俺と揺れるスカートのワルツ20




ピカピカと赤やピンク色に輝く光を見て、風子と悠葵ちゃんは歓声を上げた。陽が傾いて薄暗くなってきた頃、幽霊が取り出した花火セットを見てみんな手を叩いた。荷物もほとんど片付けて、あとは帰るだけという段階だった。

「キレイだね、風子ちゃん」

「うん、わたし花火するの久しぶり。悠葵ちゃんと同い年くらいの時に、おばあちゃんとしたっきりなんだ」

「わたしもみんなで出来て嬉しいよ!」

一本の花火を囲む二人のところに、両手に花火を持った幽霊が突撃して行った。「みんなで一斉につけようぜ!」などと提案している。

俺は一人きりになったよすがに近付いて、その隣に座った。一人でしゃがみ込んで線香花火はさすがに可哀相だろう。

「お前ははしゃがなくていいのか?」

「性分じゃありません」

「たしかに」

よすがの手の中の光がポトッと地面に落ちた。幽霊と風子は両手に火をつけた花火を持って、光で線を描くように振り回している。悠葵ちゃんは二人の間を飛び跳ねたり光の下をくぐったり、三人は踊っているようで楽しそうだ。

「さすがに疲れたなぁ」

「遠出ですからね」

「でも来てよかったな」

線香花火の燃えかすを指先でいじっていたよすがが、それをピタリと止めてこちらを見た。俺の目には光と共に舞う三人がまだ映っている。

「想い出作りですか?悠葵殿の」

「そんなつもりじゃねーよ」

「いつ離別してもいいように」

「お前はそんなつもりだったのか?」

首をひねると、思いの外目の前によすがの瞳があった。宇宙みたいな色に俺の間抜け面が浮いている。

「……そういうわけではありませんよ」

今度はよすがが視線を逸した。今の三人の姿をどんな感情で見ているのだろう。

「ですが、いつかは迎える結末です」

「成仏させればいい。栗生に頼めばできるだろ」

「そうでしょうね。あの者のやり方なら悪霊にはならないでしょう」

よすがの指先から線香花火が滑り落ちた。ついさっきまで儚げな美しい光を放っていたのに、こうして砂の上を転がる姿はただのゴミだった。

「いつ頼むんですか?明日にも悪霊になるかもしれないのに」

俺は何も答えられずに黙っていた。口ではなんとでも言える。でも心の準備はまだ出来ていない。成仏させるってことは、殺すってことだ。風子から大事な友達を奪うってことだ。

「出来もしないことを言うものではありません」

「はは、ほんとに言った」

俺の反応によすがはクエスチョンを浮かべる。

「さっきあいつに言われたんだよ。出来ない約束なんてしない方がいいって、よすがなら言うだろうって」

「……出来ない約束をしたんですか。誰と」

「別に。俺が天国に行ったら好きなもの食わしてやるって言っただけだ。悠葵ちゃん、俺達がバーベキューしたりしてるのが羨ましいみたいだったから」

俺の説明によすがは何も言わなかった。しばらく待ってみたが本当に一声も反応がなかったので、はしゃぐ三人をただただ並んで眺めていた。俺達の視線に気がついたのか、幽霊が大きく手を振って叫ぶ。

「おーい!二人もこっち来いよー!」

俺ははしゃぐ気になれずその場から動かずにいた。そんな俺を見てか、一拍置いてからよすがが腰を上げる。立ち上がって、こちらを振り返った。俺は影が落ちたよすがの顔を見上げる。

「優しい言葉は必ずしも相手を癒すわけではありませんよ」

それだけ言うと、俺の返事も待たずに三人の方へ駆けていった。俺はすぐ隣に落ちていた線香花火の燃え残りを摘み上げ、指先でくるくると回してみる。じゃあどんな言葉が正解だったんだ?視線の先で、先端同士で花火の火を分け合ったよすがと風子が微笑みあっていた。





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